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同じ日に同じチームで起きたプラスとマイナス。「史上最少イニングの1500奪三振」と「投手コーチ解任」

宇根夏樹ベースボール・ライター
左から2人目がS.ストラスバーグ、右端がD.リリクイスト Jun 8, 2018(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 5月2日、スティーブン・ストラスバーグ(ワシントン・ナショナルズ)が、史上最少のイニングで1500奪三振に到達した。それまで最も少なかったクリス・セール(ボストン・レッドソックス)の1290.0イニングに対し、ストラスバーグは1272.1イニング。2~3試合分、記録を縮めた。

 その日の試合後、ナショナルズはデレク・リリクイスト投手コーチの解任を発表した。後任には、傘下のマイナーリーグでピッチング・コーディネーターを務めていた、ポール・メンハートを据えた。

 投手コーチの交代は、理解できる。前日の時点で、チーム防御率は4.82。ブルペンに限れば、防御率5.87とさらに悪かった。けれども、なぜこのタイミングだったのか。

 1回表のマウンドに上がった時、ストラスバーグはマイルストーンまで8奪三振に迫っていた。その前の6登板中、奪った三振が8より少なかったのは1試合だけ。この試合で1500奪三振に到達する確率は、かなり高かった。それと同じ日の投手コーチ解任は、いい知らせで悪い知らせを覆い隠そうとする――あるいはマイナスのイメージを和らげようとする――どこかの政権に似ている気もする。

 また、史上最少イニングの1500奪三振も、手放しでは称賛できない。ストラスバーグはメジャーリーグ10年目だ。これは、1400イニング未満で1500奪三振に到達した8人のなかでは、12年目のケリー・ウッドに次いで遅い。ストラスバーグとウッドは、ともに2年目を迎えるまでにトミー・ジョン手術を受け、その後も故障を繰り返したことも共通する。ウッドが200イニング以上を投げたシーズンは2度しかなく、9年目の2007年からはリリーフに転向した。ストラスバーグの200イニング以上は、2014年の1度きり。180イニング以上も2013年と14年の2度だけで、過去4シーズン(2015~18年)の規定投球回クリアは、2017年の1度しかない。

筆者作成
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 ただ、ランディ・ジョンソンが5度のサイ・ヤング賞を手にしたのは、いずれも31歳で1500奪三振に到達してからだ(1度目は1500奪三振のシーズン)。ストラスバーグのチームメイトで、ランディと同じく到達時に31歳だったマックス・シャーザーも、3度のサイ・ヤング賞のうち2度目と3度目は、1500奪三振の翌シーズンから続けて選ばれた。現在、ストラスバーグは30歳。ここから健康を保つことができれば、サイ・ヤング賞だけでなく、ランディのように殿堂へ達するキャリアを築く時間はまだある。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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