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「国内製造」と表示された食品 国産かと思ったら…… 消費者を惑わすと批判 見直しを求める声も

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:イメージマート)

スーパーなどで売られているパンやカップ麺の原材料欄に「国内製造」という表示をこの2、3年、よく見かけるようになった。それを見て国産と思い購入する消費者もいるようだが、実は多くの場合、主原料は外国産だ。消費者を惑わせ、さらには日本の食料自給率に悪影響を及ぼしかねないとして、制度の見直しを求める声が上がっている。

700人が参加、国会議員も耳を傾ける

5月28日、衆議院第一議員会館内の大会議室で「輸入原料で『国内製造』って何?正しい食品表示を求める市民の集い」と題したシンポジウムが開かれた。関係者によると、オンラインも含めた参加者は約700人。この問題に対する関心の高さをうかがわせた。各党の国会議員も顔を出し、専門家の説明や消費者らの不満や不安の声に耳を傾けた。

主催した市民グループ「食品表示問題ネットワーク」の原英二氏は、国内製造表示の問題点を詳しく解説した上で、同表示は「消費者の『選ぶ権利』を侵害し、また、国産原料を使用している事業者を競争上、不利な立場に追いやっている」と指摘。同表示をなくせば「国産の農産品の使用が増え、食料自給率の向上にも貢献する」とも強調した。

2022年4月に全面施行

「国内製造」は食品表示のルールを定めた「食品表示基準」が2017年9月に改正・施行されたのに伴い新たに導入された表示で、猶予期間を経て2022年4月に全面施行された。

食品表示基準は原則、国内で製造されるすべての加工食食品に対し主原料の原産地を表示するよう義務付けている。例えば、あるハム製品が米国産の豚ロース肉を使っているなら、原材料欄には「豚ロース肉(アメリカ産)」などと表示しなければならない。国産の生乳で作ったヨーグルトなら「生乳(国産)」といった具合だ。

例外もある。その一つがパンやカップ麺など小麦粉製品に関する表示だ。例えば、ある食パンが、米国で栽培され日本に輸入された小麦から作られていたとする。食品表示基準の大原則に従えば「小麦(アメリカ産)」と表示されるはずだ。しかし実際には、米国産とはどこにも書いてなく、単に「小麦粉(国内製造)」と表示される場合が大半を占める。これが、問題となっている国内製造表示だ。

確認しようがなく、選べない

なぜ、こんな規定が設けられたのか。食品表示行政を所管する消費者庁から食品表示問題ネットワークへの書面回答によれば、小麦粉製品など、直接の原料が農産品(この場合、小麦)ではなく農産品を加工したいわゆる加工原材料(この場合、小麦粉)の場合は、「原材料の調達先が変わることや、当該加工食品の生鮮原材料まで遡って産地を特定することが困難」との理由からだ。

つまり、小麦がどこで栽培されたのか把握できないので表示できないのだという。トレーサビリティの考え方が広く普及している現在においては、やや不思議な理由だ。ただし、産地が特定できる場合は通常の表示も認められている。国産小麦を使用しているパンやカップ麺は、「小麦粉(小麦(北海道産))」などと小麦の産地まで表示しているものも多い。

国内製造表示を消費者側が問題視するのは、第一に、この表示が消費者基本法にもうたわれている消費者の「選択する権利」や「知らされる権利」を侵害している可能性があるためだ。

消費者庁が2016年3月に実施した消費者調査で、産地情報を入手する手段を消費者に聞いたところ(複数回答)、92.6%が「食品に表示されている表示を確認」すると回答。2位の「ホームページを見る」(18.1%)を引き離した。だが、小麦粉製品のように食品に原料の生産地が書いていなければ、消費者は産地情報を確認しようがなく、選択もできない。

消費者の3割が誤解

第二は、消費者を惑わしかねない点だ。日本消費者連盟などが昨秋、東京の原宿と阿佐ヶ谷で行った街頭調査では、回答者の約3割が「国内製造」の意味を誤って理解していた。

調査では「小麦粉(国内製造)」と表示された食パンの原材料欄を見せて、小麦の生産地はどこだと思うかを「日本(国産)」、「海外(輸入)」、「生産地はわからない」の3つの選択肢から選んでもらった。正解は、生産地はわからないだが、原宿では29%、阿佐ヶ谷では33%が国産と答えた。

これが大きな問題なのは、日本人の多くは国産品を選びたいと思っているのに、表示のせいで誤って輸入品を選んでしまっている可能性があるためだ。消費者庁の調査では、国民の65.4%が「原料が国産のものを選びたい」と答えている。

輸入小麦に残留農薬

特に輸入小麦は、近年、残留農薬が問題となっており、できれば国産小麦を選びたいというニーズは高い。

5月28日のシンポでは、一般参加者を含む発言者から「グリホサート」という言葉が何度も聞かれた。グリホサートは世界で最も使用されている除草剤だが、世界保健機関(WHO)の専門機関である国際がん研究機関が2015年に「ヒトに対しておそらく発がん性がある」と発表した。米国ではがん患者らが開発企業を相手取って巨額訴訟を起こしている。

農林水産省が2017年度後半に実施した輸入小麦に対する残留農薬検査では、米国産とカナダ産のすべてのサンプルからグリホサートが検出された。米国産とカナダ産は合わせると輸入小麦の約8割を占める。農民連食品分析センターが2019年に行った食パン検査でも、小麦の原産地が不明なブランドほぼ全てからグリホサートが検出された。国産小麦を使用とうたった製品からは検出されなかった。

国の安全基準は絶対ではない

いずれの検査でも検出濃度は国の定める安全基準値を下回った。だが、安全基準値は最新の研究で新たな毒性が発見されたりした場合などに変わる可能性がある。実際、内閣府食品安全委員会、環境省、農水省、厚生労働省は現在、グリホサートやネオニコチノイド系農薬など主な農薬を対象に、現行の安全基準値が最新の研究成果と照らし合わせて妥当かどうか再評価する作業を共同で進めている。

このように国の安全基準は絶対とは言えないだけに、たとえ検出濃度が安全基準値を下回っていたとしても、残留農薬が確認されたものは食べたくないと考える消費者は少なくない。きちんとした原産地表示が必要という声が多いのも、このためだ。

国会でも議論

国内製造表示問題は6月4日の衆議院消費者問題に関する特別委員会でもとり上げられた。

質問に立った立憲民主党の山田勝彦議員は「国産小麦と表示できるようになれば消費者は積極的に国産小麦が原料のパンや麺を選択するようになり、間違いなく我が国の食料自給率が向上していく」などと述べ、食品安全を担当する自見はなこ内閣府特命担当大臣に表示基準の見直しを迫った。

これに対し自見大臣は、現行の表示基準は消費者の代表や事業者の代表など様々な立場の代表が集まって議論した結果であるなどと述べるにとどまり、見直しへの直接的な言及はしなかった。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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