週休3日制を2ヶ月実験したニュージーランド企業、成功の要因は組織風土にあり

(写真:アフロ)

ニュージーランドのある会社が週4日勤務(週休3日制)を導入する意向を発表し、注目を集めています。

全スタッフ約240人を対象に2ヶ月間の試験運用をしたところ、良い結果を得られたことから継続的な導入を目指すようです。

試験運用の前後での生産性の変化や週4日勤務が社員たちに及ぼした影響などについて、ふたりの研究者による調査結果が公表されています。そのレポートを参照しながら、週休3日制の利点や、彼らのトライアルがうまくいった要因、日本の企業の働き方改革に参考にできることについて考えてみましょう。

2ヶ月間のトライアルはどのように行われたか

パーペチュアル・ガーディアンのウェブサイト
パーペチュアル・ガーディアンのウェブサイト

週休3日制にトライしたのは、遺書作成や遺産管理のサービスを提供している二ュージーランドの会社、パーペチュアル・ガーディアン(Perpetual Guardian)です。

全社員ミーティングでCEOから発表

今年の2月2日の全社員ミーティングの場で、CEOのアンドリュー・バーンズ氏が「3月5日から6週間に渡るトライアルを始めます。皆さんは週4日勤務をしてください。給料は週5日分を払います」と告げました。

以下は、その時の様子をビデオに収めた動画です。バーンズ氏の発言を聞いた社員たちは、一瞬の沈黙の後で笑いだしています。おそらく、最初は冗談のように感じられる話だったのでしょう。

しかし、この実験は実際に、3月と4月の2ヶ月間をかけて実施されたのです。

1ヶ月の準備期間にチームで議論

バーンズCEOはトライアルについて発表した後、社員に以下のように告げたそうです。

「このトライアルが各チームにとってどのような効果があるか、いかにして生産性を保つか、労働時間が変わっても顧客にサービスを提供し続けるにはどうしたらいいか、皆さんが検討してください」

トライアル開始までの1ヶ月間、各チームは週休3日制の実現方法を議論し、仕事の進め方を見直したり効率化のためのツールを導入するなどの準備をしました。

「週4日で週5日分の仕事」を2ヶ月間実施

先のCEOの発言にあるとおり、労働日が1日減っても、給料はそのまま、顧客へのサービスは継続する、というのが原則でした。

ちなみに、世の中で「週休3日」を実現する会社の中には、1日の労働時間を10時間(週40時間労働)にして週休2日と変わらない労働時間を確保するケースもあります。しかしパーペチュアル・ガーディアンがトライしたのは、1日8時間×4日の32時間労働でした。

また、土日以外の1日の休みは、一律に曜日を決めたわけではなく、水曜日に休む人がいたり金曜日に休む人がいたりと、人によって(あるいは週によっても?)異なっていたようです。おそらく各チームでの話し合いの中で、各自がどのように休みを取るか合意したのでしょう。

調査の方法

同社は今回のトライアルをできるだけオープンに進め、その結果をシェアすることで、他の会社でも今の働き方を見直して週休4日を試してみる動きが拡大することを目指しているようです。

そのためにも、トライアルの結果をきちんと検証することが必要だと考えたのでしょう。ふたりの専門家が今回のトライアルの効果検証のための調査に関わり、量的調査と質的調査を行っています。

・量的調査(オークランド工科大学のジャロッド・ハー教授が担当)

以下のアンケート結果と、ニュージーランドの他の企業での調査結果との比較などから、トライアル前後の変化を分析しています。

(1)従業員アンケート

・トライアルがスタートする前の週に実施(回答数155)

・トライアル完了の翌週に実施(回答数183)

(2)管理職アンケート

・トライアルがスタートする前の週に実施(回答数28)

・トライアル完了の翌週に実施(回答数34)

(3)従業員に対するエンゲージメント調査

・2017年11月に実施(回答数182)

・トライアルがスタートする前の週に実施(回答数155)

・トライアル完了の翌週に実施(回答数155)

・質的調査(オークランド大学ビジネススクール上級講師のヘレン・ディレーニー博士が担当)

トライアル完了後の5月に以下のインタビュー調査を行い、従業員の仕事やプライベートに起きたポジティブな変化や課題などを検証しています。

(1)グループインタビュー

のべ40人の従業員と管理職を対象に8回実施。

(2)半構造化インタビュー

4人の幹部社員を対象に個別に実施。

調査から見えてきた週休3日のメリット・デメリット

今回の取り組みを伝えるニュースのほとんどは「成功」という点を強調していますが、調査の中ではネガティブな意見も出ており、「そもそも週3日も休めませんでした」という個人やチームもあったようです。

ただ、量的調査ではトライアル前に比べてトライアル後の数値が軒並み改善していること、質的調査でもトライアルを非常にポジティブに振り返る声が多数だったことから、総合的には「成功」、今後も継続して取り組むべき、という判断がなされたのでしょう。

