1コースで50種類もの野菜が食べられる!? 北アルプスの水だけを使う「野菜の魔術師」によるイタリアン
注目の新店が登場
まん延防止等重点措置が2022年3月17日に全国的に解除され、飲食業界も盛り上がってきました。今春に入って、新しいファインダイニングがたくさんオープンしています。
その中で、注目したいのが、表参道に2022年4月29日に開業した「JINBO MINAMI AOYAMA」。
なぜならば、「野菜の魔術師」とも称される神保佳永氏がオーナーシェフを務めるイノベーティブイタリアンだからです。
神保氏は、10年間フランス料理の研鑽を積んだ後にイタリア料理に転身したという料理人で、フレンチにもイタリアンにも熟知しています。2010年に「HATAKE AOYAMA」を立ち上げ、江戸野菜をイタリアンに取り入れたことでひときわ耳目を集めました。
その神保氏が長年あたためてきた構想をようやく具現化することができたのが、このレストラン。スターシェフが満を持して開店したとあって、早速注目されています。
「JINBO MINAMI AOYAMA」は、どのようなレストランでしょうか。
スペシャリテが体験できるディナーコース
提供されているのはコースのみ。ランチコース(7,480円、税込・サ別)は5皿構成、ディナーコース(17,000円、税込・サ別)は10皿構成になっています。
是非とも味わっておきたいのはディナーコース。神保氏のスペシャリテが味わえる上に、品数が多くて様々な体験ができるからです。
代表的なメニューをいくつか紹介しましょう。
新玉ねぎ 蕗の薹 リンゴ
山菜のおいしい時期に、フキノトウを用いたアミューズ。天然酵母のかたいパンの上に、新タマネギと北海道産フキノトウのコンフィ、リンゴのジャムを重ね、仕上げに豚の塩漬けとエディブルフラワーをあしらいました。フキノトウのほろ苦さと、フレッシュな新タマネギの滋味、豚の塩漬けの塩味が見事に諧調しています。
発酵トマト 水牛のモッツアレラチーズ いしる バジル
カプレーゼをモダンに仕上げた冷前菜。神保氏が日本の発酵食品を入れたいということで、5日間発酵させたトマトを用いました。モッツァレラチーズ、トマトのジュレ、バジルのカプレーゼに、山椒のピューレと魚醤「いしる」を合わせた意欲作。日本らしいアクセントと旨味が加えられています。
培う互いのきずな
東京都や石川県、熊本県などにある7つの農園から届けられた、30種類もの旬野菜を用いた神保氏のスペシャリテ。野菜のバーニャカウダを再解釈し、洗練された野菜料理に仕上げました。
野菜は、煮たり、茹でたり、焼いたり、3日間ぬか漬けにしたりと、それぞれに最適な方法で調理しています。野焼きをイメージした燻製のジャガイモ、低温調理したナス、澄ましバターで炒めたカリフラワー、ノコギリソウやアマランサス、ピーテンドリルなど、野菜の枚挙に暇がありません。混ぜて食べると、なめらかなバーニャカウダが全体をまとめてくれます。
プレゼンテーションも秀抜です。最初に、上蓋にたくさんのフレッシュハーブがのせられた器が提供されます。次に上蓋が外され、ハーブと野菜のチュイールがのせられ、最後に太白胡麻油とハーブの温かいソースがかけられました。何が起きるのかとワクワクさせられる展開です。
グリーンアスパラガス 気仙沼フカヒレ 雲丹
栃木県のアスパラガスを主役にしたスパゲッティ。アスパラガスは根本、真ん中、穂先で調理方法を変えて、まるごとおいしく食べられるようにしています。気仙沼のヨシキリザメの尾ビレを加え、北海道根室産ウニをのせました。仕上げに削ったパルミジャーノ・レッジャーノとオリーブオイル。ニンニクがほのかに香り、鷹の爪が心地よい風味です。
熟成あか牛 新ジャガイモ 花ズッキーニ タジャスカオリーブ
熊本県の褐毛和牛であるあか牛の外モモを丁寧に炭火焼きしました。肉はやわらかく、深みのある和牛香が口の中に広がります。
