「おじさんの話を若くきれいな女性が聞く」テレビ番組出演者の傾向を分析する
「おじさんの話を若くきれいな女性が聞く」テレビ番組の傾向
「報ステ」こと「報道ステーション」のWEB用のCMが話題になった。これは必ずしもこの番組だけの話ではない。いま、テレビ番組におけるダイバーシティが問われているのではないか。
2月末に開催された放送業界のシンポジウムを配信で聴講した。日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)とメディア総合研究所が主催し、『もう、変えよう 「オトコ」目線のメディア』のタイトルで開催されたものだ。登壇者それぞれから貴重な発言が出た中で、大学生5名によるプレゼンパートにひときわ興味を惹かれた。中でも、女性の大学生Aさんによるプレゼンは、事前に調べたデータをグラフ化して見せてくれ、主張も整理された立派なものだった。
2月27日(シンポジウム当日)のNHK総合と民放キー局を合わせた6つのテレビ局の番組(ドラマ除く・15分以上・4:30-24:00)を事前に調べ、その出演者の年齢と性別をデータ化していた。それが冒頭のグラフで、女性は20代から30代前半が多く、男性は40代から70代まで広がっているのがひと目でわかる。
Aさんはテレビ番組には「おじさんの話を若くきれいな女性が聞く」傾向があるのではないか、とグラフを示して問題提起した。
日ごろからメディアについてデータを取って分析している私としては、丁寧な作業で出したデータとそれに裏打ちされた主張をする態度にいたく感心した。お願いしてコンタクトし、グラフを記事に使いたいことと、同じ考え方で1週間の番組を調べてみたいことを申し出て、了承してもらった。Aさんのメディアへの意見も聞いたのでお伝えしたいが、まずはその考え方を拡張して1週間分の番組で作成したグラフを見てもらいたい。
ある調査会社に依頼して、2月22日(月)から28日(日)までの1週間、NHK総合と民放キー局を合わせた6局の、5時から24時までに放送された番組(ニュース報道・情報ワイドショー・バラエティの3ジャンル)の情報から、主な出演者を独自に集計してもらった。Aさんの調査を27日を含む週全体に拡張したことになる。(街頭インタビューの相手など出演者情報にない人物はカウントしない。出演数は「延べ」で、同じ番組に月〜金で出演していると5回とカウントした。)
まず番組全体のグラフだ。大まかにはAさん作成の27日のみのグラフと似た結果になった。男性の山が30代にもあるのは、土日の番組が影響しているのだと思う。いずれにせよ「おじさんの話を若くきれいな女性が聞く」傾向にやはりなっている。
ジャンルごとのグラフを並べて見てもらおう。
「おじさんと若い女性」の傾向はどのジャンルにも出ているのがまずわかるが、少しずつ違うのが興味深い。
意外にも「ニュース報道」の分野が「おじさんと若い女性」の傾向がもっとも如実に出た。
女性は明らかに20代が中心で、35才に最後の山がある以降は極端に出演数が減る。男性は若い層では少ないのが40才前後から増えてきて60代までしぶとく続く。中年の男性がメインキャスター、華を添えるように20代の女性がいて、ご意見番の60代男性が鎮座する傾向が示された。
ニュースではジェンダーの問題を最近よく扱い、企業の管理職に女性が少ないことや、五輪の組織委員会での森氏の発言を批判し、女性委員の数を報じたりする。他の組織のことを批判している場合ではない。自分たちのダイバーシティこそ見直すべきではないのか。「報ステ」CM炎上の背景もこんなところにある気がする。
「情報ワイドショー」も似たり寄ったりではある。多少「ニュース報道」より偏りが小さいかもしれない。面白いのが、女性の山が24才にある点だ。「ニュース情報」では30才に山があった。女性アナウンサーが入りたては情報番組で修行し、その中からニュース番組に抜擢される流れがあるのではないか。さらに独立すると30代まで活躍するわけだ。加藤綾子と小川彩香が同じ35才なのが象徴的だ。
ちょっと違うのが「バラエティ」だ。男性の山が他のジャンルより若い層にもある。これは最近、テレビに出演する芸人が前より少し若返っているためだと思われる。「コア視聴率」と呼ばれる、これまでより若い層をテレビ局が意識し始めたせいだろう。「第7世代」と言われる20代後半もそこそこの山になっている。ただ、40代から50代までしっかり活躍しているのもグラフでわかる。やはりバラエティの世界でも中高年タレントが多い。女性は20代にはっきり山があるのは、第7世代の女性芸人の活躍もありつつ、バラドルと呼ばれる女性タレントが中心だ。「おじさんの話を若くきれいな女性が聞く」構図はバラエティでも同じなのだ。
若い人びととマスメディアは信頼関係を結べるか
ところでAさんはテレビ番組についてなぜ注目したのか、聞いてみた。彼女は5年間のアメリカ在住経験があり、いまでも英語圏のメディアに触れる機会が多いそうだ。日本のテレビ番組はあまり見ていなかったのが、コロナで在宅生活を強いられて自然と見るようになった。まず政府の記者会見に黒いスーツの男性記者たちばかりが並んでいることに驚愕したという。ホワイトハウスの会見では、鮮やかな装いの女性の記者の姿は全く珍しくないため、違いが際立って感じられた。ジェンダーに関する認識を含め、日本のテレビ番組やその他のメディアが抱える問題の多さに気づいたそうだ。
またエンタテイメント業界の違いも実感している。
「英語圏では、若者にとってポップカルチャーと政治の境目がほとんどなくなってきていると思います」と彼女は言う。例えばミュージシャンや俳優などのアーティストたちが政治についてのメッセージも発言する。ファンたちもその発言も含めて支持しているし、逆に発言に納得がいかないとSNSなどを通じて明確に異を唱える。
アメリカではアーティストたちのパワーをファンが支えている実感があり、そのパワーを背景にアーティストたちは自分の行動を自分で決める。言われてみると、日本では「事務所」の力が強いせいかタレントたちが自分の意志をあまり示さない傾向があるようだ。
日本は若い世代の政治への関心も低く、メディア側もそれに合わせてレベルを下げているように私には思える。そう言うと、彼女はこう言った。
「日本の若者の政治に対する意識がまだ高くないからメディアもまだ変わる必要はない、とは思いません。メディアの方から視聴者を育てる意識を持ち、若い世代とメディアが信頼関係を築ければ、日本社会全体にとって有益だと信じています。」
なるほど、その通りだ。Aさんは日本のマスメディアを敵対視しているわけではない。むしろ、ソーシャルメディアが台頭する中で、マスメディアの重要性を実感しており、今後の変化に期待している。そんな思いでグラフを作成したことがわかった。
テレビ番組の出演者の構図は、いまの日本社会の縮図かもしれない。中高年の男性が強い発言力を持ち、若い層の意見は見えてこない。「きれいな女性」がわきまえて中高年男性の話をニコニコ聞いていればかろうじて存在が浮上する。
そんなことをやってきたからマスメディアは若い層に見離されつつある。いま一度、信頼関係を築こうとすべきだし、そのためにはダイバーシティを見直さなければならないのだ。テレビは、いや新聞も含めたマスメディアは生まれ変われるのか。その鍵は、若い世代との関係構築にあるのだとAさんに教わった気がする。