料理人としてのプライドを賭けた「本気の中華そば」

料理としての矜恃を感じられる『六味亭』の「中華そば」

思い出の場所を失いたくない一心で店を借りた

2018年のオープン以来、客足が絶えない人気を誇る『六味亭』。
2018年のオープン以来、客足が絶えない人気を誇る『六味亭』。

 福岡県糟屋郡志免町。この町を縦断する県道68号線沿いには、多くのラーメン店が点在する。「龍」が名前につく豚骨ラーメン店が多いことから、地元のラーメン好きが「ドラゴンロード」「豚骨ロード」などと呼ぶこの通り沿いに、2018年オープンした話題の店が『六味亭』(福岡県糟屋郡志免町志免東2-1-10)である。こちらのラーメンは豚骨味ではなく、透明なスープの醤油ラーメン。昨今福岡でも注目を集める「脱豚骨」「非豚骨」ラーメンの旗手と言っても良いだろう。

店主の銘田さんが営む居酒屋『六味旬蔵』。名物は鯨の「ころ」を使った「博多ころ鍋」だ。
店主の銘田さんが営む居酒屋『六味旬蔵』。名物は鯨の「ころ」を使った「博多ころ鍋」だ。

 店主の銘田俊介さんは地元志免町の出身。京料理の老舗『たん熊』などで経験を積み、地元に戻ってからは生簀割烹の料理長も努め、独立後は須恵町で居酒屋『六味旬蔵』を営む生粋の料理人。そんな和食一筋の銘田さんが畑違いのラーメン店を始めたのは、地元の老舗ラーメン店への想いからだった。

 「この場所には元々『三洋軒』さんという老舗の豚骨ラーメン屋さんがあったんです。僕自身もよく通ったお店でしたが、ご主人がご高齢で閉められるという話を聞いて、皆に愛された場所を自分が継いで守りたいという想いが芽生え、何をやるかも決めずにこの場所を借りました」(六味亭店主 銘田俊介さん)

稀少な焼あごとの出会いから生まれた味

上五島産の「焼あご」を惜しげもなく使ったスープが評判を呼んだ。
上五島産の「焼あご」を惜しげもなく使ったスープが評判を呼んだ。

 借りることは決まったものの、何をするかは決めていなかったという銘田さん。友人からは和食の技術が生かせるうどん店でもやれば、と勧められたが、この場所でやるのならやはりラーメン店をやりたかった。

 「ラーメンは大好きで『三洋軒』さんにも良く通いましたが、豚骨ラーメンは作り方も分からないし、この場所では恐れ多くて作れません。しかし、和食の出汁を使ったラーメンならば僕でも作れるのではないか。元々一品で勝負する専門店には興味があったので、ここでラーメン店をやる決心がつきました」(銘田さん)

 とはいえ、ただの和食の出汁をラーメンにするには弱すぎる。ラーメンに成り得る出汁を作り上げるのに試行錯誤した銘田さん。そんな中でたどり着いた食材が、五島列島上五島産の稀少な「焼あご」だった。上五島では一軒しかやっていない、炭火で焼いた本物の焼あごの美味しさをラーメンで多くの人に伝えたいという想いが、銘田さんの職人魂に火をつけた。

 焼あごは「博多雑煮」には欠かせない食材で、博多の人も慣れ親しんでいる味だが、そのままでは雑煮やうどんと変わらなくなってしまう。そこで「水炊き」にも使われる鶏スープを加えることで、ラーメンのスープとしての厚みとバランスを成立させた。和食の料理人として、博多の出汁文化をしっかりと感じて欲しい。銘田さんの数々の想いが一杯のラーメンに込められた。

本当のあご出汁の美味しさをラーメンで伝えたい

「博多雑煮」と「水炊き」からヒントを得たオリジナルの一杯。
「博多雑煮」と「水炊き」からヒントを得たオリジナルの一杯。

 上五島産の稀少な炭火焼の焼あごをベースに干し椎茸や昆布を合わせた和出汁と、鶏ガラの旨味を丁寧に抽出した鶏スープをブレンドしたオリジナルスープは、博多もんがこよなく愛する、博多雑煮と水炊きをリスペクトしたハイブリッドな味わいになった。「博多あご出汁中華そば」と名付けられた、銘田さんオリジナルのラーメンの完成だ。

 かくして生まれた『六味亭』の「博多あご出汁中華そば」は、「新しい博多の味」として豚骨ラーメン好きの博多の人たちにも受け入れられ、一躍人気店となった。『六味亭』がオープンして二年が経つが、銘田さんは今もなお更なる美味しさを求めて改良を続けている。他でもない、博多の料理人としてのプライドが現状に満足させてはくれないのだ。

「全国でもあご出汁が有名になりましたが別物も少なくありません。特に地元福岡の若い人たちに本当のあご出汁の美味しさを知って欲しい。僕のラーメンを通じて博多で受け継がれてきた食文化を伝えていきたい。そういう想いでこれからも一杯一杯丁寧に作っていきます」(銘田さん)

※写真は筆者の撮影によるものです。