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SIDSについて、今分かっていることとは?

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(写真:イメージマート)

乳幼児突然死症候群(SIDS)とうつぶせ寝が先日ネットでちょっとした話題になりました。その中で「うつぶせ寝は本当にリスクなのか?」という意見を見かけました。これは小児救急に関わる者として看過できません。うつぶせ寝防止キャンペーンで近年多くのSIDSを防ぐことができた明らかな歴史があるからです。

また、ネットでSIDSと検索すると、「原因不明」とか、「突然亡くなる」、というワードが目に飛び込んできます。これは保護者にとって、とても大きな不安を引き起こします。正確な情報を知ることで「過度な不安」を減らせるかもしれません。

そこで今回は、SIDSについて現時点で分かっていることを記事にまとめてみました。

SIDSの発症は生後2~6か月に多い

SIDSは「それまで健康状態及び既往歴からその死亡が予測できず、しかも死亡状況調査及び解剖検査によっても原因が同定されない、原則1歳未満の児に突然の死をもたらした症候群」と定義されています[1]。日本での発生頻度は出生6000~7000人に1人で、生後2~6か月に多く、まれに1歳以上で発症することもあります。

その歴史は古く、旧約聖書のソロモン王の章に、眠っている間になくなった赤ちゃんをめぐって母親同士が争い、ソロモン王が仲裁する話があり、それが歴史上最初のSIDS事例とされているようです[2]。

50年前にはうつぶせ寝推奨キャンペーンも

あまり知られていませんが、うつぶせ寝防止キャンペーンが張られる前、1960年代には、世界的にうつぶせ寝を推奨する流れがありました。その歴史は浅くわずか半世紀ほど前のことです。その理由はうつぶせ寝の方が「寝つきがよい」「吐乳の頻度が少ない」「頭の変形が少ない」というものでした。当時はこれがSIDSのリスクになることが知られていなかったため、育児指導にも積極的に取り入れられていたようです[3]。

うつぶせ寝防止キャンペーンでSIDSは激減

しかし、今ではうつぶせ寝はSIDSのリスクであることが認識されています。日本では98年にあおむけ寝キャンペーンが開始されると発生率が顕著に低下し、97年に538名だった死亡者数は2008年に168名、2018年には60名と明らかに減少しました(厚生労働省人口動態統計より)。この効果は日本だけでなく世界的な現象で、オーストラリアでは、うつぶせ寝保育をやめるキャンペーンの結果、SIDS発生頻度(1000出生あたり)が90年までの3.8から91年以降は1.5に低下しました[4]。

発症は赤ちゃんの未熟な呼吸機能との関連が指摘

SIDSはどうして起きるのでしょうか。その発症機序は明らかではないものの、近年は赤ちゃんの呼吸機能が未熟であることとの関連が指摘されています。すなわち、睡眠時に、未熟な呼吸調節機能の結果引き起こされた無呼吸などの状況に対し、覚醒反射が適正に作動しないためではないかと考えられています[5]。

具体的には、軽微な低酸素状態や高炭酸ガス血症になると、ため息をついて、次いで頭部を挙上するなどの体動が出現し、最終的には覚醒してこれを回避しますが、この覚醒反射が起こらないことで、喘ぎ呼吸となり、徐脈を伴う低酸素状態から回復せずに死亡すると考えられています[6, 7]。

SIDSは単一ではなくさまざまな要因が重なることで起こる

SIDSを引き起こす要因は多様で、まだよくわかっていないことも多いですが、現在はTriple Risk Modelが提唱されています[8]。これは危険因子を一般的な要因(脆弱性:貧困・未熟性・性別・人種など)と月齢要因(自律神経の調節の発達段階)、促進要因(外因性ストレス:睡眠状態・体位・感染など)の3つに分類するものです。これらの要因が重なることで突然死が惹起されるとされていて、すなわち一つの要因だけで説明できるものではない、というものです。

タバコもリスク因子、逆におしゃぶりが発症を抑制するとの研究も

現在分かっている疫学データから導き出される説明として、SIDSのリスク因子となるのは次の通りです。

①うつぶせ寝での育児

②養育者(特に母親)の喫煙

③非母乳栄養

こう書くと、人工乳がリスクを高めるのか、と、母乳をあげられないお母さんの中にはご自身を責められる方もいるかもしれません。この点に関しては、母乳そのものの成分ではなく、母乳栄養児はより母子接触が多いからではないか、という専門家の意見があることを紹介しておきたいと思います[2]。そう考えると、人工乳で授乳されているお母さんも、少し気が楽になるかもしれません。

