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大物投手のトレードで「残念」なこと。獲得したチームが強くなりすぎたからではなく

宇根夏樹ベースボール・ライター
ザック・グレインキー(ヒューストン・アストロズ)Aug 6, 2019(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 この夏に移籍した最も大物の選手は、7月31日のトレードでアリゾナ・ダイヤモンドバックスからヒューストン・アストロズへ移った、ザック・グレインキーだろう。

 通算197勝を挙げ、防御率リーグ1位は2度。最初にタイトルを獲得した時は、サイ・ヤング賞も受賞した。35歳とはいえ、これらは過去の栄光ではなく、今シーズンも移籍するまで、23試合に先発して防御率2.90を記録した。K/BBも6.43と極めて優秀。8月6日の新天地デビューは6回5失点ながら、打線の援護を受け、通算198勝とした。

 グレインキーが加わったことで、アストロズは2年ぶりのワールドチャンピオンに近づいた。それについては、「トレード・デッドライン総括。グレインキーを獲得したアストロズが、ワールドチャンピオンの筆頭候補に!?」で書いた。

 ただ、この移籍には、残念に思うことが一つある。ダイヤモンドバックスで、グレインキーは打率.271(48打数13安打)、3本塁打、1三塁打、4二塁打、OPS.883を記録していた。

 今シーズン、3本以上のホームランを打っている投手はグレインキーしかおらず、三塁打1本と二塁打4本も最多タイだ。長打8本は、2番目に多いブランドン・ウッドラフ(ブルワーズ)の2倍。ウッドラフの長打は、いずれも二塁打だ。また、二塁打、三塁打、ホームランをいずれも打っている投手は、グレインキー以外にいない。現在、最もサイクル・ヒットに近い投手と呼ぶのは大袈裟にしても、投手では最高のスラッガーと言っていいだろう。

 もともと、グレインキーは打てる投手だ。今シーズンほど打率は高くないものの、昨シーズンまでの通算542打席(469打数)で、ホームランは6本、二塁打は25本を数える。さらに、今シーズンの1盗塁を含め、通算9盗塁を決めていて、刺されたことは一度もない。

 それが、ナ・リーグのダイヤモンドバックスからア・リーグのアストロズへ移り、グレインキーが打席に立つ機会は、ほぼ消滅した。ここから、アストロズがナ・リーグの球場で試合を行う――DHがない――のは、9月2日と3日のミルウォーキー・ブルワーズ戦だけだ。グレインキーがこのどちらかに投げたとしても、打席に立つのは多くて5打席。ダイヤモンドバックスでは1試合4打席が1度あるだけで、他は3打席以下だった。代打でも3度起用され、ヒットを1本打っているが、よほどのことがない限り、アストロズがグレインキーを代打として使うことは考えにくい。

 ワールドシリーズの場合、ナ・リーグのホーム・ゲームはDHがない。もっとも、アストロズがワールドシリーズへ進んだとしても、グレインキーが打席に立つ機会は、こちらも多くて1試合の可能性が高い。第1~2戦と第6~7戦をホームで行う「ホーム・フィールド・アドバンテージ」は、レギュラーシーズンの勝率が高いチームに与えられる。現在、アストロズの勝率は.649だ。ロサンゼルス・ドジャース(.652)を除くナ・リーグの14チームは、勝率.600を下回る。

 なお、これまでのワールドシリーズでは、13人の投手がホームランを打っている。ボブ・ギブソンデーブ・マクナリーは2本ずつだ。計15本のうち、1975年以降のホームランは、2008年の第4戦にジョー・ブラントンが打った1本しかない。

 ア・リーグは1973年にDHを採用した。ワールドシリーズは1976年からだ。1976~85年の10年間は、偶数年が全試合DHありで、奇数年は全試合DHなし。1986年以降は、ホーム・フィールド・アドバンテージの決め方こそ変遷しているものの、現行のとおり、ア・リーグのホーム・ゲームがDHあり、ナ・リーグのホーム・ゲームはDHなしとなった。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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