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2022年に大反響のあった食の事件に関する記事トップ5 マツコ氏と有吉氏を抑えて1位になったのは……

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

大きな反響があった食の記事

新型コロナウイルスの新規感染者数は多く、まだピークも見えませんが、2022年は行動制限のない年末となりました。飲食店は営業時間や酒類提供を大きく制限されず、利用者は自由に楽しく食事できたと思います。

昨年1年間も、新しいレストランや興味深いプロモーションを紹介したり、新料理長の就任や食のトレンドなどを取り上げたりしました。同様に、炎上して世間を騒がせた食の事案を考察した記事も書いています。

2022年はどのような食の事件が起きたのでしょうか。

当記事では、2022年の1年間を通して、PVやSNSの反応から鑑みて、大きな反響のあった食の事件に関する記事を振り返ります。

5位/「ヒルナンデス!」がフルーツサンド1,000個を無駄に

行列店が「ヒルナンデス!」撮影中止でフルーツサンド1,000個を無駄に! 3つの疑問に対する考察(東龍)/Yahoo!ニュース

これまで色々なノーショー(無断キャンセル)やドタキャン(直前キャンセル)に関する記事を書いてきましたが、この事案は、一般の利用者ではなく、テレビ番組の制作者によるノーショーだったことが特徴的です。

東京都目黒区の行列ができるフルーツサンド専門店で起きたこと。21時に日本テレビ系の情報番組「ヒルナンデス!」から連絡があり、翌日18時から撮影することが決まりました。しかし、約束の日時になっても撮影クルーは訪れません。19時になってようやく連絡が入り、時間がないので撮影に行けないといわれました。

同店によれば、撮影に合わせて用意された1,000個のフルーツサンドが無駄になったといいます。後になって日本テレビから直接謝罪がありましたが、番組では触れられませんでした。

一方的に撮影がなくなり、紹介もされませんでしたが、裏を返せば、同店の紹介はあってもなくてもよかったということ。企画の構成に影響せず、時間が押したら撮影しなくてもよいという程度であれば、そもそも打診するべきではありません。なぜならば、取材される店にも準備が必要だからです。最低でも、撮影がなくなって放送されない可能性があることを事前に伝えておき、その上で取材の可否を尋ねるべきだったのではないでしょうか。

テレビで紹介されるのは大きなステータスなので、飲食業界は喜んで協力するかもしれません。しかし、テレビ業界がそれをよいことに、飲食業界を都合のいい消費物として扱うことは大きな問題です。取材者と被取材者は対等な関係にあるだけに、誠実な取材を行う必要があります。

4位/子連れ入店の拒否

人気ラーメン店の行列に並んだのに子連れで入店拒否の悲劇! 飲食店が子どもお断りの裏側(東龍)/Yahoo!ニュース

弁護士ドットコムの記事で取り上げられた相談です。

相談者いわく、家族で人気ラーメン店の行列に並び、いざ入店する時になって、スタッフに子どもは断っているといわれ、入店できなかったといいます。後で電話して子連れ拒否の理由を尋ねたところ、狭い店なので席がバラける可能性があること、他のお客さんもいること、ゆっくりできないことが挙げられました。ラーメン店は公式サイトやSNSを全く運営しておらず、グルメサイトでも子連れNGという記載はありません。

同サイトでは、法的には子連れ拒否は差別ではなく、問題ないと判断。飲食店の経営はビジネスなので、客が店を選ぶように、店も客を選ぶのは仕方ないと思います。

では、どうして子連れお断りの飲食店に訪れてしまうことになったのでしょうか。

飲食店へは、事前に予約して訪れる場合と、予約しないで訪れる場合があります。

事前に予約して訪れる場合には、インターネットを利用するか、架電するかのどちらかになるでしょう。予約時のやり取りや登録を通して、子連れNGがわかって諦めることもあります。実際に店へ足を運んでから、入店拒否されるよりもずっとよいです。

ファインダイニングと違って、ラーメン店は非常にカジュアルな業態なので、予約して訪れることはほとんどありません。ラーメン店は、回転率が重要であったり、予約の管理が大変であったりするので、ウォークイン客をどんどん入れた方がよいでしょう。

