豚骨ラーメンの人気店から豚骨が消えた

名古屋で創業し福岡に移転してきた『ざいとん」。店前には屋台風のスペースもある。
名古屋で創業し福岡に移転してきた『ざいとん」。店前には屋台風のスペースもある。

 福岡は言わずと知れた豚骨ラーメンの街。博多ラーメンや長浜ラーメンなど、全国にその名が知られる福岡のご当地ラーメンはいずれも白濁した豚骨スープの豚骨ラーメンだ。そんな福岡で人気の豚骨ラーメン店のメニューから豚骨ラーメンが消えた。店の名前は『ざいとん(座射豚)』(福岡県福岡市東区香椎駅前1-17-24)。創業から10年以上の歴史を持つ人気店だ。

 店主の橋本卓哉さんは愛知県生まれ。高校生の時に名古屋で食べた豚骨ラーメンに衝撃を受け、ラーメンの世界を志した。20歳の時にラーメンの世界に入るも、一度は離れて別の仕事に。しかしラーメンへの想いが捨てきれずに仕事を辞めて、福岡行きの夜行バスに飛び乗った。

 「本場の豚骨を勉強したいと思い、福岡に来て2週間ホテルに泊まって、毎日ラーメンを食べ歩きました。それから修業先を見つけ、ラーメン修業をはじめました」(ざいとん店主 橋本卓哉さん)

 老舗ラーメン店など2軒で一年半本場福岡の豚骨を学び、名古屋に戻ってさらに博多ラーメン店での経験を経て、2009年に地元名古屋で豚骨ラーメン店『ざいとん』を創業。豚の頭骨だけを使いながらも、臭みのないクリーミーなオリジナルの豚骨ラーメンは、名古屋の人たちに受け入れられて人気店となった。

 オープンして5年が経ち、豚骨の本場である福岡で勝負したいという思いが湧いてきた橋本さんは、意を決して2014年に名古屋から福岡へ移転。その時、豚骨ラーメンの他に新しくメニューに加えたのが、豚骨ではないあっさりとした味わいの「中華そば」だった。

 「福岡の人は豚骨ラーメンしか食べていないイメージだったので、違うラーメンも食べて欲しいという思いから中華そばを始めました。最初は見向きもされませんでしたが、徐々にリピーターが増えていきました」(橋本さん)

勇気を振り絞って豚骨ラーメンをやめた

魚出汁が香る昔ながらの「中華そば」と、ユニークな和風テイストの「鯖汁無し担々麺」。
魚出汁が香る昔ながらの「中華そば」と、ユニークな和風テイストの「鯖汁無し担々麺」。

 創作意欲に溢れる橋本さんは、限定メニューとして豚骨以外のラーメンを1シーズンに1品ずつ発表。新しいラーメンを作る楽しさと、お客さんの反応も好評だったため、2020年からは限定ラーメンのサイクルを早めて、毎月のように色々なメニューを出すようになっていった。そしてついに創業からの看板メニューである豚骨ラーメンが消えた。

 

 「これまで十年の間、豚骨ラーメンと向き合い続けてきましたが、色々と創作ラーメンにチャレンジしていくうちに、豚骨ラーメン以外のラーメンを作るのが楽しくなってきたんです。しかし、豚骨ラーメンを出しながら創作ラーメンも提供するのは物理的に難しい。豚骨ラーメンをやめるのはかなり勇気がいりましたが、豚骨以外のラーメンを色々出していくために、豚骨を一旦封印することにしました」(橋本さん)

 新たな看板メニューの「中華そば」は、創業以来の味をブラッシュアップ。宗太節、鯖節など複数の魚節や煮干しをふんだんに使用したスープは、すっきりとした口当たりながらも旨味にあふれ後を引く味わい。製麺所に特注したオリジナルの中細縮れ麺がスープとしっかり絡み合う。豚骨ラーメンに負けない存在感のある一杯に仕上がった。

 新しい『ざいとん』が掲げるテーマは「出汁感」。旨味と香りを大切にしたラーメンというテーマを据えて、毎月のように新たなラーメンを創作して提供し続けている。豚骨ラーメンがなくなっても客足が落ちることはなく、常連客も橋本さんの新しいチャレンジを楽しんでくれているという。

 「もうすっかり出汁の世界にハマってしまって、出汁の旨味と香りを生かしながら、奥深い味わいになるように毎回作っています。ラーメンって決まったレシピがないじゃないですか。その中で何と何を組み合わせたらどうなるのか、自由に考えて味を創れるのが楽しくて仕方がないんです」

※写真は筆者によるものです。

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