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障子を壊した子連れ客はカフェに訪れるべきではないのか?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

飲食店と子連れ客

少し前に<マナーの悪い子連れに対して飲食店はどう対処するべきか?>という記事を書きましたが、最近も飲食店に訪れる子連れ客について議論が交わされています。

朝日新聞デジタルの記事で詳しく紹介されており、次のような書き出しから始まっています。

「当面は、未就学児連れのお客さまのご入店をお断りさせて頂きます」。岡山県総社市のカフェがツイッターに投稿したつぶやきが、ネット上で話題になっている。

出典:カフェ「未就学児入店お断り」 店主決断、ネットで反響

事件の概要

事件の発端は次の通りです。

今年の7月末、店の一室の障子から3マス分の障子紙がはぎ取られているのを従業員が見つけた。店側は状況から子どもによる被害ではないかと考えた。「未就学児のお子様などにお店の設備を破損されることが増えています」というお知らせと、破られた障子を店頭に出して注意喚起した。

だが数日後、この障子に、こぶしや指で突き破られたような穴が複数開いているのを店主の松永伸幸さん(44)が気づいた。障子にいたずらをしたとみられる子どもの母親を引き留めたが、母親は「うちの子じゃない」と話して帰って行ったという。

出典:カフェ「未就学児入店お断り」 店主決断、ネットで反響

店主は以前から、2、3日に1度のペースで、メニュー表を壊されたり、畳の上に飲み物をこぼされたりするなど、子供の素行に悩まされていました。

積年の悩みがあったところへ、障子破損の事件が起こり、しばらくの間は17時までは0歳児を除く未就学児の入店を断る旨を8月12日にTwitterへ投稿したということです。

考察

記事には、様々なネットでの意見や法的な見解が紹介されていますが、以下のポイントを中心に改めて考えてみましょう。

  • 飲食店での器物破損
  • カフェの客層
  • 目指しているもの

飲食店での器物破損

まず、飲食店での器物破損についてです。

客が飲食店で器物を破損することは起こりうることです。プレートやテーブルの花瓶を壊すことは稀かもしれませんが、手が当たるなどしてグラスを落として割ることは比較的あるでしょう。

民法では、客に過失があれば損害賠償する責任が生じるとしていますが、実際のところ、客が意図的ではなく、グラスやプレートなどのテーブル回りの物を壊してしまったのであれば、弁償を要求されることは稀です。

今回破損した障子はグラスやプレートなどとは異なり、あえて近付いて乱暴に扱わなければ壊れたりしないでしょう。そういった意味では、子供の監督者である親は責任を感じるべきであり、損害賠償を要求されてもおかしくありません。

カフェの客層

このカフェには、子供の遊び道具が置かれていたり、子供でも過ごし易い座敷席が設けられていたりするので、子供を歓迎するポリシーであるとみなしてよいでしょう。

店主は、親が話に夢中になって目が届かないので、子供がメニュー表を壊したり、畳に飲み物をこぼしたりしていると悩んでいますが、子連れでも訪れ易いことをひとつのウリとしている以上、ある程度は仕方ありません。

例え、どんなに親の目が行き届いていようとも、子供が畳に飲み物をこぼすのは想定できることでしょう。飲み物をこぼされることで悩むのであれば、最初から子連れを歓迎するべきではなかったのです。

下品な酔っぱらいが嫌いであればアルコール飲料を提供しなければよいですし、長居されるのが困るのであれば制限時間を設ければよいでしょう。行儀の悪い子供が煩わしいのであれば年齢制限を設ければよいだけなのです。

子連れをターゲットにしているのであれば、子供用のイスを用意したり、プラスティックのテーブルウェアを準備したり、ドリンクを蓋付きのコップで提供したりすると同時に、障子のように容易に破損するものを使わないことも必要でしょう。

以前から述べていることですが、「客は神様ではない」と同じように、その一方で「飲食店は弱者ではない」のです。飲食店は自身のためにも、しっかりとルールを決めておかなければなりません。

目指しているもの

店主が悩むことになったのは、店主が目指す飲食店の方向性と実際の客層に乖離があったからです。では、果たして、店主はどのような店を目指していたのでしょうか。

子連れが気軽に訪れてくれるカフェを目指していたのであれば、障子を設置していたのは正しい選択であったとは思えません。子連れを期待していなかったのであれば、最初から年齢制限を設けたり、テーブルへ案内する際に厳しく注意したりしておくべきでした。

私が言いたいことは、障子を破損した子供や親が悪くない、ということではありません。客層や客の行動を変えられるのは、飲食店自身であるということを言いたいのです。

店頭に壊された障子を置いたり、Twitterで不特定多数に発信したりする前に、店主は店のポリシーを変更できればよかったと考えています。

飲食店の雰囲気を醸造するのは客ですが、どういった客が訪れるかを決めるのは飲食店の戦略に依存するのです。

客にとっても飲食店にとってもよい体験へ

食は人が生きるのに必要ですが、人が生きるために、必ず外食が必要というわけではありません。そういった状況で、客と飲食店が出会うのはまさに一期一会であり、客にとってはもちろん、飲食店にとっても、よい食の体験へと結実していければと常に願っています。

日本全国には60万以上もの飲食店があるだけに、飲食店は自身が期待する客だけが訪れるようなルールを設ければよいのであり、客は自身が受け入れられて最も楽しく過ごせる飲食店を選択すればよいのです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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