豚骨の街でいち早く「脱豚骨」に挑んだラーメンとは?

今から25年前、福岡は豚骨ラーメン店ばかりの街だった

「脱豚骨」の潮流が福岡に到来

2019年にオープンした福岡のラーメン店は、豚骨ではない「脱豚骨」系の店が多い
2019年にオープンした福岡のラーメン店は、豚骨ではない「脱豚骨」系の店が多い

 全国でも屈指の豚骨ラーメンの聖地として知られる福岡。古くから豚骨ラーメンが根付いている場所であり、ラーメン店のほとんどが白濁した豚骨ラーメンを提供している。今でこそ豚骨だけではなく醤油ラーメンやつけ麺など、色々な種類のラーメンを出す店も増えてはいるが、一昔前は右を向いても左を向いても福岡という街は豚骨ラーメン店ばかりだった。

 本来、ラーメンとは作り手の数だけ味があってルールがない自由な料理だ。しかし福岡には戦後から豚骨スープに細麺という形を持った「長浜ラーメン」「博多ラーメン」などの強力な「ご当地ラーメン」があった。90年代後半から2000年初頭に興ったラーメンブームの頃から、ラーメンの多様性や全国各地の個性的なご当地ラーメンに注目が集まっていったが、福岡ではラーメンといえば豚骨が当たり前であり、関東には色々なラーメンが登場している時でさえも、福岡のラーメンに自由はなかった。

 全国的なラーメンブームから20年以上が経ち、ようやくここ数年になって、福岡では「脱豚骨」「非豚骨」という潮流が生まれてきた。今年新しくオープンしたラーメン店の半数以上は豚骨以外のラーメンを提供する店になっており、豚骨以外の違ったラーメンを提供したい、食べたいというニーズが若い世代を中心に高まってきている。そんな脱豚骨という志を持ち、いち早く福岡の豚骨ラーメンに勝負を挑んだ一軒の店がある。今年で創業25年を迎える『中華そば 郷家』だ。

「他にはないラーメンを作りたかった」

『中華そば 郷家 寺塚本店』(福岡市南区)は地元で四半世紀愛される人気店
『中華そば 郷家 寺塚本店』(福岡市南区)は地元で四半世紀愛される人気店

 『郷家』のラーメンは、豚骨と鶏ガラをベースに宗田節、サバ節などの魚節と煮干し、さらに昆布や椎茸、野菜を使ったスープに醤油ダレを合わせた「魚介系醤油ラーメン」。東京の「中華そば」をイメージして店主が独学で辿り着いた、言わば「福岡流中華そば」というラーメンで長年愛され続けている。

 郷家創業当時の福岡は、右を向いても左を向いても豚骨ラーメンばかり。そんな中でなぜ豚骨以外のラーメンを出そうと思ったのか。店主の新郷岳志さんは学生時代を東京で過ごし、その時に初めて東京の「中華そば」を食べた。それまで豚骨しか知らなかった新郷さんは、豚骨臭のしない中華そばにはじめは物足りなさを感じていたが、食べていくうちにその美味しさに魅力を感じたという。

 「東京には色々なラーメンがあるのに、当時の博多は豚骨ラーメンばかりで、ラーメンの選択肢がない街だったんです。自分がラーメン店をやるならば、他とは違うものを作りたいと思ったんです。それで学生時代に好きだった東京スタイルの中華そばを出すお店をやろうと決めました」(中華そば郷家 店主 新郷岳志さん)

豚骨の街に魚介系醤油ラーメンを

『中華そば郷家 天神店』(福岡市中央区)は観光客や外国人客も多い
『中華そば郷家 天神店』(福岡市中央区)は観光客や外国人客も多い

 それまでハンバーガー店や宅配寿司店などを業態から開発して成功を収めていた新郷さん。食べることが好きで、ゼロから何かを作るのが好き。ラーメンも福岡にはないものを作りたい。福岡の人たちを驚かせたい。豚骨ではないオリジナルの中華そばを作るために、新郷さんは東京で数ヶ月にわたり食べ歩いた。その中で新郷さんの心を捉えたのが煮干し醤油ラーメンの老舗『永福町大勝軒』だった。

 「煮干しが効いたスープがとにかく美味しかったんですよね。こういう味を福岡の人にも知って貰いたいと思いました。煮干しは味噌汁にも使われていますし、味噌汁のように優しくて毎日でも食べたくなるような味を目指しました」(新郷さん)

 修業もせず独学でのラーメン作りは失敗の連続だった。試行錯誤を繰り返し、納得がいかない味の時は店を閉めて食べ歩きに出た。醤油も全国の醤油蔵から取り寄せた。自分なりに納得がいく中華そばが出来るまでに数年がかかった。開業当初は見向きもされなかったが、徐々にその美味しさは広まり、豚骨ラーメンだらけの福岡で魚介醤油味の中華そばが愛されるようになったのだ。

常に美味しさと新しさを追い求め続ける

『中華そば郷家』の「中華そば」と「支那そば」。それぞれにファンがいる二枚看板
『中華そば郷家』の「中華そば」と「支那そば」。それぞれにファンがいる二枚看板

 『郷家』には「中華そば」と「支那そば」の2種類の醤油ラーメンがある。中華そばは豚骨と鶏ガラに魚介を加えた魚介系だが、支那そばは魚介系素材を使わずに豚と鶏の動物系だけで構築されたスープを使う。複雑な旨味の重なりが楽しめる中華そばに、動物系の旨味を存分に味わえる支那そば。それぞれにファンがいるというのも頷ける。

 今も休みの日には新しく出来た脱豚骨の店に足を運ぶという新郷さん。オープン以来、常に味の向上を目指し、新しい味を考えている。他人の真似ではなく、新しいものに挑戦したいという想いが常にある。脱豚骨ブームから四半世紀も前に中華そばを生み出した新郷さんは、最近の脱豚骨の潮流をどう捉えているのだろうか。

 「僕が開業した時は本当に豚骨ばかりでバリエーションが無かったですから。福岡という街は割と保守的で新しいものが受け入れられにくいので、継続していくのが難しいんです。まず僕が頑張って努力して美味しいものを作り続けていれば、いつかはこういう状況が出来るのではと思っていました。ようやくこういう時代になったという嬉しい思いですね。そして僕も負けないようにもっと美味しくて新しいものを作っていきますよ」

※写真は筆者の撮影によるものです。