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「大谷ルール」はありか、なしか。導入されれば、降板後もDHとして打席に立てる

宇根夏樹ベースボール・ライター
大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)Mar 21, 2022(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 これまで、DHのある試合に、大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)が打者と投手の両方として出場する場合は、DHを解除する必要があった。リリーフ投手と交代すると、他のポジションへ移らない限り、大谷が打席に立つ機会も、そこで終わっていた。その後、投手に打順が回ってきた時には、続投させたいのであれば、代打を起用せずにそのまま打たせなければならなかった。

 けれども、今シーズンからは、そうではなくなるかもしれない。ニューヨーク・ポストのジョエル・シャーマンが3月22日に報じた記事によると、MLB機構と選手会が暫定の合意に達した、いくつかの新ルールのなかには、打者としてもラインナップに名を連ねた先発投手は、降板後もDHとしてラインナップに残ることが可能、というルールがあるという。来週、オーナーたちによる投票が行われ、そこで採用か不採用が決まる。

 これは、昨年のオールスター・ゲームにおける特別ルールと同じだ。ア・リーグの「1番・投手」として先発出場した大谷は、1イニングを投げてランス・リン(シカゴ・ホワイトソックス)と交代した後も、DHとしてラインナップに残り、3回表に2打席目を迎えた。

 気になるのは、この新ルールが施行されることで恩恵を受けるのは、現時点では大谷がいるエンジェルスだけ、という点だ。

 例えば、投手としてはよく打つ、マディソン・バムガーナー(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)やザック・グレインキー(カンザスシティ・ロイヤルズ)にしても、延長戦に入って起用できる野手が尽きた場合を除けば、打席に立つとは思えない。2017年のドラフト全体4位、ブレンダン・マッケイ(タンパベイ・レイズ)は、2019年に投手とDH、代打と代走として、計18試合に出場したものの、故障もあり、過去2シーズンはメジャーリーグでプレーしていない。また、エンジェルスには、大谷だけでなくマイケル・ロレンゼンもいるが、通算7シーズンの打撃成績は、打率.233(133打数31安打)と出塁率.282、7本塁打に過ぎない。しかも、直近の2シーズンは1打席ずつだ。

 ダラス・モーニング・ニューズのエバン・グラントは「球界は大谷をプロモートするためにできることは何でもすべきだが、このルール変更はエンジェルスに不公平な利益をもたらす。投手はロースターの26人中13人以内なのに、彼らは実質的に14人の投手を擁することができる」とツイートしている。グラントは、テキサス・レンジャーズのビート・ライターだ。エンジェルスとレンジャーズは、どちらもア・リーグ西地区に属する。だが、グラントがレンジャーズに肩入れしているかもしれないという点(そうではないと思うが)を差し引いても、この発言には一理あるように思える。

 ショウヘイ・オオタニ・ルール――シャーマンをはじめ、すでにこう称しているメディアは少なくない――は、ツー・ウェイ・プレーヤー(二刀流選手)の増加につながる、という見方もできる。もっとも、これから二刀流選手が増えるとすれば、打席に立つ機会が1登板に1~2度増えることよりも、大谷の活躍そのものが理由だろう。大谷の人気に乗っかろうとしているのが、このルールの本質のように感じられる。もちろん、そうであっても悪いとは思わないが、そのために、特定の選手やチームだけに利益をもたらすのは、健全なことなのだろうか。

 大谷の活躍により、彼に続く二刀流選手が増え、その結果として、新ルールが制定される、という順序のほうが、すっきりするような気がする。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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