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リモートワークと出社が混在する組織で全員の力を引き出すマネジメントとは

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
(提供:イメージマート)

コロナ禍をきっかけに多くの会社がリモートワークの制度を導入し、最近では出社とリモートを組み合わせる「ハイブリッド型」の働き方が広まっています。

出社している人もいればリモートワークの人もいるというチームを率い、マネジメントの難しさを感じている上司やリーダーもいるかもしれません。

そこで、「働きがいのある会社」に関する調査・分析を行う Great Place To Work(R) Institute Japan(以下、GPTW Japan) 代表の荒川陽子氏に、リモートワークと働きがいの関係や、ハイブリッド型の組織で有効なマネジメントの方法について伺いました。

荒川 陽子氏 写真提供:GPTW Japan
荒川 陽子氏 写真提供:GPTW Japan

出社とリモート半々の会社は「働きがい」が低い?

——2023年版 日本における「働きがいのある会社」調査の結果として「リモートワーク実施率別の働きがいスコア」が公表されており、興味深く拝見しました。

リモートワーク導入企業の中で、出社率が0〜20%未満というリモートワーク率の高い企業も、ほぼ全員が出社というリモートワーク率の低い企業も、「働きがいスコア」は70%台と比較的高く、「出社していた人は50%程度」という企業群のみ63.1%と低めだったそうですね。

2022年1〜3月のリモートワーク実施率別の働きがいスコア 画像提供:GPTW Japan
2022年1〜3月のリモートワーク実施率別の働きがいスコア 画像提供:GPTW Japan

はい。この結果を見て最初に感じたのは、皆さんそれぞれが、自分が望む出社率の会社に勤めていらっしゃるんだな、ということです。どのくらいの出社率が良いとか悪いとかということはなく、出社率10%くらいを望む人はそういう会社で働いているし、80%くらい出社することが良いという人はそういう会社で働いている。だから、皆さんの「働きがいスコア」が高く出ているのだと思います。

ですが、「出社率50%」の会社だけが少しスコアが低いんですね。それはなぜかと考えてみると、おそらく50%というのが絶妙なラインで、リモートワークをできる人が限定されていることへの不満があったり、「出社している人ばかりが評価されるんじゃないか」といった公正・公平性への疑問があるのかもしれません。

実際、「出社率50%」の企業の従業員アンケートの結果を見ると、“報酬への納得感や利益の公正な分配”、“誰にでも特別に認められる機会”等、「公正」に関する設問のスコアが全体と比べて低い傾向がありました。従業員の納得感が引き出せていないままに、どっちつかずの働き方になっており、その結果として「働きがい」が下がっているという可能性があります。

——「50%」が適切かどうかは、それぞれの職場によりますよね。ただ、「うちの会社の出社比率はなぜ50%程度なのか」について従業員にきちんと説明できていないということでしょうか。

日本における「働きがいのある会社」ランキング ベスト100に選出されている企業(以下、ベストカンパニー)を見ると、「お客様に対して最大の価値を提供できる働き方」について、みんなで考え、その時々でベストの選択をされているという傾向が見えます。同じ業界、業種であっても「我々はあえてリモートを選ぶ」とか「あえて対面を選ぶ」といったことを、単に社長の考えで推し進めるのではなく、現場の声を吸い上げて判断しているという特徴があるのです。

逆に「公正」に関するスコアが低い企業の場合は、現場の声が取り入れられる機会が少ない状態で働き方が決められている、というところがあるように思います。出社率が50%程度の会社にも、その傾向があるのではないでしょうか。

リモートワークできない人にも納得感をもって働いてもらうには

——2023年版 日本における「働きがいのある会社」調査の結果を見ても、リモートワークと出社を組み合わせる「ハイブリッド型」の働き方が広まっていることが分かります。

業務の都合などで、リモートワークをしたくてもできない方もいますよね。納得感をもって働いてもらうために、どんなマネジメントが有効でしょうか?

