すかいらーくやサイゼリヤが相次いで禁煙化 飲食店でタバコを吸うのが全く好ましくない3つの理由

(ペイレスイメージズ/アフロ)

健康増進法の改正と受動喫煙防止条例

東京五輪に向け、受動喫煙対策として健康増進法の改正が2018年7月に成立し、2020年4月まで段階的に施行されます。飲食店では2020年4月1日に適用され、原則的に禁煙となります。

しかし、飲食店の負担を鑑みて、既存店舗であり、資本金が5000万円以下、かつ、客席面積が100平方メートル以下である場合には、禁煙化の対象となりません。

東京都では受動喫煙防止条例が2018年6月27日に可決されました。従業員を雇用している飲食店は原則禁煙となり、2020年4月1日に施行されます。

こういった変化を見据えて、ファストフードでは、日本マクドナルドが2014年までに全店を禁煙にしており、モスバーガーは2020年3月までに国内全店を完全禁煙にします。

ファミリーレストランでは、サイゼリヤが2018年7月から段階的に禁煙化を進めており、ココスは2019年9月末までに全店を禁煙にし、すかいらーくホールディングスはガストやジョナサンなど約3200店舗を2019年9月以降に全面禁煙にすると発表しました。

居酒屋チェーンである串カツ田中は、2018年6月にほとんどの店舗を禁煙にしています。禁煙化に踏み切ったところ、客単価が下がったものの客数は増加し、増収増益となったことが大きな話題となりました。

このように大衆的な業態で禁煙化が進められてきているので、健康増進法の改正や受動喫煙防止条例を詳しく知らない方であっても、飲食店が禁煙化されているという流れを感じているのではないでしょうか。

ファインダイニングにおいては現在、せいぜい併設されているバーで喫煙できるかどうかといった程度になっており、完全禁煙になっていることが常識です。

では、飲食店で食事をする際にタバコを吸うのは、何が好ましくないのでしょうか。

当記事では主にファインダイニングやカジュアルダイニングを想定して飲食店での喫煙が好ましくない理由を考察していきますが、ファミリーレストランやファストフードでも共通するところがあるので留意ください。

味覚と嗅覚を邪魔する

喫煙する本人にとって好ましくないことは、料理や飲み物を邪魔することです。

食事中に喫煙してしまえば、タバコの強い味が舌に残って料理の味が分かりづらくなり、衣服や手についた煙によって料理の香りも分からなくなってしまいます。

テクスチャは感じられるかもしれませんが、食材が本来持つ豊かな風味やほのかな香りを楽しめません。料理人が試行錯誤して調理した微妙な味わいも伝わらず、全ての食味がタバコの味で上書きされてしまえば、食べる本人にとってはもちろん、料理人や生産者にとっても残念なことでしょう。

また、日常的にタバコを吸うことによって、基本的な味覚と嗅覚が鈍ってしまいます。

タバコの煙には人間の体に悪い影響を与える物質が200種類以上含まれています。

舌にある味蕾が五味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)を感じますが、タバコに含まれるニコチンやタールが味蕾細胞に悪影響を及ぼし、味覚障害を引き起こすのです。

嗅覚も同様で、タバコの煙が嗅神経上皮中の嗅覚前駆細胞にダメージを与え、成熟嗅神経細胞数が減少し、嗅覚障害が生じます。

食事中の喫煙によって食の体験が損なわれることはもちろん、日常的な喫煙によってますます食の体験が損なわれてしまうのです。

煙の弊害

先程は食事中の喫煙が本人の食体験を毀損すると述べました。しかし、本人だけではなく、周りにいる人も食体験も毀損してしまいます。

タバコが他の人に与える悪影響として受動喫煙の問題は既によく知られていますが、食体験においても同じです。

<レストランで汗拭きシートを使ってはならない理由>では、アルコールや強い香料が使われた汗ふきシートについて考慮しましたが、強い匂いということでは、タバコの煙も全く同じです。

それどころか、臭いが髪の毛や皮膚、衣服に付着しやすく、すぐにとれないということでは、タバコの煙はアルコールや香水よりもたちが悪いのではないでしょうか。

料理を楽しむ時に、香りは非常に重要な役割を果たします。ローストしたものをわざわざ燻したり、完成した料理に白トリュフをスライスしたり、スパイスやハーブをまぶしたり添えたりするのも、全て香りを付けるためです。

