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相次ぐインスタ映えによる大量の食べ残し 悲劇が起こる理由と解決するために考えてほしいこと

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

インスタ映えによる食べ残し

2017年に「ユーキャン新語・流行語大賞」を受賞してから、インスタ映えという言葉が一般的になりましたが、みなさんはインスタ映えのために食べ物を残したことがありますか。

つまり、Instagramに投稿することだけを目的として撮影を行い、食べ残したことはあるでしょうか。Instagramではなく、FacebookやTwitterなどのSNSであっても同様です。

Yahoo!ニュースのトピックスにも取り上げられていましたが、大阪の有名ジビエ料理店に入店した客が人数分以上の料理を注文しました。スマホで写真を撮影したものの、8割を食べ残し、店から出入り禁止を言い渡されたということです。

また、兵庫県西宮市の甲子園球場近くにある老舗が、規格外のボリュームを誇る「カツ丼大」の提供をやめることが話題に上りました。

理由は先と同じように、オーダーして写真を撮影するだけで、半分以上を残して帰る客が数年前から多くなってきたからということです。

インスタ映えによる食べ残しを、どのように捉えるべきでしょうか。

食べ残しはよくないこと

まず、インスタ映えによる食べ残しは、明らかによくないことであると述べておきます。

飲食店における飲食や滞在は、客と飲食店との契約なので、食べ残さないことを約束に提供された食べ物でなければ、食べ残したとしても、何も問題ないかもしれません。

しかし、植物や動物などの命を食べることによって生きている人間にとって、食材や生産者、作り手や担い手に感謝し、食べ物を大切に食べ、できるだけ残さずに完食しようとするのは、当然のことではないでしょうか。

<ブッフェで食べ残すのはもう超ダサい 「元をとりたい」が全くダメな理由>でも述べましたが、食品ロス問題の専門家であり、Yahoo!ニュース 個人 オーサーを務める井出留美氏の記事が大きな反響を呼んだり、食品ロス削減法が成立したりしています。

日本でも関心がもたれている食品ロス削減という文脈からも、食べ残しなどによる食品廃棄を減らそうという考え方が広まってきているのです。

したがって、食べ残すこと、それもインスタ映えを理由とする食べ残しは、決して肯定されるべきものではありません。

インスタ映えで食べ残してしまう理由

先の記事に関しては、私も以下の通り、オーサーコメントを投稿しました。

インスタなどのSNSに上げるためだけに食べ残す事件には、2つの原因があると考えています。それは、ファッションフード化と食育の不足です。

食べ物を着飾るもののように扱い、自分自身が目立つだめだけに利用しようとすると平気で食べ残してしまいます。レストランを訪れる方の中には、高級食材の料理を食べている自分、ミシュランシェフと写っている自分、予約がとれない店にいる自分を演出することを目的としている方もいます。

食育の不足によって、料理に対する想像力が欠けているように思います。作り手へのリスペクトはもちろん、生産者や食材への感謝が失われているのではないでしょうか。その一皿が完成されるまでに、多くの時間や手間、そして命が費やされていることを忘れてはなりません。

動物や昆虫でさえも、食べ物を大切に食べます。素晴らしい食文化をもつ人間が食べ物を大切にできないのは由々しき事態です。

出典:インスタ映え?撮影→8割食べ残しの非常識客 被害のジビエ料理店は「出禁」を決めた

ここで述べたのは、インスタなどのSNSに投稿するために食べ残すのは、ファッションフード化と食育の不足が理由であるということです。

オーサーコメントでは文字数の制限があるので簡潔に述べましたが、詳しく説明していきましょう。

過度なファッションフード化

ファッションフードとは、食文化研究家・料理編集者であり、「ファッションフード、あります。」(ちくま文庫)などの著書がある、畑中三応子氏が生み出した言葉です。洋服や音楽などと同じような感覚で消費される食べ物を指しています。

ファッションフードを喜んで食べる人は、流行している食べ物を食べることによって、新しい体験を得たいということもあるかもしれませんが、周りから取り残されないようにするためも大きいでしょう。

最近では、FacebookやInstagram、TwitterといったSNSが一般的になってきており、個人による影響力が大きくなっています。そして、自身の存在を高めるための表現方法として、流行の食べ物を食べている様子を投稿することが、一般的になっているといってよいでしょう。

私は、これがエスカレートしているように感じてなりません。

なぜならば、予約困難店や人気店で食事している自分、会員制や一見さんお断りの隠れ家にいる自分、ミシュランシェフや有名料理人と一緒に写っている自分など、ファッションフードの対象が食べ物そのものではなく店や人に広がってきているからです。

