Yahoo!ニュース

大谷翔平の打順は「1番」がベストなのか。大谷を「1番」に起用する理由は…

宇根夏樹ベースボール・ライター
デビッド・フレッチャー(左)と大谷翔平(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)は、「1番・DH&投手」として、開幕を迎えるようだ。今シーズンから「大谷ルール」が導入されるので、DHを解除するわけではない。この新ルールについては、「「大谷ルール」はありか、なしか。導入されれば、降板後もDHとして打席に立てる」「「大谷ルール」には「DH&投手→DH」以外のパターンもあり」で書いた。

 1番打者は、他の打順の選手と同じか、それよりも多くの打席に立つ。シーズンを通して、打順が1番なら、ホームランを打つ機会も多くなる。大谷は、リードオフ・ホームラン(先頭打者本塁打)のシーズン記録を更新するかもしれない。この記録は、広島東洋カープでもプレーしたアルフォンソ・ソリアーノが持つ。今から19年前に、13本の先頭打者本塁打を打った(「シーズンを通して1番打者なら、大谷翔平は「先頭打者本塁打」のシーズン記録を塗り替える!?」)。

 昨シーズン、大谷の出塁率.372は、エンジェルスで200打席以上を記録した13人のなかで、最も高かった。96四球から敬遠の20四球を除いて計算した.352も、2番目に高いジャレッド・ウォルシュの.340を上回る。加えて、大谷にはスピードもある。昨シーズンは、盗塁成功率こそ72.2%とやや低めながら、両リーグ8位の26盗塁を決め、三塁打は最多タイの8本を数えた。

 また、大谷の後ろには、マイク・トラウトアンソニー・レンドーン、ウォルシュが続く見込みだ。大谷とトラウトだけでなく、スラッガーが4人並ぶ。

 レンドーンは、昨シーズンこそ故障に泣かされたものの、その前の4シーズン――2019年まではワシントン・ナショナルズ――は、いずれもOPS.900以上を記録している。2017~19年のホームランは、それぞれ、25本、24本、34本。際立って多いわけではないが、二塁打は3シーズンとも40本を超えた(短縮シーズンの2020年は、ホームランが9本、二塁打は11本)。2017~19年に打った計129本の二塁打は、このスパンの3位タイに位置する。

 昨シーズンのウォルシュは、2020年9月の9本塁打&OPS1.113がフロックではなかったことを証明した。30本塁打まであと1本に迫り、左投手に苦戦したとはいえ、対右はOPS.994を記録した。こちらは、右投手との対戦が300打席以上の176人中7位だ(大谷の.954は13位)。

 ただ、打順が1番だと、全打席の4分の1あるいは5分の1は、自動的に走者なしとなる。初回の打席がそうだ。大谷のようなパワーはなくても、出塁率の高い選手がいれば、その選手を1番に据え、そこから、大谷、トラウト……とするほうが、より多くの得点を挙げられそうな気がする。この場合、2番打者の大谷は、出塁した1番打者を生還させるラン・プロデューサーの役割とともに、自身が出塁して得点機会を作るテーブル・セッターの役割も担う。

 昨シーズン、エンジェルスで1番打者としての先発出場が最も多かったのは、87試合のデビッド・フレッチャーだ。その前の2シーズンも、同様だった。現在も、フレッチャーはエンジェルスにいる。年齢もメジャーデビューした年も、大谷と同じだ。今シーズンは二塁から遊撃へ移る予定だが、レギュラーであることに変わりはない。けれども、フレッチャーの出塁率は、2019年の.350と2020年の.376に対し、2021年は.297と大きく落ち込んだ。打順1番の出塁率に限っても、.371→.371→.305だ。

 ジョー・マッドン監督が、大谷を1番に起用するのは、これが最大の理由ではないだろうか。

 昨シーズンのエンジェルスでは、フレッチャーの他に、ジャスティン・アップトン、大谷、ブランドン・マーシュの3人が、1番打者として二桁の先発出場を記録した。それぞれ、25試合、23試合、14試合だ。それらの試合の出塁率は、アップトンが.407、大谷が.388、マーシュは.292だった。

 サンプル数はわずかながら、この数値からすると、大谷ではなくアップトンが1番打者でもいいように見える。だが、アップトンはレギュラーではない。外野には、トラウトとマーシュに、ジョー・アデルがいる。DHは大谷だ。右打者のアップトンは、対左用のレフトあるいは一塁手として、ともに左打者のマーシュもしくはウォルシュと併用されるだろう。対左の試合は対右よりも少なく、バックアップに近い。今シーズンがメジャーリーグ16年目となるアップトンは、マイナーリーグでも外野しか守っていないものの、今春のエキシビション・ゲームには、一塁手としても出場している。

 今オフ、エンジェルスに加わったマット・ダフィータイラー・ウェイドは、昨シーズン、出塁率.357と.354を記録したが、規定打席には達していない。2人とも、遊撃のポジションを争う、あるいは分け合うことからも窺えるとおり、レギュラーとしては物足りない。

 大谷の打順1番は、現時点のエンジェルスでは最上の選択肢、ということになる。

 なお、フレッチャーの打順は、昨シーズンの試合で1番から外された際の多くがそうだったように、9番が予想される。試合が始まってすぐ以外は、1番を打つ大谷の「直前」に位置する。フレッチャーが出塁できるかどうか――――走者がいる場面で大谷が打席に立てるかどうか――は、今シーズンも、エンジェルスにとって重要な要素となる。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

宇根夏樹の最近の記事