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どうして「子連れOKの飲食店で子供が泣いた時に店員にされた最悪行動」記事は残念なのか?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

飲食店へ訪れる子連れ客

「子連れOKなのに! 飲食店で子供が泣いた時に店員にされた最悪行動」という記事を読みました。

私は以下のように、飲食店へ訪れる子連れ客に関する記事を書いたことがありますが、この件についても改めて考えたいです。

ひどかった対応

この記事では、子連れでもOKということで、飲食店に訪れたのに、子供が泣くと、ひどい対応をされたと書かれています。そのひどい対応として、以下の2点が挙げられていました。

  • 子供OKと言ったのに、泣いたら「外に出てあやせ」と言う
  • 子供が泣くと気に入らない顔をされて、サービス料が割高にされる

子連れと飲食店の関係について再び考察します。

1点目「外に出てあやせ」

入店不可の年齢制限は主に、小学生未満(未就学以下)不可、中学生未満不可、高校生未満不可と分かれています。ファインダイニングであったとしても、中学生以上で通常コースを注文するのであれば、入店して食事を楽しめるところが多いです。

個室においてはこの制約が適応されないケースがほとんどであり、例えば、メインダイニングでは小学生未満不可であったとしても、個室であれば乳児でも入店できます。

記事で紹介されているような寿司屋であれば、個店あればテーブル間隔も狭く、カウンター席が総席数の半分以上を占めるところも少なくありません。

こういった狭い飲食店では、子連れを許容していたとしても、メインダイニングにいる他の客に迷惑を掛けているのであれば、子供を外に出てあやすように促されても仕方ないでしょう。

<「家族でお寿司を食べに行くことになり、予約の際に赤ん坊がいて泣いてしまうかもしれないことを伝えて『大丈夫ですよ』と、言ってくれたお店に行きました>と述べられていますが、あくまでも泣いてしまうかもしれない赤ん坊の入店を許容されただけであって、メインダイニングにいる他の客に迷惑がかかる状況を許容されたわけではありません。

回答者の気持ちも分かりますが、子連れに優しいことを謳っている飲食店でない限り、個室を予約したり、回転寿司に訪れたりした方がよかったのではないでしょうか。

2点目「サービス料が割高」

飲食店が客に対して、事前に提示していないにも関わらず、一方的にサービス料を割高にしたとすればし、契約を違反したことになります。このような詐欺にも近い対応をされて、回答者は泣き寝入りしたのでしょうか。少子化が進む日本において、由々しき問題であると感じます。

ただ冷静に考えてみれば、やや奇異に思うのです。

サービス料が課される飲食店には、ホテルのレストラン、もしくは、ミシュランガイドに掲載されたり、失敗できない接待やここぞという時のデートで使用できたりするほどのファインダイニングになります。

このような少なからず世間体のある飲食店で、客がサービス料を割高に課されたケースをほとんど聞いたことがありません。

そもそも、サービス料はホテルであれば10%~15%、町場であれば5%~15%と、幅はあるものの、それぞれのホテルや飲食店において、サービス料の割合は固定値として決まっています。つまり、客に応じてこの人は5%で、この人は10%と柔軟に決められるものではありません。それなのに、この回答者の時にだけ、サービス料が割高に課されたのでしょうか。

こういったことを考えると「子供が泣くと気に入らない顔をされて、サービス料が割高にされる」というのは、回答者の勘違いではないのか、本当にあったことなのかと、あらぬ推測を巡らせてしまいます。

「しらべぇ」とは

記事の配信元となる「しらべぇ」は株式会社NEWSYと外部ライター・コラムニストによって運営されており、以下のように説明されています。

しらべぇは、「気になるアレを大調査!」するニュースサイト。

(中略)

「考えたこともなかったけれど、聞かれてみたら確かにそうかも」なアンケート調査。

一風変わったお店や商品の、人気の秘密。

出典:しらべぇについて

この説明に照らしてみれば、今回の記事は、<気になる>「子連れOKの店」において、<考えたこともなかったけれど、聞かれてみたら確かにそうかも>な「子供が泣いた時に店員にされた最悪行動」について調査したことになるのでしょう。

誰にとって嬉しいのか

記事の最後で、1343人を対象とした「飲食店で子供が騒いでいても注意しない親にイラっとするか」のアンケート結果を紹介していますが、「飲食店で子供が泣いた時に店員にされた最悪行動」は一体どれくらいの人数に取材したのでしょうか。

こういった回答は、過激であればあるほど、もしくは、異例であればあるほど、面白い記事になることは承知しています。読者にとって興味を引く内容を掲載したいのは分かりますが、何の考察もなしに、本当かと疑いたくなるような回答をどんと掲載しただけでは、子連れ客が飲食店に訪れる動機を削ぐことになるだけではないでしょうか。飲食店にとっても、一律に子連れ客に対して冷たいというイメージが付いてしまうのは得ではありません。

子供のいる女性に取材しているのであれば、子連れ客と飲食店の考え方のギャップを明らかにしたり、アンケートを取るのであれば、ネガティブな二択質問ではなく子連れ客がどうすればよいかと投げかけたりするなど、より建設的な記事にした方がよかったのではないかと、残念に思います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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