「社長がアメリカ移住」「社員が海外放浪」自由な会社ができた理由|楠山健一郎氏・倉貫義人氏対談【前編】

左から、株式会社プリンシプル 楠山健一郎氏、株式会社ソニックガーデン 倉貫義人氏

拙著『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』では、短期的な利益や規模拡大ではなく、関係する人たちの幸せを追求する12の組織を紹介しています。

そのうちの2社、株式会社プリンシプルと株式会社ソニックガーデンの社長による対談が実現しました。プリンシプル社長の楠山健一郎さんが本書を読んで、ぜひソニックガーデンの倉貫義人社長と話をしてみたいとおっしゃったのです。

前編ではそれぞれの会社のユニークな経営がどのように形成されてきたのか、中・後編では働く人の幸福を実現するために社長が果たしている役割や、会社の成長と社員の幸せについての考え方を中心に、対談の内容をお届けします。

■同年に創業の両社のあゆみ~“ビジョンありき”か“自然ななりゆき”か~

楠山:プリンシプルは2011年に創業しました。これくらい続けていると、組織が成長していくなかで人間関係がギスギスして人が離れていくようなことも起きがちですが、僕たちはそれがなかったんです。

創業当時からビジョンやバリュー(共通の価値観)を大事にしていて、人の採用やオフィスのレイアウトなんかも、全てビジョンやバリューに沿って考えてきたので、途中で迷わずに済んだのだと思います。

ソニックガーデンさんと同じく、僕たちも働く場所はどこでも自由ですが、創業からずっと全員での朝会を続けています。毎朝9時45分にこのオフィスで、リモートワークの人もテレビ会議をつないで顔を合わせるんです。会社の理念をいかに浸透させるかが重要だと考えているので、朝会で理念を唱和し、理念に関わるスピーチをすることで理念を行動に落とし込むようにしています。

プリンシプルの企業理念
プリンシプルの企業理念

倉貫:ソニックガーデンを設立したのも2011年です。僕はもともとプログラマーで、社内ベンチャーで事業を始めてMBOで独立しました。社長といっても経営なんて未経験でしたから、四苦八苦しながらなんとかやってきました。ビジョンの浸透というのも意識してやったことがなくて、そういう努力をされてきたというお話を聞いて、本当に感心します。

ソニックガーデンの企業理念
ソニックガーデンの企業理念

楠山:倉貫さんは、ご自身の生き方や普段話していることそのものがビジョンを表しているように見えます。

ビジネスの面で調子の良い会社でも、核となるものが共有されないまま人を増やしていくと、どこかでまとまりがなくなって離散していくものだと思うんです。倉貫さんのやり方が尖っていて明確だから、ソニックガーデンには共感する人が集まってきてまとまりがあるんじゃないですか?

倉貫:そうかもしれない。ただ、全然まとまってはいないんですよ。今、40人くらいの社員が18都道府県にいるんですけど、それぞれの都合で引っ越ししたり海外に長期滞在したりしていて、いつ誰がどこにいるか全然わかりません。

この間は、旅好きな社員が「倉貫さん、そろそろ旅の虫が動き出しました」とか言ってきて、3ヶ月間オーストラリアを一周しながら仕事していました。僕より尖っている人がたくさんいるんです。

楠山:面白いですね。

倉貫:最初からこの状態を目指してやってきたわけではないんです。今は全員リモートワークですが、前は渋谷に大きめのオフィスを借りていました。今みたいな働き方をするようになるって分かっていたら借りなかったのにな、と恥ずかしく思うくらいで……。

楠山:そうでしたか。

倉貫:初めて中途採用をしようというとき、全然応募がなかったんです。うちみたいな小さい会社で東京のプログラマを採用しようとしても、無理だったんですね。

それで居住地を不問にしてみたら、兵庫県西脇市に住んでいる人が応募してくれました。西宮市かと思ったら、それよりもずっと田舎の西脇市。最初は「単身赴任するんだよね?」というつもりだったんですけど、相手は「No」だと。「じゃあ、週の半分くらい東京に来る?」とか「家族で引っ越して来るのは?」と聞いても、「奥さんが自宅でパン屋さんをやっているので引っ越しはできない」「奥さんが好きすぎて離れられない」とか言うんです。「それなら仕方ない」という感じで、在宅勤務を始めたんですよ。

楠山:初めて採用する社員だからこそ「近くにいてほしい」という発想もあると思うんです。それをいきなりリモートにしてしまうというのは、ぶっ飛んでますよね。

倉貫:最初はほかに選択肢がなかったんです。でも、移住しようが旅行しながら働こうが、会社として成果が出ていれば別に構わないわけです。本人がやりたいと言っているのを無理に止めるものでもないですよね。そう考えて「いいよ、いいよ」と言い続けていたら、今みたいな働き方の会社になってしまったという、完全に結果論です。

■リモートで自然発生的なコミュニケーションを実現するためにやっていること

楠山:僕は3年前に家族でアメリカに移住しました。普段はアメリカにいて、東京にいる社員とのコミュニケーションツールとしてロボットを使っているんですよ。

プリンシプル社のオフィスにはDouble Robotics社のロボットがある。電動式の車輪が付いたスタンドにタブレットが取り付けられたもので、遠隔操作で動かし、タブレットのカメラで周囲の様子や相手の顔を見ながらコミュニケーションをとることができる。(写真提供:株式会社プリンシプル)
プリンシプル社のオフィスにはDouble Robotics社のロボットがある。電動式の車輪が付いたスタンドにタブレットが取り付けられたもので、遠隔操作で動かし、タブレットのカメラで周囲の様子や相手の顔を見ながらコミュニケーションをとることができる。(写真提供:株式会社プリンシプル)