仕事・職場に対するポジティブな反応

■チームで準備したことの効果

このトライアルで非常に注目すべき点は、開始前の1ヶ月の間に、チームで準備する期間、責任が与えられたということです。

インタビューを受けた社員の発言には「我々は皆、解決策を考えるため、権限が与えられました」というものがあります。やり方が自分たちに任され、チームで議論して実行するという経験を通じ、自分達に発言力がある、エンパワーメントされている、と感じた従業員が多かったようです。

エンゲージメント調査の結果にも、週休3日制を始める前の準備段階から社員のモチベーションが上がっていたということが、現れています。以下の表は、エンゲージメント調査の各項目について、社員たちがトライアルの実施を知らされる前の2017年11月、実施の準備期間中、実施後の数値を並べたものですが、どの項目も準備中の段階から向上しています。

Overview of the Perpetual Guardian 4-day (paid 5) Work Trial (Professor Jarrod Haar Auckland University of Technology)に掲載の表を筆者が加工。社員が各項目に対する評価を5点満点で採点したもの。
Overview of the Perpetual Guardian 4-day (paid 5) Work Trial (Professor Jarrod Haar Auckland University of Technology)に掲載の表を筆者が加工。社員が各項目に対する評価を5点満点で採点したもの。

■仕事の仕方のレベルアップ

「労働日を1日減らす」という考えたこともなかったような課題が、大きな発想の転換を促し、生産性の高い仕事の仕方が身についた、という社員が多かったようです。

具体的には、

  • 作業の自動化
  • 会議のやり方の改善(必要な場合のみ短く、集中して行う)
  • メールの受信ボックスの共有
  • 電話転送システムの導入
  • 新しいスマートフォンアプリの導入
  • チーム内チャット機能の導入
  • 顧客とのコミュニケーションツールの導入(直接会いに行く時間を節約)
  • 食事休憩のとり方の工夫
  • タスクに対する優先順位付け、計画、集中の方法の工夫

といった細かいアイデアの実行による効果のほか、誰かが休みの日の仕事をカバーし合えるように情報共有や協力体制ができ、チーム内の信頼感が増した、という報告もされています。

■休むことでストレスが低下、仕事に向かう活力が生まれた

休みの増加は、仕事に対する活力を増します。仕事によるストレスの度合いは、トライアルの実施前後で45.3%から38.3%に下がっています。また、社員の声としては、以下のようなものがありました。

木曜日に戻ってくるので、金曜日までにエネルギーのレベルを保てます。週5日働いていたときよりも高いレベルで進められます。

最初は「ああ、今週は4日しかない」としか思いませんでした。でも、3日間の週末を過ごすと、それを可能にするような活力が生まれます。

※注:前者は水曜日、後者は金曜日を休みにしたのだと思われる。休みをいつ取るかは人によって異なる。

仕事・職場に対するネガティブな反応

■休みを増やすことが難しい個人やチームの存在

ネガティブな反応は主に、仕事内容や個人のスキル、チームの状況(上司の異動やスタッフの欠員など)によって休日を増やすことが困難な場合がある、という不公平感からくるものだったようです。

中には、休日を増やすことが全くできなかった社員もいたようです。また、休んだとしても家で仕事をしたとか、1日の労働時間を8時間ではなく10時間に増やすことでカバーした、という社員もいました。

■短時間で仕事をしなければいけないストレス

少ない日数で、成果は出し続けなければいけないということにプレッシャーを感じた社員もいたようです。これについては、以下のような声が挙がっています。

4日間に詰め込むことで、確実にストレスが増していました。 休みの日の埋め合わせだけでなく、しばしば他の(休んでいる)人のカバーもするのです。

■サービス品質の低下

顧客へのサービスに問題が生じたという声もありました(一方で、問題はなく、チームはよくやってくれたというマネージャーの声もあり、これはチームによって評価が分かれていると思われます)。

(別の部門/人からの情報を)待たされるという不満がありました。 そして、トライアル中に得られる情報の質は落ちていたと思います。 皆が急いで物事を進め、80%(の期間)に100%を詰めようとした結果として品質が悪化したと思います。このことは、私達の収益の源泉である顧客とのコミュニケーションにも当てはまります。

プライベートな生活に対するポジティブな反応

休日の増加は、社員のプライベートな生活の充実に大いに役立ったようです。

従業員アンケートでは、トライアルの前後で以下のような数値の改善が見られました。

・生活面の満足度 74.1% → 79.0%

・健康面の満足度 67.0% → 74.3%

・余暇の満足度  63.3% → 74.2%

・地域コミュニティとの関わりの満足度 66.1% → 73.4%

具体的な声としては、

  • それまでは週末にこなさなければならなかった様々な用事を別の日に済ませ、友人や家族と、あるいは一人で、より充実した週末を過ごすことができた
  • 平日に子供の学校行事に参加するなど、家族との関わりを増やすことができた
  • 地域の活動やボランティア活動に時間を使えた