予約しない業態にあっては、子連れNGなどの入店制限に気付きにくいという背景があります。

飲食店は、オペレーションに余裕がないかもしれませんが、重要となる事項だけでもインターネットやSNSに記載しておき、客は少しでも気になることがあれば電話やメールで確認するのが、ミスマッチを解消する最もよい方法ではないでしょうか。

3位/マツコ氏と有吉氏による給食への文句

マツコ・デラックス氏と有吉弘行氏による小学校の給食に対する指摘はなぜ間違っているのか?(東龍)/Yahoo!ニュース

マツコ・デラックス氏と有吉弘行氏が出演するテレビ朝日「マツコ&有吉 かりそめ天国」で学校給食を取り上げていました。

小学2年生の女子が、先生から給食のデザートは最後に食べなさいと指示されたところ、「食べたい時に食べたい」と反論。マツコ氏は「西洋料理のマナーを勉強させたいのかね?」、有吉氏は「給食なんてバイキングと一緒なんだから、好きに食べりゃいいんだよ」と援護します。

マツコ氏は「お腹いっぱいにさせないためかな?」「だったら1品1品出しなさいよ」、有吉氏は「もうデザート隠しとけよ!食べた者にだけあげればいい」とも言及。さらに有吉氏は「量も各々違っていいんだよね」、マツコ氏は「嫌いなものを無理して食べさせるのは良くない、あれみんなトラウマになってるから」といいます。

影響力のある2人だけに、これらの発言が気になっていました。

学校給食は学校給食法によって定められており、かいつまんで説明すれば、栄養をとること、望ましい食習慣を養うこと、学校生活を楽しくすること、食文化やつくり手について学ぶことが挙げられます。これをもとにしてデザートなどを食べる順番も推奨されていますが、学校給食法を知らずとも、子供を育てたことがある親であれば、当然のことではないでしょうか。

給食がバイキング=ブッフェと同じであるという主張も正しくありません。給食では前菜、主菜、デザートの食事1人分が同時に提供されますが、ブッフェではテーブルに最初は何も置かれておらず、自分でブッフェ台に行って取るというスタイルだからです。

学校給食について2人から厳しい意見が浴びせられましたが、日本の学校給食は世界からも評価されています。栄養士が子供に必要な栄養を考え、調理師が昼食時間にぴったり合うよう数百人分の食事をつくり上げるのは、敬服に値すること。学校給食によって、食への関心をもたせ、食材の生産者や調理人などのつくり手に感謝できるようにさせるのは、非常に大切なことです。

テレビをはじめとしたメディアは、日本の未来のためにも、日本にいる自分たちの子孫のためにも、日本の食について正確かつ真摯なコンテンツを制作するように努めるべきでしょう。

2位/TBS「ジョブチューン」で1年に2度も大炎上

元日のTBS「ジョブチューン」でコンビニのおにぎりを“食べずに不合格”で大炎上!! 本当の問題は……(東龍)/Yahoo!ニュース

TBS「ジョブチューン」でロイヤルホストのパンケーキが酷評されて大炎上! 繰り返される問題の原因は?(東龍)/Yahoo!ニュース

TBS「ジョブチューン」では、料理人やパティシエなど7人の審査員が、ファミリーレストランや回転寿司からコンビニや食品メーカーなどの商品を審査し、4人以上が合格とすれば合格商品として認定されます。

この人気番組で、1年間に2回も炎上事件が起きました。

最初は1年前となる2022年1月1日の元日放送。ファミリーマートが開発したおにぎり「和風ツナマヨネーズ」を、ある審査員が「食べてみたい気にならない」と食べるのを拒否。商品開発者が涙ぐみながら哀願したことで、ようやく少しだけ口にしますが、結果は不合格。審査員が食べずにジャッジしようとしたこと、および、こういった演出をとったり、このシーンをカットしなかったりしたことが非難され、大炎上しました。

次は2022年11月26日の放送。ロイヤルホストの看板メニュー「パンケーキ」に対して、6人の審査員が不合格。厳しい言葉を発した料理人に中傷がありました。この料理人が、ポジティブなコメントをカットされたことやギャランティが発生しないことなどを真摯に説明したところ、事態が急転。制作側の演出に瑕疵があると指摘されています。