味は食べてからでないと知覚することができませんが、香りは食べる前から知覚されるので、その後の食味に影響します。鼻をつまんで食べてみると、味が分からなかったり、違いが分からなかったりすることからも、香りが食体験に重要な役割を果たしていることが理解できるでしょう。

香りをかいだことによって、昔の記憶が蘇ることは誰しもが経験したことがあるのではないでしょうか。香りは体験を記憶に刻みつけるための楔にもなるということです。

このように考えると、食を楽しむためには、料理の香りをしっかりと感じられることが大変重要であることが分かります。

したがって、食事中に喫煙し、タバコの煙の臭いが漂っていれば、料理の香りを邪魔してしまうので好ましくないのです。

同席者や周りにいる他の客が料理を楽しむことを邪魔するだけではありません。サービススタッフの料理やお酒に対する感度も下がってしまいます。サービススタッフのパフォーマンスが低くなってしまえば、結果的には客がよいサービスを受けられなくなってしまうでしょう。

リズムの分断

食事中の喫煙が好ましくない最後の理由は、食事のリズムが分断されるからです。

ただ、テーブルでタバコを吸う場合と、テーブルを離れて喫煙所でタバコを吸う場合とでは、少し状況が異なります。

まずはテーブルを離れて喫煙所でタバコを吸う場合を考えてみましょう。

食事を開始する前に喫煙するのであれば、喫煙所からテーブルに戻ってくるまで乾杯したり、料理を食べ始めたりできません。大人数であれば、自分はいなくてもよいから先に始めてということもできるでしょう。しかし、コース料理となると、同席者もサービススタッフも気を使ってしまうものです。

食事が始まってから喫煙しに行けば、やはりテーブルを離れるので、コース料理の場合には流れが中断されてしまいます。食事が終わってから喫煙しに行けば、他の人と退店するタイミングが合わなくなったり、食べた料理の感想を共有し合ったりすることもできなくなるのではないでしょうか。

大人数であればまだしも、2人で訪れていたのであれば、せっかく共食して同じ空間を過ごしているのにもかかわらず、孤食となってしまいます。一緒に食事をとることで、コミュニケーションが深まったり、絆が強くなったりするだけに、残念なことではないでしょうか。

では、テーブルでそのまま喫煙する場合はどうでしょう。

テーブルを離れないので、同席者の輪からはみでることはありません。しかし、食事前にタバコを吸えば、料理や食べ物が出てくる前からテーブルにタバコの臭いが付着してしまいます。

食事が始まってからタバコを吸えば、食べている最中なので、先程述べたように味覚や嗅覚を鈍化させ、食体験を損ねてしまいます。また、タバコを吸っているということは灰皿が喫煙者の近くにあるということなので、サービススタッフも料理を提供しづらくなるでしょう。タバコから出る灰が料理やドリンクに付着する危険性もあります。

食事の最後に喫煙するのは、既にテーブルで共食を終えており、食べたり飲んだりすることもないので、他のタイミングと比べればまだよい方でしょう。ただ、退店する直前にタバコの煙を嗅いでしまうと、せっかくおいしかった思い出も多かれ少なかれ毀損されてしまうかもしれません。また、タバコを吸わない人が早く帰りたくても、喫煙者がタバコを吸い終わるまで待たなければならないこともあるでしょう。

食事のリズムを分断するという観点では、写真を撮影したり、SNSに投稿したりすることも、喫煙と似ているのかもしれません。しかし、タバコは1本吸うのに数分を要するので、それと比べたら、カメラで撮影する数秒から十数秒など短いものです。

食の体験

私は、喫煙が絶対的に悪いので、全ての人間が禁煙するべきだといいたいわけではありません。単に、食事の場で喫煙することによって損なわれる食の体験について述べておきたいだけです。

健康増進法の改正が施行される2020年の4月には、全面禁煙の飲食店は今よりもっと増えていることでしょう。しかし、もともと飲食店のほとんどは個店であり、客席面積も小さいので、禁煙対象とならない店舗は全体の約55%もあるのです。

施行後に禁煙化する飲食店がどれだけ増えていくのかは、完全禁煙となった飲食店で食事した人が、タバコがないことによってどのような素晴らしい食体験を得られるのか、これが大きな鍵となります。