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ロンブー田村淳氏の投稿で非難が殺到! 携帯電話を充電できない飲食店はケチなのか?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

飲食店で携帯電話を充電

飲食店で携帯電話を充電したことはありますか。

飲食店における空間の価値について、これまで何度も記事を書いてきましたが、少し前にかなり驚くような記事を目にしました。

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人気お笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳氏によるツイートを取り上げた記事。田村氏がラーメン店で食事していたところ、ある夫婦が訪れたといいます。「携帯を充電したい」といい、「充電の設備がないのですみません」と店主が答えると、夫婦は「ケチな店」だといい残し、退店したといいます。

Twitterの投稿には大きな反響があり、そのほとんどは、夫婦に対する非難でした。

飲食店の空間について改めて説明していきましょう。

カフェ業態では充電できる

当事案では飲食店における充電が中心となっていましたが、飲食店における充電はどのようになっているのでしょうか。

携帯電話やラップトップ(ノートパソコン)を充電できる飲食店は少なくありません。カフェ業態の飲食店では、電源(コンセント)を提供していることが多いです。食事をメインとしておらず、1ドリンクが必須となっている飲食店となります。業務や勉強の場を提供するような業態であり、USB接続による充電に対応しているところもあるでしょう。電源カフェとも呼ばれており、検索すればいくらでも見付けられます。

電源が使える場合には、Wi-Fiも自由に接続できることがあるでしょう。こういった飲食店では、電源やWi-Fiを使用してもらうことを売りとしているので、ある程度の長居を許容しています。顧客満足度を高めることによって、それなりに多い席数の稼働率を高めているのです。

食事がメインの飲食店では充電不可

ファインダイニングなど、カフェ以外の飲食店では事情が異なります。そもそも、料理を楽しんでもらうための飲食店では、携帯電話やラップトップが充電されることを想定していません。

なぜなら、こういった飲食店では、料理を堪能したり、お酒を慈しんだり、同席者と絆を深めたり、スタッフと会話を楽しんだりすることに、主眼が置かれているからです。極言が許されるとすれば、携帯電話やラップトップの使用が対象外にされているといってよいでしょう。

事案では、ラーメン店ということだったので、回転率の高いファストフードにあたります。こういった業態でも、充電を提供してまで長居してもらいたいという経営方針ではありません。

電源があっても確認が必要

よく勘違いされるのは、席の近くに電源があるから自由に使えるという考え方です。席のすぐ側に電源があったからといって、勝手にプラグを挿して自由に使えるわけではありません。

1席から2席の間隔毎に1つの電源が用意されていたり、テーブルに電源が設けられていたりしていれば、客に使用してもらうことを意図した電源であると考えてよいでしょう。しかし、特定の席の近くだけに電源がある場合には、造りの問題で存在しているだけという可能性が高いです。

もしも、電気を勝手に使用してしまい、悪意があるとされた場合には、窃盗罪とみなされることもあります。したがって、ウェブサイトや店頭などで、明示的に電源が使用できると謳われていなければ、スタッフに確認してから使用した方がよいでしょう。

空間のコスト

飲食店は空間に少なからぬコストをかけています。特にファインダイニングであれば、1坪に1.5席くらいの席しか設けておらず、空間を贅沢にデザインしているもの。ロケーションと建物にこだわりがあり、賃貸料金も高いです。テーブルやイス、インテリアやランチョンマット、カトラリーやプレート、グラスなどのテーブルウェアなどにも、お金をかけています。

客が一人もいなかったとしても、こういった設備にかけたコストは存在しており、灯りや空調といった光熱費にもお金が発生しているのです。つまり、料理やドリンクが提供されなかったとしても、飲食店の空間には大きな価値があります。コストの差はありますが、ファインダイニングではなく、カジュアルな業態であったとしても同様です。

飲食店の経営は慈善事業ではありません。快適な空間は無償で提供されるものではなく、ましてや、本来はお金を払わなければいけない電気を自由に使用できることは、普通のことではないと認識する必要があります。

食品衛生法における飲食店

飲食店とはどういった施設でしょうか。それは、食品衛生法に基づき、自治体の保健所から飲食店営業許可を得て運営している施設です。

食品衛生法によると、飲食店はあくまでも、調理された食品を販売する店であると定義されています。それには、電源の使用は含まれていません。電源が使えることはありますが、あくまでもそれは付加価値であり、なくてもよいサービスです。

飲食店が何にコストをかけるかは、その飲食店の考え方や方向性によります。何にコストをかけるのがよいのか悪いのか、正解であるのか不正解であるのかを決めることはできません。

したがって、飲食店で電源を使用できなかったからといって、ケチと断定できないのです。もしも電源を使用できないことがケチであると感じるのであれば、飲食店の定義における大きな認識の齟齬があります。

国内における飲食店への理解も必要

2013年に「日本人の伝統的食文化」として「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。2015年6月に政府が改定した「日本再興戦略」で2020年1兆円の目標を設定しましたが、2021年の農林水産物・食品の輸出額は1兆2385億円と、目標を大きく上回っています。

世界中を見渡してみても、東京はミシュランガイドで多くの星を獲得している都市です。2022年の「アジアのベストレストラン50」では日本料理「傳」が1位を獲得しました。

こういった背景を加味すると、日本の食は素晴らしいにもかかわらず、日本の国内において、飲食店の実情があまり知られていないのは非常に残念です。日本は国策として食を国外に推進するべきですが、それと同時に国内で、飲食店に対する理解を深めるべきではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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