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レストランで汗拭きシートを使ってはならない理由

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

テレビ番組で議論

年末の時期は、会社の関係者や友人と一緒に居酒屋などで忘年会を行ったりすることがあるかと思いますが、少し背伸びしてちょっと高価なレストランで素敵な時を過ごすこともあるのではないでしょうか。

普段よりもよいレストランに訪れる機会が多くなった時期となり、以前気になった記事について思い出しました。

<飲食店での汗拭きシート使用ってどうなの?「ご飯の前で香りものはやめてほしい」「ハンカチで拭くのと変わらない」>という記事で、テレビ番組「スッキリ」で議論された飲食店での振る舞いを取り上げています。

8月17日の「スッキリ」(日本テレビ系)では、飲食店に行った時、人前で汗ふきシートを使うのはアリかナシか、を取り上げた。スタジオメンバーのジャッジでは5人中3人が「アリ」。

出典:飲食店での汗拭きシート使用ってどうなの?「ご飯の前で香りものはやめてほしい」「ハンカチで拭くのと変わらない」

テレビ番組では、出演者が、飲食店に訪れた際に人前で汗拭きシートを使用することに関して議論し、5人中3人が「アリ」と答えました。一方、視聴者のアンケートでは「アリ」が20487人、「ナシ」が34858人と、「ナシ」の方が多くなっています。

飲食店での汗拭きシートの使用について、どのように考えればよいでしょうか。

飲食店とはいっても、テレビ番組内での文脈から考えて居酒屋などのカジュアルな業態ではないので、レストランやファインダイニングについて考察していきます。

香りについて

まずは香りについてです。

料理を楽しむ時に、香りは非常に重要な役割を果たします。ローストしたものをわざわざ燻したり、完成した料理に白トリュフをスライスしたり、スパイスやハーブをまぶしたり添えたりするのも、全て香りを付けるためです。

味は食べてからでないと知覚することができませんが、香りは食べる前に知覚されるので、その後の食味に影響します。鼻をつまんで食べてみると、味が分からなかったり、違いが分からなかったりするでしょう。こういったことから、香りが食体験に重要な役割を果たしていることが分かります。

また、香りをかいだことによって、昔の記憶が蘇ることは誰しもが経験したことがあるのではないでしょうか。香りは体験を記憶に刻みつけるための楔にもなるということです。

このように考えると、食を楽しむためには、料理の香りをしっかりと感じられることが大変重要であると理解できます。

したがって、汗拭きシートにアルコールや強い香料が使われていれば、料理の香りを邪魔してしまうので問題であるといってよいでしょう。ダイニングではタバコが禁止されていたり、香水が推奨されていなかったりすることを考えても、これは納得できることです。

そして、この香り問題は3つの側面を持ちます。

まず、同席者や周りにいる他の客が料理を楽しむことを邪魔します。次に、サービススタッフの料理やワインに対する感度を下げてしまいます。最後に、最も影響を受ける人物として、汗拭きシートを使用した本人の食体験を損ねてしまうのです。

ただ、反対にいえば、汗ふきシートにアルコールや香料が使われていなければ、料理の香りを邪魔しないので問題とはなりません。

汗拭き行為

ダイニングで汗を拭く行為は、どのように考えればよいのでしょうか。

ダイニングは食事を楽しむ場所です。特にファインダイニングであれば、大人の社交場という機能も備えており、ディナーで年齢制限が設けられていることがほとんどです。

したがって、大袈裟に汗を拭いて場の雰囲気を壊してしまうことがあってはいけません。ただ、汗をだらだらかきながら食せば、同席している人や周りの客が気にしてしまったり、サービススタッフが体調を心配したりする可能性もあります。本人も流れる汗で不快になってしまい、料理を楽しむことなどできないでしょう。

ダイニングで汗を拭く行為はあまり好まれないものの、汗をしっかりと拭いて食事に集中できた方が、みんなにとってよいのです。

汗拭きシート以外の選択肢

では、ダイニングで汗拭きシートを使う以外に、何かよい手段はあるでしょうか。

テーブルにナプキンが置かれていますが、ナプキンは口や拭ったり、指を拭いたりするためにあり、汗を拭うためにあるわけではありません。フランスでは中世頃からナプキンが使われるようになり、それまではテーブルクロスが使われていましたが、その時でさえ口や指を拭くことが目的でした。

ハンドタオルが提供されることもありますが、ハンドタオルはその名前の通り、手を拭くためのタオルです。日本語でいうと、おしぼりになりますが、おしぼりはおてふきのことなので、やはり手を拭くことが期待されています。

他の客もいるダイニングでは、ナプキンやハンドタオルを目的以外で使用することは遠慮した方がよいでしょう。やはり、客が自分で持参したハンカチで拭くのが正解となります。

もしもハンカチを持ち合わせていなければ、化粧室へ行けばよいでしょう。ファインダイニングであればハンドタオルが、そうでなくてもペーパーがあるはずなので、それを使えばよいです。

先程述べたように、本来ハンドタオルは手を拭くものですが、ダイニングではなく、他の客もいない化粧室であれば、ハンドタオルで汗を拭うのもまだ許容されるでしょう。

化粧室まで行くのは面倒だという方もいるかもしれません。しかし、街場にある個店のファインダイニングであれば、30席以下がほとんどなので、化粧室までの距離は近いです。

街場でも大手企業が運営するレストラン、もしくは、ホテルのファインダイニングであれば、最低でも50席以上となり、大きな箱となります。しかし、この場合には、店内に化粧室が設けられていることがほとんどなので、移動に煩わされることはないでしょう。

食事を最大限に楽しめるように

レストランで汗拭きシートを使って汗を拭くことに関して、食事における香りの役割からダイニングでの振る舞いについてまで、考察してきました。

汗ふきシートで汗を拭く行為も同様ですが、ダイニングであまり好ましくないと思われる振る舞いは、周りの人だけではなく、その本人をもあまり楽しい気持ちにさせないものです。

汗をかいていれば、レストランへ入店する前に汗を拭いたり、ダイニングへ通される前に化粧室へ訪れたりするなどし、身支度しておけるとよいでしょう。食事を最大限に楽しめるよう、時間に余裕を持って訪れ、事前に気持ちや身の回りのことを整理しておくことをお勧めします。

レストランでの食事はせっかく非日常を体験できる貴重な機会です。同行者や他の客、そして何よりも本人が楽しめ、その場に居合わせた全員が素晴らしい食体験を得られるようになることを願っています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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