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15年4億4000万ドルを拒否したソトは、ベッツらのように「トレード&延長契約」の道を歩むのか

宇根夏樹ベースボール・ライター
ホアン・ソト/右奥はスコット・ボラス Jul 18, 2022(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ワシントン・ナショナルズは、ホアン・ソトと延長契約を交わそうとしていた。けれども、交渉はうまくいっていない。それについては、「15年4億4000万ドルの申し出を拒否!? 総額は史上最高のトラウトを上回るが…」で書いた。さらに、「オールスターに向かう「チャーター便」を用意されなかった2人の明暗」で紹介したエピソードを踏まえると、ソトとナショナルズの関係は、悪化しているようにも見える。

 この夏にトレードが実現した場合、獲得した球団は、2024年のシーズンが終わるまで、ソトを保有できる。その間に、契約延長の交渉を行うことも可能だ。

 FAになるまでの2シーズン強(2022~24年)だけ、ソトを保有できればいいと考える球団は、まずない。仮にあったとしても、それでは、トレードは成立しないだろう。ナショナルズは、契約延長の交渉ができる――契約がまとまれば、さらに長くソトを保有できる――という点を含め、相手に見返りを要求するはずだ。

 ソトの獲得に動く球団が思い描いているのは、以下のような、トレード&延長契約の流れだろう。

 昨オフ、オークランド・アスレティックスからアトランタ・ブレーブスへ移ったマット・オルソンは、トレードの翌日に8年1億6800万ドル(2022~29年)の延長契約を交わした。フランシスコ・リンドーア(ニューヨーク・メッツ)とムーキー・ベッツ(ロサンゼルス・ドジャース)も、このパターンに当てはまる。リンドーアは、昨年1月にクリーブランド・インディアンズからメッツへ移籍し、3ヵ月後に10年3億4100万ドル(2022~31年)の延長契約を締結した。ベッツは、ボストン・レッドソックスからドジャースへ移ったのが2020年2月で、12年3億6500万ドル(2021~32年)の延長契約を交わしたのは2020年7月(開幕直前)だ。彼らを獲得した球団は、トレードの時点で、契約を延長するつもりでいた。

 ただ、気になるのは、ボラスの方針あるいは傾向だ。オルソン、リンドーア、ベッツの代理人は、いずれもボラスではない。一方、2018年のオフ以降、総額1億5000万ドル以上の契約を手にしたボラスの顧客は、7人ともFA市場に出ている。

 この7人が揃って延長契約の申し出を断ったわけではなく、なかには、申し出をされなかった選手もいる。だが、昨オフに10年3億2500万ドル(2022~31年)の契約を得たコリー・シーガー(テキサス・レンジャーズ)は、ロサンゼルス・タイムズのホルヘ・キャスティーヨによると、昨シーズンが始まる前に、ドジャースが申し出た8年2億5000万ドルの延長契約を却下したという。時期は異なるものの、ナショナルズからFAとなった2人、ブライス・ハーパー(フィラデルフィア・フィリーズ)とアンソニー・レンドーン(ロサンゼルス・エンジェルス)も、シーガーと同様だ。

 ソトを獲得した球団は、ナショナルズが提示してソトが断った、15年4億4000万ドルを上回る契約を申し出るはずだ。けれども、ソトもしくはボラスが、提示された延長契約を受け入れるよりも、FA市場に出たほうがいい契約を得られる、と判断すれば――延長契約とFA後の契約はスタートする時期の違いなど、単純に比較はできないものの――こちらも却下はあり得る。

 なお、ここから、ナショナルズが新たな申し出をして、ソトを引き留めようとする可能性も、皆無とは言いきれない。例えば、総額はそのままでも、年数を短くすれば、年平均額は上がる。15年4億4000万ドルの年平均額は2933万ドル(1000ドルの位を四捨五入)だが、3年短い12年4億4000万ドルなら、年平均額は3667万ドルとなる。

 年平均額の史上トップ2は、マックス・シャーザー(メッツ)の4333万ドルとゲリット・コール(ニューヨーク・ヤンキース)の3600万ドルだ。契約全体は、シャーザーが3年1億3000万ドル(2022~24年)、コールは9年3億2400万ドル(2020~28年)なので、4年以上の契約ではコールの年平均額が最も高く、3667万ドルであれば、それを凌ぐ。

 ちなみに、シャーザーもコールも、ソトと同じく、代理人はボラスだ。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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