リモートワーク導入企業における出社状況 画像提供:GPTW Japan
リモートワーク導入企業における出社状況 画像提供:GPTW Japan

いくつかあります。まずは、経営層がリモートワークに関する方針をきちんと考え、これを明確に表明することが大事です。出社が必要な業務については、その理由を顧客起点で、会社にとっての必然性という観点から説明をする必要があります。それがないと、「テレワークできる人がうらやましい」みたいな話になってしまう可能性があります。

2つ目に、対話をすることです。「この部署は必ず出社してください」等と一方的な通達にせず、現場の当事者がどう思っているかを聞いて決めるということですね。不満を募らせているかもしれないと思ったら、それを放置してはいけません。必ずその声を聞き、どこに不満があるのかを確認してください。例えば業務負担が偏っているのだとしたら、それは出社比率だけが原因ではないかもしれません。課題をいち早く見つけて具体的に手を打っていくことが大事です。

さらに、ベストカンパニーの中には、出社手当を支給している会社もあります。リモートワークをするためには、出社している方に荷物の受け取りやオフィスでしかできない事務作業をお願いすることがあると思います。出社手当のようなものがあれば、そういったお願いも気兼ねなくできるという話も聞きます。例えばこういったやり方で、心理的な不満や負担を少しでもやわらげるような工夫ができるでしょう。

あとは、リモートワークをしている人と出社している人でコミュニケーションがしづらいという懸念があるかもしれません。そういう場合は、みんなが出社する日を設定して顔を合わせる機会をつくるとか、リモートワークできる人からできない人に、日頃のサポートの感謝を伝える仕組みを作るとか、そういった施策を設計していくことも有効です。

コロナ禍では、緊急事態宣言を受けて基本的には全員がリモートワークをする中、どうしても一部の人は出社せざるを得ないという状況もありました。そんなとき、多くのベストカンパニーでは、出社してくれた人に感謝の手紙をみんなで書いたり、出社した人のためにオフィスに感謝の言葉を貼り出したりといった工夫をしていました。そうやってお互いの働きがいを担保するような仕掛けは、とても良いと思います。

——誰がそういった仕掛けの旗振り役をするのでしょうか?

一番多いのは人事部だと思いますが、働きがいを高めることをミッションとするプロジェクトや部署、あるいは個人の役割があるという企業も、ベストカンパニーの中には一定数あります。企業規模が大きくなるほど人事部やプロジェクトに権限移譲されていますが、小規模の会社さんであれば社長が発案してやっていらっしゃったりもします。

リモートワーカーの不安や不満を見逃さないマネジメント

——リモートワークをしている人の方も、上司がちゃんと評価してくれるか不安、コミュニケーションが減って孤独、といった課題を抱えている場合があります。こちらについては、どのようなマネジメントが必要でしょうか?

「複数の目で見る」という仕掛けを、ぜひ取り入れていただきたいですね。直属の上司だけでなく、本人が参加しているプロジェクトのリーダーや、そこに関わる他のチームの上司や先輩、協働者とか、そういった人たちから定期的に部下の情報を収集するようにするんです。そのためのネットワークを普段から持っておくことが、非常に大事です。

——上司がいろいろな人とコミュニケーションをとることが必要なんですね。

人材開発会議や人材開発委員会と呼ばれるような場を、定期的に開催するのも良いですよ。3ヶ月に1回とか半年に1回、メンバーの今の状況や強みや課題、今後のキャリアなどについて管理職同士で共有するんです。

こういった場で、自分の部下について他の管理職の見立てを聞いたり、自分が部下について気になっていることがあれば、「接点があるときに見ておいてほしい」とか「積極的に声をかけてほしい」といったことを伝えるんです。そうすると、多面的な目で部下を見ることができ、評価や称賛がより公正にできますし、部下も「上司はちゃんと分かってくれている」という感覚を持てるようになっていきます。

——なるほど。部下についてネガティブな情報が集まってきたときには、どうしたら良いでしょうか? リモートだと、直属の上司が問題点に気づかないかもしれません。かといって、他の人から聞いたことを本人にそのまま伝えても、反発を生みそうです。

そういう場合は、一緒にやる仕事を意図的に作るしかないと思います。伴走しながら、「今のやり方はまずいよ」とか、「さっきのコミュニケーションの仕方は、ゆくゆく問題になるから止めたほうがいいよ」とか、その場でフィードバックしていくのが良いでしょう。そうでないと、半期に一度、他部署から聞いた問題点をぶつけられても、本人だって困ってしまいますよね。タイムリーにフィードバックできるような機会を作るしかないと思います。