といったことが挙がっています。

ここではひとつ、現代のビジネスパーソンがいかに忙しい日々を過ごしているのかを認識させられるような、印象的な声を紹介したいと思います。

それは罪悪感を感じるような楽しみでした。私は一人で時間を過ごしたのです。 夫も子どもなしで、私ひとりだけの純粋な贅沢。本当に良かったです。

プライベートな生活に対するネガティブな反応

「増えた休みの日に何をするか、考えるのに苦労した」という意見がありましたが、その人も最終的には「自分自身に向き合って過ごすことを学んだ」と語ったといいます。

週休3日制に対して、プライベートな生活の面でのデメリットを挙げる社員はほとんどいなかったようです。

調査から示唆されたこと

このような結果を受け、調査を行ったハー教授は「確実に、週4日勤務は可能である」と結論づけています。

ディレーニー博士は、「圧倒的多数の従業員が一致して労働時間の短縮が(今後も)現実的なものになることを希望している」とし、そのために検討すべきこととして以下の指摘をしています。

■追加の休日の扱いを明確にする

1日増えた休日が「年次休暇(仕事をしてはいけない日)」なのか、「フレキシブルな勤務日(必要に応じて仕事をする可能性がある日)」なのか、全社員に強制されるものなのか選択できるものなのかが曖昧であり、人によって捉え方が異なったとのことで、会社の方針を明確にする必要があると述べています。

■組織開発への投資

週休3日を持続可能なものとするためには、より多くのトレーニング、サポート、資源の投入が必要だと指摘しています。

何人かのマネージャーは、勤務時間を短縮するのには組織構造をデザインし直す必要があり、それをせずに時間短縮を始めるのは性急だという懸念を示したことも、言及されています。

実験の成功を支えたのは社員の前向きな態度

ここまでは、学術的な調査の結果を見てきましたが、このニュースを見た人たちのネット上での反応は、賛否両論ありました。

「◯◯業界では無理」とか「私の国では無理」といったよくあるあきらめの反応のほか、「2ヶ月の実験ではこれが有効だと結論付けることはできない」とか、「社員は休日を増やしたいから、このトライアルの期間は良い結果を出すよう頑張ったのだろう」という意見もありました。

こういった意見は一理あると思います。だから他の会社でも必ず成功するとは言えないし、パーペチュアル・ガーディアンでさえ、週休3日制を今後も続けていった先に、今回のトライアル以上の良い結果が得られるかどうかは、分かりません。

ただ、同社にとってはこの取り組みの意味はとても大きいはずです。それは、「仕事・職場に対するポジティブな反応」の項目に挙げたように、トライアルのプロセスを通じて、自分たちをバージョンアップできているからです。

今、日本では多くの企業で働き方改革の取り組みがなされていますが、同じような制度を導入しても、効果が出る組織もあればそうでない組織もあります。それは、業界や仕事の内容が違うから、ということもあるかもしれませんが、導入のプロセスやそれに関わる社員の関係性によるところも非常に大きいと思います。

今回のパーペチュアル・ガーディアンのやり方ーートライアル開始の1ヶ月前に突然CEOからのアナウンスがあり、どうやって実現するかは各自検討することを求めるーーはかなり荒っぽいものです。会社によっては「丸投げだ」「無茶振りだ」と不満が噴出して、とてもうまくいかないでしょう。

でも、パーペチュアル・ガーディアンでは、多くの社員が前向きに挑戦しました

今回の調査では、従業員の「変化に対する準備」という調査項目があるのですが、同社のスコアはトライアル前(準備期間中)から5点満点中4.26と、高い値を示しています(ニュージーランドの他社のデータでは平均は3.5程度だそうです)。変化を受け入れやすい社員が揃っている会社だったからこそ、今回の実験は良い結果が出せたのかもしれません

また、「自分たちで検討するように」と言ってあれこれ口に出さずに本当に現場に任せた経営陣の姿勢や、組織の風通しの良さなどの影響も大きそうです。

ポジティブな目標を掲げて変化を起こし、みんなで前向きにチャレンジすることが組織の活性化やレベルアップにつながるのです。これは、「週休3日制が一般的に是か非か」ということよりもずっと重要なことなのではないかと思います。なぜならこういう会社であれば、本格的に週休3日制を導入し、もしうまくいかないことがあれば、次の変化に向かえば良いからです。

逆に柔軟性がない組織では、一度決めたことを変えるのが困難なので、思い切った変化を起こすことに慎重にならざるを得ません。また、新たな制度を導入してもなかなか適応できず、期待した効果が出にくいのです。

今回はニュージーランドの会社の取り組みを紹介しましたが、変化に取り組む際の組織風土の重要性という点で、日本の企業が働き方改革をする上でも参考になるものだと思います。