個人と会社のWin-Winを追求する「社長1on1」の実践|楠山健一郎氏・倉貫義人氏対談【中編】

左から、株式会社ソニックガーデン 倉貫義人氏、株式会社プリンシプル 楠山健一郎氏

拙著『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』に登場する株式会社プリンシプル 楠山健一郎社長と株式会社ソニックガーデン 倉貫義人社長よる対談シリーズの2回目です。

前編では、リモートワークをはじめ、社員の自律性に任せた自由な働き方が、それぞれの会社でどのように形成されてきたのかが語られました。今回は、個人のやりたいことと会社への貢献をどう一致させるのか、それぞれ社長としてどのように社員と対話を行っているのかが明らかになりました。

■個人のやりたいことと会社への貢献をどうすり合わせるか

楠山:僕がアメリカに行ったり取締役が大阪支社を立ち上げたり、社内で個人のWinが叶えられる事例が増えてくると、ほかのみんなもいろいろ希望を言い出すんです。沖縄でやりたいとか、新潟がいいとか、オランダに行きたいという人も。それぞれのWinが会社にとってどういうWinになるのか、人が増えるほど個人がやりたいことも多様になっていくので、すり合わせが難しくなってくるのがジレンマではあります。

倉貫:どういう風にすり合わせするんですか?

楠山:個人のやりたいことを否定はせず、可能な限りその人のWinと会社のWinが両立する方法を考えます。例えば沖縄や新潟だと、僕たちのサービスを売る市場としては難しいけれど、労働力を供給してくれる場としては可能性がある、といったことが考えられます。オランダの場合、いきなりオランダに行く前にイギリスという大きな市場にトライして、そこを足がかりにオランダに行くことも考えよう、という話をしています。

僕だって、アメリカに行きたいという希望を叶えるまでにはかなり時間がかかりましたから、いきなり沖縄やオランダに行くのは難しくても、そこに行くまでの道筋を一緒に考えよう、というスタンスです。

倉貫:いいですね。会社を辞めて独立していく人もいますか?

楠山:将来は起業したいと言ってうちに来る人もいます。こちらとしては寂しい気持ちもありますが、それでも入ってもらって、僕らの会社で働くことでその人のWin実現に近づければいいと思ってます。辞めた後にもその人と僕らの会社のWin-Winの関係が続くことが理想ですね。

現実には、人が辞めたときに穴が開いてしまって困るということもあります。僕自身、アメリカに行った後は日本の事業の収益が落ちてしまった時期がありました。仕事が属人化しているとそういうことが起きるので、自分のWinのためには今持っている仕事を手放してもきちんと回るようにする必要があります。そういう意味で、会社の業務を仕組み化していくことが大事だと考えています。

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■社長による1on1は若い人ほど頻度高く

倉貫:それぞれが何をやりたいかについては、面談で話し合うんですか?

楠山:まずは採用面接のときに聞きます。個人と会社のWin-Winということを掲げているので、「あなたのWinは何?」と必ず聞くようにしています。だから、うちに入ってくる人は、この会社に何のために入ってきたのか、将来どうなりたいのか、聞けば答えられる人たちです。

あとは月に1回の1on1ですり合わせていくのですが、現場のリーダーとの1on1というのは、どうしても直近のタスクに関する課題解決に集中しがちなので、それとは別に、3ヶ月に1回15分、僕が1on1をする場を全員と持っています。そこで「うちに入ってきた理由って何だっけ?」と振り返ったり、「今、うまくいってる?」と聞いたりして。そうすると、入社した頃とはやりたいことが変わっていることもあります。

倉貫:変わるものですよね。3ヶ月に1回でも、全員とやるのは大変ですね。

楠山:御社では社長の1on1をやってますか?

倉貫:定期的に全員と、というのはやってません。ただ、若い人とはちょくちょくザッソウ(雑談と相談)するようにしています。時間も決めず、ときには3時間くらい話すこともありますよ。

年齢が上がってきたら話す頻度も少なくて大丈夫だと思ってます。それは人間の脳の構造上、歳をとると年に1回しか会わなくても昨日会ったばかりみたいな感じがするじゃないですか。盆暮れに会うくらいで十分、という感じで。20代だと、3ヶ月会わなかったらすごく長いこと会っていなかったような気がするので、もっとこまめに話します。

楠山:それは合理的ですね。年齢が上がってくれば、ある程度考え方も固まってきて、人格も完成されてきますからね。若い人の方がいろいろな可能性もあるし悩みも多いから、そちらを手厚くケアした方がいいでしょうね。

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■「YWT(やったこと・わかったこと・次にやること)」を話すと見えてくるもの

楠山:ザッソウは、社長から声をかけて始めるんですか?

倉貫:若い人には「YWTしようか」と声をかけることが多いです。YWTというのは実は日本語で、「やったこと」「わかったこと」「次にやること」の頭文字です。

楠山:「わかったこと」って面白いですね。気づきについて話すということですね。

倉貫:そうです。今時、状況はどんどん変わりますから、計画や目標を立てて、半年後に「計画どおりいってる?」と聞いてもあまり意味がないと思っています。

楠山:同感です。

倉貫:計画ありきで振り返るのはあまり意味がないとしたら、まずは「やったこと」を赤裸々に聞くしかないと思って。仕事の話はもちろん、言える範囲でプライベートのことや自分で勉強したことも、まずは列挙してもらいます。これらは事実なので簡単に挙げられるのですが、ポイントは「わかったこと」です。

2つの切り口で聞くのですが、最初は「やってみてどう思ったか」。そのあとで、「それをほかの仕事にも生かすには?」ということを聞きます。僕らプログラマの世界では「抽象化」と言いますが、事実を元に気づいたことを抽象化して学びに変えるんです。

例えば、プログラマが「僕、マーケティングをやってみたいです」とか「サービスのプロダクトデザインをやりたいです」と言うことがあります。そのとき、まずはやってみてもらって、あとでYWTをやる。「やってみてどう思った?」と聞くと「マーケティング、全然向いていませんでした」とか「デザインてめちゃくちゃ面白い!」とか、感想が出てきます。そのあとで「その体験からどんなことが学べた?」と聞くと「自分はマーケティングはやらない方がいい」とか「こんなやり方をしたらうまくいくと分かった」といったことを話してくれます。こういうことは、こちらから教えるよりも、本人が自分で言語化しないと学びにならないんですよ。

楠山:本当に、そう思います。

倉貫:言語化した上で、「じゃあ次どうする?」と聞くと、「これはもう、やりたくない」とか「もっとやりたい」とか、本人の意思が出てきます。ポイントはやりたくないことをどれだけ言えるかです。

仕事のストレスって、やりたいことをやれないということよりも、やりたくないことを抱えていることの方が多くて、そのストレスをなるべくなくしてあげることが本当の適材適所につながると思うんです。

さっきの例で言えば、「自分はマーケティングで成功できるかも」と思いながら他のことをやっているよりも、やってみて「やっぱり向いていなかったんで、プログラミングがんばります」と自分で言う状態になった方が、パフォーマンスを発揮できます。

楠山:うちも、考えていることは一緒です。ただ、YWTのような仕組みがなかったので、早速取り入れてみたいと思います。

後編では、人材採用や組織の成長と社員の幸せの関係、クリエイティブな仕事をする優秀な人たちをどう処遇するべきかについて、おふたりの考えが語られます)

※写真はすべて筆者撮影