さて、そのほかにSIDS発症との関与が指摘されているのは次のようなものです。

①温めすぎ

②重い布団

③ベッドの周りにある柔らかい枕や玩具

④ソファー、柔らかいベッドなど

です。なお、おしゃぶりがSIDSの発症を抑制するという米国の研究(メタアナリシス)があることも付け加えてご紹介しておきます[9]。

SIDS発症を減らすために厚労省は2018年からSIDS対策強化月間を設け、ポスターなど制作しています

厚生労働省 SIDS対策強化月間 普及啓発ポスター
厚生労働省 SIDS対策強化月間 普及啓発ポスター

アメリカ小児科学会も、赤ちゃんを安全に眠らせるルーティンとしてポスターを作り、4つのポイントを紹介しています。

①ベッドに仰向けに寝かせる

②赤ちゃん用のスペースで寝かせる(ベビーベッドなど)

③固く平らなマットレスを使う

④寝かせている周りにモノを置かない(枕やおもちゃなど)

AAP  infographic  : Sleep routine for baby = peace of mind for you
AAP infographic : Sleep routine for baby = peace of mind for you

市販の無呼吸監視モニターはお勧めされない

最後に、あまりに心配で市販の無呼吸監視モニターを購入した方がよいのでは、と迷っている方もいらっしゃるかもしれません。

実は、早産児などハイリスクのお子さんは別にして、一般のお子さんにこれらのモニターの使用が予防に効果的というデータはありません。むしろそれを使用することで過剰に安心して観察がおろそかになるリスクがあります。またスイッチを切らずに抱っこしたりすればアラームが鳴るので、繰り返すうちに保護者がアラーム音を小さくしたりスイッチを切ったり、ということが起こり得ます。これらの理由から学会でも「SIDSを予防するための方法として家庭用心肺モニターは使わないでください」と最も強いレベル(Aレベル)の推奨事項としてコメントしています[10]。

先にご紹介したポスターの推奨事項などを参考に、できることをやっていただければと思います。ネットでSIDSと検索すると、「原因不明」とか、「突然亡くなる」、というワードが目に飛び込んできます。最初にも書きましたが、これは保護者にとってとても大きな不安を引き起こします。

今分かっている情報をお伝えすることで保護者の皆さんの安心に繋がればと願っています。

<参考文献>

1.厚生労働省SIDS研究班. 乳幼児突然死症候群(SIDS)診断ガイドライン(第2版). 2012 

2.仁志田 博司.うつ伏せ寝保育と乳幼児突然死症候群(1). 周産期医学, 2021.51(5): 799-801.

3.仁志田 博司.なぜ20世紀になって人間の赤ちゃんがうつ伏せ寝にされたか(1).周産期医学, 2021. 51(3): 481-483.

4.Dwyer T, et al. The contribution of changes in the prevalence of prone sleeping position to the decline in sudden infant death syndrome in Tasmania. Jama, 1995. 273(10): 783-9.

5.小保内 俊雅.乳幼児突然死症候群と睡眠. 外来小児科, 2020. 23(2): 226-232.

6.Ramirez JM, et al. Central and peripheral factors contributing to obstructive sleep apneas. Respir Physiol Neurobiol, 2013. 189(2): 344-53.

7.Kahn A, et al. Polysomnographic studies of infants who subsequently died of sudden infant death syndrome. Pediatrics, 1988. 82(5): 721-7.

8.FilianoJJ, KinneyHC. A perspective on neuropathologic findings in victims of the sudden infant death syndrome: the triple-risk model. Biol Neonate,1994. 65(3-4): 194-7.

9.Hauck FR, Omojokun OO, and Siadaty MS. Do pacifiers reduce the risk of sudden infant death syndrome? A meta-analysis. Pediatrics, 2005.116(5):e716-23.

10. THE AMERICAN ACADEMY OF PEDIATRICS POLICY STATEMENT:SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016,Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment. Pediatrics, 2016. 138(5).

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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