プラごみ喰い人類の誕生前史。クローネンバーグの『未来の犯罪』
プラスチックのごみ量で日本は世界2位らしい。グリーンピースのホームページを見ると、プラごみの深刻な影響がいくつも指摘されている。
環境問題はスパンが長いので、甚大な被害をこうむるのは未来の世代ということになる。私はもう死んでいて関係ないが、私たちの子供や孫は苦しみ続けるのだ。
そんなプラごみが見せる暗い未来に解決策はないのか?
■プラごみ喰い人類に進化する
リサイクル?
否、プラごみを食用とすることこそが究極の解決策であり、食糧問題も解決して一石二鳥である、と考えたのが、デヴィッド・クローネンバーグであり、彼はそれを人類の進化として位置付けた。
内臓を手術でいろいろいじってプラごみ喰いの改造人間を作ってもいいのだが、それでは結局、製造過程で限りある資源を喰いつぶすことになるから、解決策にはならない。
人類が進化してプラごみ喰い人類に生まれ変わり、我われの胎内で再生産した新人類がプラごみを喰い尽くしてこそ、解決策になる。
■人類を組み込んだ究極の「持続可能」
「プラごみ喰い人類」。素晴らしい響きだ。
環境問題の難しいところは、環境に優しい新製品に優しくない製造コストがかかることと、買い替えによって優しくない旧製品廃棄コストがかかることだ。
これらをどう見積もるか?
ランニングコスト(例えばCO2排出量)だけが環境に優しくとも、製造コストと廃棄コストを含めたトータルで環境に優しくなければ意味がない。
その点、「プラごみ喰い人類」はトータルで環境に優しい。
プラごみを食べた人がプラごみ喰いの子を産む。その子がプラごみを食べながら成長しプラごみを食べる子孫を残し、人類は繁栄する。
「プラスチック製造→プラごみ排出→プラごみを食べる→プラごみ喰い人類を増やす→プラスチック増産」という、人類が組み込まれたリサイクルの輪の完成である。
これを「持続可能」と呼ばずして何と呼ぼう!
■「外科手術は新しいセックスね」
とはいえ、クローネンバーグがそんなエコ作品を撮るわけがない。人類礼賛のお話にするわけがない。
『未来の犯罪』――原題『CRIMES OF THE FUTURE』――は、その誕生前史である。
人類がそう進化するとしたら、そのプロセスで何が起こるのかを、彼なりの奇抜かつ不健全な視点で、機械技術と有機物が融合したクリーチャー兼マシンがたくさん出てくる世界の中で、描いている。
ネタバレしてはいけないので、作中の面白いキーワードやセリフから強烈なクローネンバーグ臭を感じてほしい。
「苦痛のなくなった世界」、「新内臓特許登録」、「外科手術は新しいセックスね」、「クリエイティブな肉体」、「新悪徳担当刑事」、「芸術は創造であり、内臓創造は芸術である」、「ボディーアーチスト」、「内面の美コンテスト」、「無機能新内臓部門の最高賞」、「私の顔にも開口部が欲しいの」、「醜さを求める形成外科」、「あなたの黒い穴から出て来る憧れの光」、「朝食専用椅子」……。
まったくわけがわからない、と思う。
だが、クローネンバーグの世界に耽溺する、というのはそういうことだ。わけがわからないが面白そう、と思った人はぜひ見てほしい。
※写真提供はサン・セバスティアン映画祭
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