Yahoo!ニュース

森喜朗元総理と安倍晋三元総理の関与が白日の下に晒されなければ解明とは言えないパーティ資金不記載事件

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(730)

極月某日

 自民党の派閥による政治資金パーティ不記載事件は19日に新たな展開を迎えた。1つは東京地検特捜部が安倍派と二階派の派閥事務所を強制捜査の対象にし、この事件の本命が安倍派と二階派であることを世間に知らしめた。

 もう1つは時を同じくして参議院選挙の年に安倍派がノルマを超えた分の還流だけでなく、参議院議員に全額を還流していた事実がリークされ報道されたことである。

 そうなるとこの事件は安倍派と二階派の政治資金規正法違反に加え、安倍派だけは選挙運動資金の不記載によって公職選挙法にも違反していることが明らかになった。

 特捜部は同じ日の同じ時刻に安倍派と二階派の派閥事務所を家宅捜索することで、複数の派閥の違反事件という体裁をとっているが、二階派では議員が還流された資金を裏金化せず、政治資金収支報告書に記載しているから、安倍派と二階派を同列に論ずることはできない。犯罪の悪質さから安倍派が主たるターゲットであることは明らかだ。

 ただ安倍派のバックに旧統一教会や神社本庁など全国に根を張る宗教団体が存在することから、その反発を和らげるため特捜部は二階派も強制捜査の対象にして安倍派単独ではない形にしたとフーテンは見ている。

 今回の摘発の目的は、安倍派の「組織ぐるみの犯罪」を解明することで、誰が「組織ぐるみ」のスキームを作り上げたか、それがどのように継承されたか、さらにそれが選挙結果を歪める道具に利用されてこなかったかを問うものだ。

 前回のブログでフーテンはこのスキームを作ったのは森喜朗元総理という見方を示した。そもそも派閥創設者の福田赳夫元総理は、派閥政治の権化とも言える田中角栄元総理と「角福戦争」を繰り広げた当事者で、派閥解消を主張する政治家でもあった。

 その後継者である安倍晋太郎氏が総理就任を目前に病に倒れると、派閥は分裂を繰り返し一時は解散状態になる。それを「清和政策研究会」の名称で派閥に戻したのは森氏が会長に就任した1998年である。「資金還流スキーム」が作られたのはその頃と言われている。

 日本の政界は1978年に福田元総理が退陣した後、宏池会の大平正芳、鈴木善幸の各政権を最大派閥の田中派が支える「田中支配」の時代となり、森氏が小渕恵三元総理の突然の死によって「密室の協議」で総理に就任するまで22年かかった。

 その間この派閥は一貫して冷遇され続け、森氏は「サメの脳みそ、ネズミの心臓」と揶揄されて自民党内では馬鹿にされていた。身体は大きいが、それに比べてオツムも心臓も格別に小さく弱いという意味である。

 それがしぶとく政界で生き残り総理にまで上り詰めた。それは森氏が他人に対する気配りとサービス精神の持ち主であったからだ。例えば森氏には数々の失言があるが、それはいずれも目の前にいる聴衆に対するサービス精神によるものである。

 森氏が総理時代に「日本は神の国」と言って批判されたのは、神道政治連盟の会合での挨拶だった。また東京五輪組織委会長時代に「女性蔑視」と批判されたのは、JOC(日本五輪委員会)の会合でJOCの女性委員を「わきまえている」と褒めるために、ラグビー協会の女性委員を批判したからである。

 目の前にいる人に対する森氏のサービス精神はまるで条件反射的で、その外側の人間がどう考えるかなど考えていない。そういう性格からすると、派閥のパーティ資金を集めてくれた議員にその一部を還流しようと考えるのは森氏らしい発想だ。

 その森氏に政治資金は国民に公開しなければならないという発想は恐らく微塵もない。1993年に細川政権が誕生した頃、経団連は自民党に対する政治献金のあっせんを「廃止を含めて見直す」方針だった。そして94年に国民一人当たり250円の税金を国が政党に助成する政党助成金の仕組みが創設されるが、それは企業・団体献金の見直しが前提だった。

 私事になるが、その頃国会審議をすべて国民に放送する「国会テレビ構想」を訴えていたフーテンに対し、有識者でつくる「民間政治臨調」は経団連と連合が共同で出資する「国会テレビ」会社の実現を計画した。

 するとフーテンは自民党幹事長だった森氏から「俺たちは企業・団体献金を復活させる。国会テレビが経団連に出資させるのは俺たちの上前をはねる話だ。とんでもない」と直接言われた。

 やがて経団連が「国会テレビ」に出資する話は消え、森氏が後ろ盾の小泉純一郎政権が誕生すると、2003年に経団連は企業・団体献金のあっせんを復活させたのである。

 フーテンがパーティ資金の還流スキームを森元総理が作ったと考える根拠は以上の経験に基づくが、参議院選挙前のパーティ資金を参議院議員に全額還流する仕組みの話は、フーテンが書いてきた安倍晋三元総理と岸田総理の凄まじい暗闘を裏付けるようで、こちらの疑惑の主役は銃撃で亡くなった安倍元総理である。

 22年の自民党各派閥の政治資金収支報告書を見ると、全収入に対するパーティ資金の収入の割合は安倍派以外が8割だったのに対し、安倍派だけは5割とダントツに低いことを前回のブログに書いた。

 金額で言えば麻生派が2億3331万円を記載しているのに対し、安倍派は9480万円と半分以下の金額が記載されている。メンバー数で麻生派の倍近い安倍派が麻生派の半分以下の収入しか集められないと言うのはどうしてもおかしい。

 ノルマを超えた分を還流する仕組みがあったと言っても少なすぎる。それが参議院選挙のために参議院議員には全額還流していたと説明されれば納得できる。その旗振り役は当時の安倍会長に違いない。選挙に敗けられない事情があったのだ。

 コロナの渦中の2020年8月に安倍元総理が病気を理由に退陣した後の政局は、安倍元総理が三度目の総理就任を目論んだことからすべてに歪みが生じた。安倍元総理の当初の計画は、東京五輪を招致した総理が開催の時の総理も務め、世界から注目を浴びる中で突然退陣、岸田氏に総理の座を禅譲することにあった。

この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。

ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

田中良紹の最近の記事