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行列店が「ヒルナンデス!」撮影中止でフルーツサンド1,000個を無駄に! 3つの疑問に対する考察

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

ドタキャンとノーショー

飲食業界にとって、ノーショー(無断キャンセル)やドタキャン(直前キャンセル)は大きな脅威であり、日本の食文化にも大きなダメージを与えます。

ノーショーやドタキャンに対して少しでも関心をもってもらえるようにと、定期的に記事を執筆してきました。

60人分5万円の特注ケーキが無断キャンセルの悲劇! 何とか救済されるが問題も……(東龍)/Yahoo!ニュース

直近では、クリスマスケーキに関する無断キャンセルの記事が公開されています。

テレビ番組がノーショー

これまでは一般の利用者によるノーショーやドタキャンばかりでしたが、最近気になったのは、テレビ番組によるノーショー。

フルーツサンド1000個製造も「取材ドタキャン」 「助けて」店舗スタッフの悲鳴拡散、日テレが謝罪/J-CAST ニュース

28日放送「ヒルナンデス!」はフルーツサンド1000個ドタキャンに触れず/東スポWeb

厳密にいえば一応キャンセルしていますが、撮影開始時間の前ではなく、後でのキャンセルなので、ノーショーと同じです。

ノーショーの経緯

どういった事案であったか概要を説明しましょう。

東京都目黒区にある行列ができるフルーツサンド専門店でのこと。

日本テレビ系の情報番組「ヒルナンデス!」から21時に連絡があり、翌日の18時から撮影することに決まりました。しかし、約束した日時になっても撮影クルーは訪れません。19時になってからようやく連絡が入り、時間がないので撮影に行けないといわれます。

撮影に合わせて用意された1,000個のフルーツサンドが無駄になりました。同店がInstagramに、この経緯と共に助けを求めるストーリーを投稿。テレビ番組によるノーショーが多くの人の知るところとなり、話題となります。

後になって日本テレビから直接謝罪があったということですが、番組では触れられませんでした。

SNSの反応をみてみると、テレビ番組の制作スタッフに対する批判が多くを占めています。私も食の番組に多く出演してきたので、その経験をもとにしていくつかの疑問について考察していきましょう。

個数について

制作スタッフへの批判に次いで多かった反応は、無駄になったフルーツサンドの個数でした。1,000個という数だったので、どうしてそんなにたくさんつくったのかという疑問が投げかけられています。

テレビの撮影隊が訪れ、食レポを行ったり、ブツ撮りしたりするのには、フルーツサンドがせいぜい数個あればよいでしょう。どんなに多くても、全種類が2個ずつあれば十分です。

したがって、1,000個も用意したのは、ショーケースの見栄えをよくするためであると推測されます。同店は行列ができるほどの人気店であり、15時に全て売り切れることも少なくありません。撮影隊が訪れる18時には、ショーケースが寂しくなっているのはほぼ確実です。撮影のために補充するためであったと考えるのが妥当でしょう。

では、どれくらいの個数を用意すれば見栄えがよくなるでしょうか。

同店には売り場に2つのショーケースがあります。メインのショーケースは上下段に分かれており、おおよその数は、上段が3個x32列、下段が6個x32列で、288個。

もうひとつのショーケースはキャッシャーの下にあるショーケースで、上中下段にわかれています。それぞれの段は同じ大きさであり、おおよその数は、3個x14列x3段で126個。

この2つのショーケースを合わせると、表にでている数はだいたい414個です。

撮影隊が訪れるまでに完売したとしても、ショーケースを補充するためだけであれば、400個くらいあれば十分であるように感じられます。

ただ、18時から撮影して、翌日朝まで徹夜で編集すれば、何とか翌日昼の放送に間に合います。もしも翌日の放送であったとすれば、テレビでは放送直後から大きな反響があること、および、同店のフルーツサンドは翌日までが消費期限であることを鑑みて、翌日分の積み上げ分も含めて1,000個用意したということも考えられるでしょう。

また、同店は1日に1,000個もフルーツサンドが売れるという触れ込みもあるので、ショーケースが2回転半するくらいの個数を表現するためだったかもしれません。

いずれにせよ、制作スタッフからショーケースを埋めるように打診されたか、テレビをはじめとしてメディアによく登場する同店が気を利かせたかによっても、だいぶ印象は変わってきます。

突然の撮影について

21時に連絡があって、翌日18時に撮影というスケジュールは性急であるように感じられるかもしれません。

しかし、これくらいのスケジュール感であれば、テレビではよくあることです。今すぐにロケハンに行きたいということはもちろん、数時間後に撮影したいということもあります。帯番組であれば、曜日によって担当する制作チームは異なりますが、毎日が撮って出しのような状態です。

昔であれば、制作スタッフの人数も多かったので、マンパワーで乗り切れていましたが、今ではADも少ないので、取材対象にどこまで気配りできるかは難しいところ。

件のケースでは、ロケハンなしに撮影の予定が入れられたので、放送日は翌日もしくは数日後だったのではないでしょうか。切羽詰まった状況であれば、待っている取材対象に対して、なるべく早く撮影中止を伝えるという当然の配慮も不十分であったかもしれません。

撮影中止について

制作スタッフから、撮影に行けないと19時に連絡がありました。前の撮影が押すのはよくあることなので、取材先が待ってくれるのであれば、普通は何時間後であっても撮影が行われます。むしろ同店のような繁盛店であれば、開店前や閉店後、アイドルタイムの撮影がありがたいものです。

番組の食コーナーではテーマが固まっており、店数や尺(放送時間)に加えて、それぞれの店に相応しいストーリーが決まっています。今回であれば、たとえば「ゴールデンウィークに食べてみたい一品」という企画で、食事系がメインとなる中で最後に紹介する唯一の甘味「フルーツサンドを流行させた店」というストーリーです。

全体でちょうど完結するようになっているだけに、1店舗だけがいきなり抜けてしまうとバランスが悪くなり、構成を変更しなくてはなりません。そうなれば、現場のディレクターは、チーフディレクターやプロデューサーから承認を得なくてはならず、面倒な状況になります。

それにもかかわらず、一方的に撮影がなくなり、紹介されなくなったのは大きな疑問です。

撮影の進行も不確定であり、構成に全く影響せず、少しでも時間が遅くなったら撮影しなくてもよいという程度であれば、そもそも打診するべきではなかったか、撮影できるかどうかわからないということを誠実に伝えておくべきだったのではないでしょうか。

飲食業界に対する真摯な対応

近年顕著になっているのは、テレビ、新聞、雑誌という旧メディアの影響力低下。しかし、テレビは視聴率1%であったとしても130万人にアクセスできるという巨大メディアであり、いまだに甚大な影響力を有しています。

テレビで取り上げてもらえれば、飲食料品小売店や飲食店の魅力が伝わり、飲食業界も盛り上がっていくことでしょう。

一般社団法人日本フードサービス協会によれば、料理品小売業を含む外食産業の市場規模は2019年で33.4兆円あり、コロナ真っ只中の2020年でも25.2兆円あります。

外食産業市場規模推計の推移/一般社団法人日本フードサービス協会

日本のGDPが540兆円程度である中で、日本の食は国内においてもある程度のプレゼンスを確立しているといってよいでしょう。

また、2013年12月に和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、和食および日本料理、つまり、日本の食文化の素晴らしさが、世界から認識されるようになっています。

テレビで紹介されることはひとつのステータスなので、飲食業界は喜んで協力するかもしれません。しかし、テレビ業界は、それをよいことに、飲食業界を単なる消費物やコンテンツの一部として扱うのではなく、日本における重要な産業であるとして、真摯に対応していただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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