花ズッキーニのチャツネと、品質に定評のあるイタリア・タジャスカ産オリーブを発酵させたペースト、ジンジャーのコンフィに赤ワインソースが添えられ、味の変化を楽しめるのもよいでしょう。
ヴァローナ マンジヤリ トルタ 鶯嬌 エディブルフラワー エキゾチック
ヴァローナのマンジャリチョコレートを用いたタルト。冷たいチョコレートと温かいチョコレートのコントラストが賞味できます。下にはマンゴーとパッションフルーツのエキゾチックソース。液体窒素でフリーズさせたエディブルフラワーをまとっていて色彩が鮮やかです。ウイキョウの根を用いたコンポートがカリカリとして心地よい抑揚。
最後の飲み物
最後のドリンクではコーヒーか紅茶を選べます。
コーヒーは茨城県のサザコーヒーに独自ブレンドしてもらった豆を使用。サードウェーブのような酸味のある豆ではなく、ほろ苦さがあって余韻に残るコーヒーに。紅茶は茨城県のさしま和紅茶。日本ではただでさえ生産量が少ない和紅茶の中でも、評価の高い一品です。
野菜を堪能できる
「JINBO MINAMI AOYAMA」の珠玉のメニューを紹介しました。ここで改めて特筆したい点を挙げていきましょう。
最初に挙げたいのは、「野菜の魔術師」とよばれる神保氏の料理らしく、たっぷりの野菜が味わえること。ひとつのディナーコースだけで50種類もの野菜が食べられることは、なかなかありません。
しかも、ただ単に野菜をたくさん用いているだけではなく、それぞれに最適な調理法とコンディメントを合わせて、野菜のポテンシャルが最大限に引き出されています。こういったことができるのも、野菜に造詣の深い神保氏ならでは。
ワインのラインナップ
ワインのバランスもよいです。イタリア各地のワインが中心で全体の50パーセント。ブルゴーニュなどフランスのワインが20%、ニューワールドが20%、日本のワインも用意されています。
料理のテロワールに寄り添うイタリアワインが中心ですが、他にもフランスの王道ワインからニューワールド、日本ワインまで用意されているので、好みのワインをペアリングできることでしょう。
特製のテーブルウェア
テーブルウェアにも神保氏のこだわりが感じられます。
多くの一流料理人から支持されている有田焼のカマチ陶舗に、20以上ものオリジナルの器を焼いてもらいました。
30種類の野菜を用いたスペシャリテの「培う互いのきずな」の器は、料理を考案してからデザインしてもらったという磁器。料理と器の相性が抜群であるだけに、プレゼンテーションも映えるはずです。
パスタや肉料理に使われている白磁器は、フランス・リモージュのジャン・ルイ・コケ。カトラリーは神保氏が気に入っているクチポールのノールシリーズです。メインの肉料理には、ナイフで有名なフランスのラギヨールを用意。
様々なテーブルウェアで食事を楽しめます。
居心地のよい店内
店内の居心地も非常によいです。ファサードを構成するのは、左官の壁に温もりのあるウッディなドア、そして、高級感のある店名が記された真鍮のプレート。外からもガラス窓からキッチンの様子が見えて、臨場感があります。
ドアを開けると、奥まで続くアプローチがあり、オーストラリアの画家に描いてもらったという森をイメージした絵が飾られていて、穏やかな気持ちに。
メインダイニングは丸テーブルも置かれたゆったりとした空間で、木目調のやわらかな雰囲気の中でメタルアートの質感がよいコントラストです。個室も設けられているので、用途が広がります。
水にもこだわりがある
神保氏はまだ他にもこだわりがあるといいます。
「店内でお出しする水も、調理で使用する水も、長野県信濃町の北アルプス源流からの天然水です。6つほどある湧き水の中から厳選しました。やわらかい味わいで、軟水ですがミネラル感もあって、野菜の繊細な味わいに寄り添います」
食材、テーブルウェア、アートに加えて、水にまでこだわった「野菜の魔術師」のイタリアンレストラン。「JINBO MINAMI AOYAMA」は今年の注目店になることは間違いありません。