倉貫:これ、シリコンバレーで見たことがあります。店員のいないお店にこれが置いてあって、入っていくと急に動き出して接客してくれるんです。びっくりしました。

楠山:僕はこれでオフィスの中を動き回って、社員に「ちょっといい?」と声をかけるんです。特にスタートアップでは、「あれやろう」「これやろう」と思いついた瞬間に即席のミーティングができるかどうかが結構大事なんですよね。リモートで相手が何をしているかわからないと話しかけづらいのですが、このロボットで社員の席まで行ってみて、相手がいればすぐに話を始められるのがいいんです。

倉貫:分かります。僕らも雑談と相談を大事にしていて、報告・連絡のための会議はいらないので「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)よりザッソウ(雑談・相談)をしよう」と言っています。

楠山:ザッソウ、いいですね。

倉貫:リモートワークをするようになって、僕らはオフィスの役割についてあらためて考えました。そうすると、個々人が執務をする場所は各自の自宅になり、会議室はテレビ会議というツールに置き換わり、書類や物の置き場が必要なら倉庫を借りればいいから、オフィスは不要なんです。でも、さっき楠山さんがおっしゃった「ちょっといいかな?」と声をかけるというのが、オフィスに一緒にいないとやりにくいんですよね。

経営学などで使われている言葉で「場(Ba)」というものがあります。ナレッジワークにおいて共同で何かをする場所のことです。僕らはオフィスはいらないけれど「場」が必要だと気づいて、ソフトウェアでそれを作りました。「Remotty」というウェブ上で使えるツールなんですけど、これが僕らのオフィスの役割をしていて、ログインすることが「出社」というイメージです。

真ん中に自分がやりとりしているチャットの内容、右側にはみんながやりとりしているチャットの内容がリアルタイムで流れています。画面の上にはたくさん顔が並んでいるのですが、これが今ログインしている人たちの様子を、それぞれのパソコンのカメラで撮影した写真なんです。同僚の仕事中の顔が見えるんですよ。

楠山:オフィスで机を並べて仕事をしているのと同じような状態なんですね。

倉貫:顔が見えないと、いるかどうかが分からなくて声がかけづらいんですよね。例えばSlackでやりとりしているとして、何か聞きたいことがあって「ちょっといい?」と呼びかけて、何も返答がないと寂しいじゃないですか。Remottyなら、相手がいることが分かった上で声をかけられるんです。

楠山:雑談もこの中でするんですね。

倉貫:そうです。朝の「おはようございます」のような挨拶にはじまって、「ちょっと用事があるから席を外します」とか「これからプレゼン資料作り」という独り言のようなものまで、気軽に書き込みます。

Slackのようなチャットシステムでは、30人の社員が「おはようございます」と書き込むと、それぞれに「未読30件」という通知がいってしまう。それは迷惑じゃないかと思うと気軽に書き込めません。だから、僕らのツールでは未読の通知はしません。だけどみんなが書き込んだことが右側に表示されているので、なんとなく会話の様子がわかるし、個人的に話があれば1対1のチャットを始めることもできます。

楠山:そこにいる人たちの間でなんとなく会話が始まるという、自然発生的なコミュニケーションが大事ですよね。僕も、目的をもって特定の誰かと話すというよりは、偶然すれ違う人に声をかけてみんなのモチベーションをケアするようなことにロボットを使っています。

■個人と会社のWin-Winが成り立てば好きな場所に移住もOK

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楠山:さきほど、社員のやりたいことに対して「いいよ、いいよ」と言っていたら結果的に自由度の高い働き方が実現したというお話がありましたが、私も会社を作ったときから、個人が自分らしい幸せな働き方をできる組織を目指しています。

僕は最初、シャープという大企業に入り、自分の声が通らずやりたいことができない、という経験をしました。転職してサイバーエージェントに行くと、ベンチャーなんですけど軍隊みたいな感じで意外と自由がありませんでした。その後トムソン・ロイターグループに入ったのですが、パフォーマンスさえ出していれば何をしていてもいいよ、という外資系らしい合理的なところが性に合って、飽き性にもかかわらず10年くらい在籍していたんです。

それでも辞めて起業したのは、アメリカに身を置いて国際的なビジネスマンになりたいという夢があったからです。この会社が大きくなり、3年前にとうとうその夢を叶えて家族でシリコンバレーに移住しました。

倉貫:そうだったんですか。

楠山:これって、見方によっては僕の個人的な夢を叶えるのに会社を利用したようなところもありますよね。でも、自分がアメリカに行くことで会社にとってどんないいことがあるのかと考えると、IT企業ですからシリコンバレーの生の情報を持って来られるということや、社員が海外研修に来る機会を作れるということ、海外市場を開拓することなどがあります。僕は個人と会社のWin-Winを実現したいので、自分だけでなく他の社員にも自分のWinを追求してもらいたいと考えています。

取締役には、奥さんの「地元に戻りたい」という希望を叶えるために大阪支社を立ち上げた人もいます。それで収益が上がれば会社にとってもWinだよね、ということで、そうしてもらいました。

個人のやりたいことの延長に会社の利益があれば、個人はモチベーション高く仕事ができます。僕も、アメリカのビザが取り上げられるのが怖いから必死で働きますしね(笑)。

倉貫:大阪支社を立ち上げた人も、「自分で言ったからにはやらなきゃ」と頑張るでしょうね。僕は人を会社のために働かせるというのが苦手で、本人がやりたいことをやるのが最もパフォーマンスが高いし、それが結果としてみんなのハッピーにつながるのが、一番いいと思っています。

中編では、個人のWinと会社のWinをどうやってすり合わせるのか、具体的な取り組みが語られます)

※ロボットの写真を除き、写真は筆者撮影