——幅広いネットワークから情報収集をしつつ、個別具体的な対応を考えていくということですね。

はい。昔の働き方であれば、他の管理職とたまたま居合わせて「うちの部下なんだけどさ……」みたいな話をする機会も多かったと思います。今はそれがリモートで難しくなっているので、他部署の人と15分でもいいのでオンラインのミーティングをして情報共有するとか、意図的に部下の仕事ぶりを知る機会をつくるということを、ぜひやっていただきたいです。

社外の協働者を含む全員の「働きがい」向上を

——出社とリモートが混在するハイブリッドな職場でどう働きがいを高めていくか、管理職ができることを教えていただきました。一方で、現場からボトムアップで改善していくという事例はありますか?

ベストカンパニーの中には、毎月1つ働きがいを高める施策をプロジェクトが発案し、コスト面で可能であれば、ほとんどのものは社長が認めて実現するということをやっている会社さんがあります。

——毎月1つだと、どんどん改善が進みそうですね。そんな風に、現場の声を出しやすい仕組みを作るのは良いですね。機会がないと、不満やアイデアも言いづらいと思うので。

そうですね。私たちの「働きがいのある会社」調査では、「あなたの会社の働きがいをより高めるために、改善の権限が与えられ、何かひとつできるとすれば、あなたは何をしますか?」という自由回答形式の設問もあります。こういうサーベイを活用して声を集めるのもひとつの手ですね。

それから、1on1も有効です。そこで「何か困ってない?」と聞くだけでなく、出社比率の違いによって何か不満がないかとか、具体的に確認することが大事です。これは管理職のスキルとして、皆さんに実行していただきたいですね。

——メンバーの声をいかに聞くかということが、とても重要なんですね。

リモートワークの実施状況は今後どうなっていくか、2023年版 日本における「働きがいのある会社」調査から見えていることはありますか?

企業規模によって分かれてくるのではないかと予想しています。大手企業は比較的リモートワーク比率が高めに維持されていくのではないかと。一方で中小企業は、対面に回帰する傾向が強いと感じます。あくまで肌感覚ですが、中小企業の経営者の方が「やっぱり対面だ」とおっしゃる割合が高いですね。

——コロナ禍でリモートワークを経験した中小企業も、「やっぱりやりづらい」と感じているということでしょうか?

どんどん新しいことをやっていかなければならないという状況だと、やっぱり対面の方がやりやすいという面があるようです。

また、人の入れ替わりが結構ある中で、新しい人が来たときにリモートではオンボーディングがしづらく、みんな出社していた方がいいよね、という話もあります。大手の会社であれば、全員が出社していなくても当番制で誰かしら会社にいるという状況が作りやすかったりするので、あまり問題にならないのだと思います。

——これまでは小さい会社ほど社長の目の届く範囲に社員がいて、リモートで姿が見えなくなるとギャップを感じやすいのかもしれませんね。

そうかもしれません。

——一方で、オンラインコミュニケーションが一般化するにつれ、地方の中小企業でも外部の専門家の力を借りることが容易になってきています。社外の人と一緒に仕事をする機会が増えると、従業員の働きがいにも影響があるのではないでしょうか?

社員だからとか業務委託の人だからといったことは関係なく、いろいろな方たちが一緒になってビジネスを進めていくということは、今後増えていくでしょうね。

それがどこまで働きがいに影響するかはわかりません。しかし我々としては、一部の限られた人ではなく、あらゆる人の力を引き出す“全員型「働きがいのある会社」モデル”を提唱しています。ですから、社外のステークホルダーを含めた働きがいを考えている経営者がいる会社はすごく伸びていくと期待しています。業務委託の人だから無理な仕事をさせる、といったことはあってはならないことです。そういう方たちの専門性を活かし、働きがいもウェルビーイングも高めるような仕事のプロセスを組み立てられるようになるといいですよね。

全員型「働きがいのある会社」モデル 画像提供:GPTW Japan
全員型「働きがいのある会社」モデル 画像提供:GPTW Japan

——社外のプロフェッショナル人材も含むチームの全員の働きがいが高まれば、生産性の向上やイノベーションの創出も期待できそうです。

今日は、示唆に富むお話をありがとうございました。

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フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』(http://mydeskteam.com/ )を運営中。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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