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【大河ドラマ光る君へ】清少納言が「香炉峰の雪はどうであろうか」と中宮定子に問われて御簾を上げた訳

濱田浩一郎歴史家・作家

大河ドラマ「光る君へ」第16回は「華の影」。一条天皇の中宮・定子(977〜1001)が、女房として仕える清少納言(以下、納言と略記することあり)に「香炉峰の雪はいかがであろうか」と問いかけ、納言が御簾を上げるシーンが描かれました。これは納言の随筆『枕草子』(283段)に描かれている逸話であります。雪がとても高く降り積もったある日のこと。定子に仕える納言始めとする女房たちは、格子を下ろして、炭櫃に火を起こし、御前に祗候していました。そうした時、中宮・定子が「少納言よ。香炉峰の雪はどんなであろうか」と問いかけたのです。そのお言葉を聞いた納言は、他の女房に格子を上げさせたうえで、御簾を高く巻き上げたのでした。それを見た中宮はニッコリと微笑まれたと言います。周囲にいる女房たちは「(白楽天の)その詩句は知っていて、歌などにまで読み込むのだけれど、中宮様の謎かけとは思いもしなかった。すぐに御簾を上げた少納言のように、やはり、中宮様にお仕えする人としては、そうあるべきなのだ」と納言の対応に感心したということです。

これが『枕草子』における「香炉峰の雪」の概要です。納言は自らが称賛されたことを著書に書いているのです。余程、嬉しかったのでしょう。逸話の中に登場する白居易(772〜846)は、唐の時代の詩人です。彼は現在の江西省に左遷されます。香炉峰(中国は江西省九江県西南にある廬山の北峰)の麓に居を構えるのですが、その時「香炉峰の雪は簾を撥(かか)げて看(み)る」との詩を詠むのでした。中宮・定子が「香炉峰の雪はどんなであろうか」と問いかけ、清少納言はそれに対し、御簾を高く巻き上げて応えたのは、白居易の詩に倣ったのです。定子と納言が教養と機知に富んでいたことがよく分かる話であります。

歴史家・作家

1983年生まれ、兵庫県相生市出身。皇學館大学文学部卒業、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『北条義時』『仇討ちはいかに禁止されたか?』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)ほか著書多数

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