この過度なファッションフード化はもはや、ファッションフードの範疇を超えているのではないでしょうか。

インスタ映えを極度に意識する人は、あくまでも自分がどう映るかが大切であり、食べ物やレストラン、さらにいえば、店主や料理人、サービススタッフなどは添え物と思っているのかもしれません。

そういった人たちは、食を映えさせるためではなく、自分自身を映えさせるために、インスタ映えを狙っているので、食べ残しが全く気にならないのではないでしょうか。

食育の不足

食べ物を平気で食べ残してしまう人に共通するのは、食育の不足であると感じます。ただ、食育が大切であるとはいっても、日本各地の特産物を覚えていたり、黒毛和種のブランドを挙げられたり、日本料理の作法に従えたりすることが必要ではありません。

ここで述べているのは、ごく普通に家庭内で行われるはずの食育が不足しているということです。

小さい頃から家族と共食し、食材が作られた背景を聞かされたり、料理がどのような思いのもとで作られたかを感じたり、手間隙かけているところを見たりすれば、食べ物を平気で残すことなどできないのではないでしょうか。

私は食べ残すことが全て悪いといいたいのではありません。体調が悪かったり、あまりにも苦手な味であったりすれば、食べ残しても仕方ないと思います。

しかし、最初から食べ残してもよいと思って食べ残すのと、食べ切る気持ちがあって食べ残すのとでは、食べ残し方や態度が全く違ってくるのではないでしょうか。

インスタ映えのために食べ残す人は、目の前に提供された食べ物を前にして、作ってくれた人に対する敬意の念、食材や生産者への感謝が欠落しているのかもしれません。

広い意味では、過度なファッションフード化も、食育の不足が原因であるように思います。

料理を作ってみる

では、どのようにして、インスタ映えによる食べ残しを解決すればよいのでしょうか。

インスタ映えで食べ残す人には、飲食店でお金を支払ったから平気で食べ残してもよいという考え方を変えてもらわないといけません。

それにはまず、飲食店で提供された料理が、家族、恋人、友人が作ったものであると置き換えてみて、同じように食べ残すことができるかどうか、考えてみるのがよいと思います。

さらには、どんな簡単なものでもよいので、レシピを読み、食材を購入して何か料理を作ってみるのがよいでしょう。そうすれば、作ることの大変さがよく理解できるはずです。

平気で食べ残す人には、料理が魔法のように次から次へとテーブルに並べられるわけではないことを、肌身で知ってもらう必要があります。

飲食店ができること

飲食店にもできることがあります。それは、常軌を逸した大盛りメニューをやめたり、過度の食べ残しによる罰則を設けたりすることです。

マーケティング手法として、過度にボリュームが多かったり、大食いできたりすることを売りにするのは、飽食の日本ではもはや時代遅れではないでしょうか。

もちろん、ここで述べているボリュームとは、客ひとりあたりの分量のことです。したがって、たとえば、10人前くらいの大きなボリュームであっても10人前を想定したものであれば問題ありません。

また、単なる大盛りでメニューであれば、むしろ客の選択肢が拡大するということで推奨します。私がここで問題としているのは、2人前や3人前という分量ではありません。あくまでも、それ以上となる規格外の大盛りだけです。

異常にボリュームが多いことを誇るのではなく、工業化された食品が氾濫している時代であるからこそ、手間隙かけて作っていることを伝えたり、料理に秘められた思いを表現したりすることこそが、飲食店の差別化につながるのではないでしょうか。

飲食店で客が食べ残したものは、事業系一般廃棄物として処理しなければならず、当然のことながら費用がかかります。食べ残しによって余計にコストがかさむことを考えれば、常識を超えた食べ残しや意図した食べ残しは、ペナルティを与えられても仕方ないのではないでしょうか。

メディアの影響

メディアにもやらなければならないことがあります。

飲食店は極端な大盛りメニューをやめるべきであると述べましたが、メディアは大食い礼賛をやめるべきです。

メディアで大食いを英雄視したり、大々的に取り上げたりすると、飲食店は大食いメニューが取り上げられると考えてしまい、規格外の大盛りメニューを提供しようとするからです。

また、常識を逸した大盛りメニューが取り上げられることによって、過度にファッションフードを好む人や食育の不足した人々が訪れ、インスタ映えによる食べ残しを促進してしまうという面もあります。

インスタ映えしながらも完食

私は飲食店に訪れた人に満足してもらうと同時に、飲食店にも潤ってもらいたいと思っています。

飲食店が集客するためにインスタ映えするメニューに力を入れることは悪いことではありません。しかし、それによって、インスタ映えが生まれる前には起きなかった食べ残しが起きることは、飲食店にとって喜ばしいことではないでしょう。

インスタ映えと完食が両立できるようにするためにも、消費者、飲食店、メディアは考える必要があります。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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