1年間に2度も炎上したのは、制作側に問題があると考えてよいでしょう。

まず、レギュレーションがしっかりと定められていないことが問題。どのようにして評価するべきかという軸がなく、何かしらのポリシーをもって商品を評価しようとしているとは感じられません。そのため、審査員の好みがダイレクトに反映されただけの極めて主観的な評価となり、批判を受けやすくなっています。

次の問題は、つくり手に対するリスペクトの欠如。大手のファミリーレストランやコンビニエンスストアと、個店が多くを占める飲食店や洋菓子店では、同じつくり手でもポリシーや経営的な志向が全く異なります。それにもかかわらず、あえて価値観が全く異なる二者をセンシティブな場に放り込んだ上に、編集して切り取り、意図的により刺激的なシーンに仕上げているのは、配慮に欠けているとしかいいようがありません。

飲食業界を分断して、不必要に緊迫したコンテンツを制作するのではなく、飲食業界を盛り上げてもらえるような“心ある番組”に生まれ変わることを期待したいです。

1位/携帯電話を充電できない飲食店

ロンブー田村淳氏の投稿で非難が殺到! 携帯電話を充電できない飲食店はケチなのか?(東龍)/Yahoo!ニュース

人気お笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳氏がラーメン店で食事していたところ、ある夫婦が訪問しました。「携帯を充電したい」といい、「充電の設備がないのですみません」と店主が答えると、夫婦は「ケチな店」だといい残し、退店したといいます。

田村氏が「耳を疑う」とTwitterに投稿したところ、大きな反響がありました。そのほとんどは、夫婦に対する非難です。

改めて飲食店の空間的な価値を説明しなければならないと思った事案になりました。

ラーメン店は回転率の高いファストフードにあたります。こういった業態では、充電を提供してまで長居してもらいたいという経営方針ではありません。よく勘違いされるのは、席の近くに電源があるから自由に使えるという認識。席のすぐ側に電源があったからといって、勝手にプラグを挿して自由に使えるわけではありません。

飲食店は空間に少なからぬコストをかけています。賃貸料があるのは当然のことながら、灯りや空調といった光熱費、テーブルやイス、インテリアやランチョンマット、カトラリーやプレート、グラスなどのテーブルウェアなどにも、お金がかかっているのです。コストの差はありますが、ファインダイニングではなく、カジュアルな業態であったとしても同様です。

飲食店の経営は慈善事業ではありません。快適な空間は無償で提供されるものではなく、ましてや、本来はお金を払わなければいけない電気を自由に使用できるのは、普通のことではないと認識する必要があります。

2013年に「日本人の伝統的食文化」として「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。2015年6月に政府が改定した「日本再興戦略」で2020年1兆円の目標を設定し、コロナ禍にあっても2021年の農林水産物・食品の輸出額は1兆2385億円と伸張しています。

日本の食は素晴らしいにもかかわらず、日本の国内において、飲食店の実情があまり知られていないのは非常に残念です。日本は国策として食を国外に推進していますが、国内で飲食店への理解を深めるためにも、食育にもっと力を入れるべきではないでしょうか。

テレビ関連が多くランクイン

ここまで、2022年に反響の大きかった記事トップ5を紹介しました。5位、3位、2位については、制作者による無責任なノーショー、学校給食に対する誤認の流布、つくり手に対するリスペクトの欠如と、どれも大きな問題でした。この3つはどれも、テレビ番組に関する事案というのも特徴的です。テレビ出身の私にとっても、改めてテレビの影響力の大きさが感じられる記事となりました。

4位と1位は、子連れ入店の是非、飲食店の空間に対する価値観の齟齬と、飲食業界における定番的な論争。どういった状態が正解であるかを断定することは難しいだけに、最も重要なのは飲食店と利用者が互いにもっと理解し合うことです。そのためにも、我々メディアの人間は、両者の認識が少しでも近くなるように、何度も丁寧に説明していく必要があります。

2023年の飲食シーンはどのように展開していくのでしょうか。

炎上事件が全く起きないことはありえません。しかし、せめて影響力のあるテレビ番組が、飲食業界がよりよくなるようにと、真摯にコンテンツ制作してくれることを望みます。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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