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60人分5万円の特注ケーキが無断キャンセルの悲劇! 何とか救済されるが問題も……

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

特注ケーキが無断キャンセルに

クリスマスケーキは予約しましたか。

クリスマスや誕生日など特別なお祝いの時に、ホールケーキを予約する人は多いかと思います。コロナ禍の巣ごもり需要の影響もあって、洋菓子店は非常に繁盛していますが、とても残念なニュースが飛び込んできました。

60人前特大ケーキが「無断キャンセル」 「助けてください」...途方に暮れる店をSNSの善意が救った(J-CAST ニュース)

神奈川県川崎市にある洋菓子店(パティスリー)で60人分という特大ショートケーキの注文がありました。縦が40センチ、横が60センチ、高さは10センチという、まるでウェディングケーキのような大きさです。写真もプリントされた特注品で値段は48,000円。

受け渡しに合わせて完成させましたが、引き渡し時刻になっても客は訪れず、連絡もありません。Twitterで 「助けてください」と訴えたところ、投稿から翌日の14時までに9,000リツイートがありました。16等分に切り分けてデコレーションし直し、本来であれば1カット3,000円であるところを1,080円で販売し、無事に完売したといいます。

結果的にみれば、食品ロスが生じず、食材や箱の代金を回収できたということです。最悪の事態に至らずによかったですが、こういった問題は度々起きているので、考察していきましょう。

キャンセルポリシーの設定

今回の件は、客が飲食店に予約したのに訪れないノーショー(無断キャンセル)と同じ構造です。厳密にいえば、物販と箱モノは違いますが、今回オーダーされた商品が生モノのショートケーキであったことを考えれば、その時間のその席に売上が生じなければ機会を逸失してしまう箱モノに近いといえるでしょう。

同じフレッシュケーキであったとしても、カットされたプティガトーであれば、1カットが1人前なのでまだ販売しやすいですが、特大かつ特注であれば、オーダーした客以外にそのまま売れるわけはありません。つまり、ノーショーやドタキャン(直前キャンセル)が起きた時には、ほとんど転用が利かず、リスクが非常に高い商品であるということです。

そういった商品が発注された場合には、最悪のことを考えて受注しなければなりません。そして最悪の事態を想定した時の取り決めが、店と客との契約、つまりキャンセルポリシーです。

ノーショーを行った客が完全に悪いことは間違いありません。ただ、今回はそもそもキャンセルポリシーが設けられていなかったことも、改善しなければならない点であるかと思います。

キャンセル代金の明示

店側が最悪の事態を想定していたとして、どのようなキャンセルポリシーが設定されていたらよかったでしょうか。

オーダーされた商品が他の客に売れないものであれば、まずデポジット(保証金)は必要です。全額支払いではなく半額支払いでもよいですし、クレジットカード番号を控えておくのでもよいでしょう。

そしてキャンセルがあった場合には、手間暇やリカバリーの程度を鑑みて、ノーショーであれば当然のことながら全額を、ドタキャンであれば何日前であれば何割分を支払うのかを決めます。

オーダーした客のためだけに特別につくっているので、不特定多数のウォークイン客のためにつくった商品とは価値が異なることを意識しなければなりません。

キャンセルポリシーを定めて明示することによって、発注した権利と責任を改めて客に認識してもらうことが必要です。

電話予約の弱さ

電話予約は大きな負担がかかります。営業時間内であれば接客やケーキ制作などの業務が中断され、営業時間外であったとしても仕込みや後片付けを止めることになるからです。

こういった手間を減らすのがネット予約。飲食店では導入しているところがだいぶ増えましたが、洋菓子店は席を予約する業態ではないので、ネット予約を行っているところは多くありません。基本的にケーキをつくって用意しておき、ウォークインの客が好きなものを買って帰るスタイルとなっています。

ホールケーキであれば、予約が必須の場合が多いです。ただ、メールを通してオーダーできることはあっても、飲食店のような大手予約サイトからのシステムを導入しているところは少ないです。

大手予約サイトのシステムであれば、予約したアカウントから、客の情報がある程度わかりますが、電話予約であれば情報は少ないです。そういった意味では、昔ながらの電話予約を行っている洋菓子店はノーショーやドタキャンに対して弱いといえます。

事前確認

客とのコミュニケーションは重要です。飲食店であれば、前日か2日前かに電話やメールを入れたりして事前確認することがあります。しかし、ケーキの予約となると、事前に改めて確認するところはありません。

クリスマスのような繁忙期であれば、多忙を極めているので、そもそも確認する時間をとるのは難しいでしょう。ただ、今回はクリスマスケーキではなく、60人分で48,000円もする特注ケーキだったので事情が異なります。

繁忙期ではなく、その商品がノーショーになったら大きな損害が生じるのであれば、飲食店と同じように事前確認した方がよいでしょう。

美談への警鐘

今事案はノーショーが起きたにもかかわらず、朝9時にツイートすると10時の開店30分後に完売しました。格安で販売したので儲けはありませんでしたが、不幸中の幸いであったといえます。

巨大ケーキがノーショーになったピンチを何とか切り抜けたということで、メディアにとっては非常に魅力的な素材ではあるでしょう。しかし、これを単なる美談であると調理し、報道することは全く好ましくありません。

なぜならば、ノーショーやドタキャンが起きて、今回のようにリカバリーできることの方が稀だからです。そうであるからこそ逆に、面白いストーリーになっているのですが、特殊な事案ばかりを選んで紹介していると、ノーショーやドタキャンによって大きな損害を被っている多くのケースが矮小化されてしまいます。

もっと悪いことには、ノーショーやドタキャンを行った客に対してではなく、リカバリーできなかった店に対して、批難が向けられることにさえつながるのです。

メディアはノーショーやドタキャンを乗り越えたことを奇跡のストーリーとしてセンセーショナルに仕立て上げるだけではいけません。その背景にある問題を多少なりとも掘り下げる必要があります。

店がリカバリーできたとしても、ノーショーやドタキャンが悪いということをしっかり伝えていかなければなりません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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