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違反バットを疑われたルーキーが、そのバットでホームランを打つ

宇根夏樹ベースボール・ライター
エリー・デラクルーズ(左)とジョーイ・ボトー Jul 5, 2023(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 7月5日、5回表にホームランを打ったエリー・デラクルーズ(シンシナティ・レッズ)は、バットを持ち替え、ノブの底にある白い突起を指で叩いた後、バットを投げて打席から走り出した。

 下のツイートにあるのが、その動画だ。

 話は、2回表の1打席目まで遡る。デラクルーズは、審判にバットをチェックされた。ノブの底についている、突起しているだけでなくカバーのようにノブを覆っているものが何なのか、それは違反なのかどうか、ということだったらしい。

 バリー・スポーツ・シンシナティによると、これは、「ブラスト・モーション・センサー」のカバーだという。スウィングや投球がバットに当たった時のインパクトなどを計測するセンサーを覆う、プラスティックだ。

 メジャーリーグの試合において、このセンサーの使用は認められていない。だが、マイナーリーグでは使用することができる。

 デラクルーズは、先月6日にメジャーデビューした。センサーは外したものの、カバーはそのままつけているようだ。シンシナティ・エンクワイアラーのチャーリー・ゴールドスミスは、ツイッターに「エリーはシーズンを通してそうしている。これは、メジャーリーグにおける最初のシリーズの写真だ」と書き込み、写真をアップしている。

 カバーをそのままにしていたのは、慣れたバットの状態を変えたくなかったのか、験担ぎのようなものかもしれない。

 バットをチェックした審判は、カバーを外すよう、デラクルーズに求めた。カバーなしのバットを持ったデラクルーズは、空振り三振を喫した。

 その後、MLB機構から、カバーをつけていても問題なし、という判断が下された。デラクルーズは、2打席目と4打席目こそレフト・フライと三振に終わったものの、3打席目のホームランに加え、5打席目と6打席目は続けて二塁打を打ち、1本目の直後には三盗も決めた。

 厳密には、どの打席もまったく同じバットを使用したのかどうかは不明だが、同じモデルの違うバットであったとしても、カバーがついているという点では「同じバット」と看做していいだろう。

 デラクルーズは、ここまで26試合に出場し、打率.318(110打数35安打)と出塁率.356、OPS.892を記録している。長打は、ホームランが4本、三塁打が2本、二塁打は8本だ。デビューから15試合目にはサイクル・ヒットを達成し、盗塁は11を数える。

 サンプル数としてはまだわずかながら、パワーとスピードを兼ね備えたトップ・プロスペクトが、スーパースターへの階段を一気に駆け上がろうしているように見える。

 サイクル・ヒットについては、こちらで書いた。

「このチームのサイクル安打は34年ぶり。新たに「最もサイクル安打から遠ざかるチーム」となったのは」

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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