元日のテレビ番組で炎上

正月に何かテレビ番組を観ましたか。

食をテーマにしたあるテレビ番組の企画が世間を騒がせました。

「ジョブチューン」審査員が食べずに「不合格」で賛否の声「前代未聞過ぎる」「相手に失礼」「あり得る」(スポーツ報知)

ファミマ担当者ガチ泣き...辛辣審査が波紋 ジョブチューン酷評シェフに「流石に失礼」「見ていてつらかった」(J-CAST ニュース)

「ジョブチューン」の炎上シェフはどうすればよかったのか? ホントの評判とは?(デイリー新潮)

“試食せず”で物議「ジョブチューン」 “無関係”シェフへの中傷相次ぐ 番組呼びかけ「迷惑行為止めて」(スポニチ)

2022年1月1日の元日に放送されたTBS「ジョブチューン」でのこと。

複数の一流料理人が、ファミリーレストランや回転寿司からコンビニや食品メーカーなどの商品を審査するという、人気の企画です。番組では商品の創意工夫やこだわりが紹介され、開発側の方もスタジオに出演します。

審査員が厳しく吟味し、商品が合格か不合格かをジャッジ。緊張感に包まれた中で、合格と不合格に一喜一憂するという内容です。

元日に放送されたのは、コンビニが開発・販売するおにぎりでした。ある審査員は商品を見ただけで「食べてみたい気にならない」と食べるのを拒否。食べずに判定しようとしますが、商品開発者が涙ぐみながら哀願したことで、ようやく少しだけ口にします。しかし結果は、想定されたように不合格。

審査員が食べずにジャッジしようとしたこと、および、こういった演出をとったり、このシーンをカットしなかったりしたことが非難され、大炎上しました。

この事案について考察していきたいと思います。

ミシュランガイド

番組では食べ物を評価する企画になっていますが、日本において食の評価で最も知られているものといえばミシュランガイド。レストランを一つ星、ニつ星、三つ星と評価するガイドブックで、手頃なビブグルマンやサステナビリティに貢献しているミシュラングリーンスターといった評価もあります。

「ミシュランガイド東京2022」が、コロナ禍でも「実食調査」にこだわった理由(東龍)(講談社現代ビジネス)

ミシュランガイドの評価基準は次の通り。「素材の質」「料理技術の高さ」「味付けの完成度」「独創性」「常に安定した料理全体の一貫性」といった5つの点を調査します。

基本的に皿の上にある料理だけを調査し、立地や内装、サービスやワインは星と関係ありません。ただ、酒類が充実しているレストランに対しては「興味深いワイン」「興味深い日本酒」といったピクトグラムが付きます。

ミシュランガイドでは、料理の味に対して評価することを明確にしているので、食べないで評価するということはありえません。

ベストレストラン50

最近非常に注目されているレストランアワードといえば、世界のベストレストラン50やアジアのベストレストラン。

シェフやレストラン関係者、フードジャーナリスト、頻繁に旅するグルマンが審査するということで、美食トレンドの大きな指標となっています。

世界のベストレストラン50では、26地域40人ずつで全1040人の審査員が各自10レストランに、アジアのベストレストラン50では、6地域53人ずつで全318人の審査員が各自10レストランに投票。これをもとにしてランキングを作成します。

いずれの場合も審査員が投票できるのは、18ヶ月以内に食事したことがあるレストランだけ。ここでもやはり料理を食べることが前提となっています。

料理コンクール

では、料理コンクール(料理コンテスト)ではどうでしょうか。

私はアメリカ大使館からホテルグループなどが主催する料理コンクールの審査員を務めた経験がいくつもあるので、これをもとにして考察していきます。

料理コンクールでは、次のような審査項目が設定されていました。

たとえば、味10点/盛り付け10点/ストーリー性10点/商品性10点/合計40点というように味とそれ以外の点数が同等であったり、味覚40点/表現力・アイデア20点/見栄え20点/商品としての価値10点/プレゼンテーション10点/合計100点というように味の点数に重点を置いたりした評価基準です。

他にも実に様々なパターンがありますが、基本的な構成としては、味/見た目や物語性やテーマなどの要素/予算および販売価格。これらをいかに細かく審査し、どの項目に比重を置いて配点するかが、料理コンクールによって異なっています。

どのような料理コンクールであったとしても、味を審査しないことはありませんでした。それどころか、味の評価比重を高めることが多かったです。

レギュレーションの不備

審査して評価するには、多大なコストがかかります。

まず、どういったレストランや料理を評価したいかというポリシーを定め、そこから評価項目を策定。さらにはこれに適した審査員を決め、審査員の評価をもとにしてレストランや料理を選定します。

ミシュランガイドであればモビリティと食、世界のベストレストラン50やアジアのベストレストラン50であれば最新のガストロノミー、料理コンクールであれば地域を活性化させたり、販売競争力を高めたりする商品です。主催者は膨大なコストをかけて開催しているので、必ずや何かしらの意図をもっています。

翻って、件のテレビ番組はどうだったでしょうか。

何かしらのポリシーをもって商品を評価し選定していたとは、残念ながら感じられません。そうであるからこそ、食べても食べなくても合格や不合格を判断できるレギュレーションになっていたのではないでしょうか。

件の審査員は最終的に一口食べました。しかし、食べなくても合否を判定できるレギュレーションだったからこそ、食べる気にならないという発言につながり、炎上することになったのです。

見た目やプレゼンテーションは、食味の評価に全く関連性がありません。食べなくてもジャッジできる食の評価に、いったい何の意味があるのか疑問です。

つくり手に対するリスペクト

最後に指摘しておきたいのが、つくり手に対するリスペクト。

つくり手が創作する料理には無限の可能性が秘められています。1980年代の軽やかなヌーベル・キュイジーヌから、化学の力を用いた分子調理学、地域性を生かしたローカルガストロノミーなど、ここ数十年でこれまで想像も及ばなかった劇的な変化が起きているのは周知の事実。このめまぐるしい動きには、一流の料理人でさえもついていけないことがあります。

この世の中にある全ての食味を体験することはできません。したがって、アレルギーをもっていたり、人体に有害であったりしない限り、食べて評価することは、食評価の主催者としては設定するべきレギュレーションではないでしょうか。

そしてそれこそが、つまり、食べてみることこそが、食の評価において、つくり手に対する必要最低限のリスペクトではないかと思います。

テレビであれば、意外性があればあるほど、刺激があればあるほど、視聴率は高まるでしょう。しかしその視聴率が、日本の食文化の発展に寄与できるかどうかは疑問です。

的確なフィードバックもなく、理不尽につくり手のモチベーションを損なうことは、いくばくの生産性の向上にもつながりません。

テレビが食を扱う時の問題

新型コロナウイルスが猛威をふるう中で、日本の食品輸出は目標としていた1兆円に到達しました。

食品輸出、初の年間1兆円 牛肉、日本酒がけん引(時事ドットコム)

2013年12月ユネスコ無形文化遺産に「和食;日本人の伝統的な食文化」が登録され、輸出も伸び、日本の食は世界で高く評価されています。件の評価対象となっていたおにぎりは、寿司や刺し身、天ぷら、焼き鳥やラーメンなどと共によく知られている日本食。

日本の食文化は海外で評価されていますが、残念ながら当の日本においては、飲食業界の給与や地位が低く、問題が提起されている状況です。

人口減少が加速し、国力低下が懸念されている日本。日本の食は日本の未来を支える大きな原動力となるのは間違いないだけに、日本の食をもっと大切にするコンテンツがつくられ、放送されることを切に願います。