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安倍派の「組織ぐるみ犯罪」スキームを作ったのは誰か!それが捜査の本命だ

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(729)

極月某日

 15日の時事通信によると、自民党安倍派は政治資金パーティの政治資金収支報告書への記載を巡り、裏帳簿を作成していたことが捜査関係者への取材で分かったという。

 つまり東京地検特捜部は安倍派が意図的に虚偽の政治資金収支報告書を作成していた証拠を入手し、政治資金規正法違反事件では珍しい「組織ぐるみの犯罪」に捜査のメスを入れようとしている。

 政治資金収支報告書への不記載で政治家が摘発されることはこれまでもしばしばあった。しかしそれは個々の議員が私的な支出と政治活動の支出を区別しない裏金作りが目的で、あくまでも個々の議員がそれぞれの事情に応じて行ってきた犯罪だった。

 ところが今回明るみに出たのは、安倍派が派閥の政治資金パーティの収入を他派閥より多く派閥所属議員に還流し、それを裏金にするよう指示し、慣例化させてきた組織の実態である。

 例えば22年の政治資金収支報告書によると、自民党6派(安倍派、麻生派、茂木派、岸田派、二階派、森山派)の総収入に占めるパーティ収入の割合がおよそ8割だったのに対し、安倍派だけは5割と突出して少ない。金額で言えば麻生派が2億3331万円を記載しているのに最大派閥の安倍派は半分以下の9480万円しか記載がない。

 99人の所属議員がノルマを課されてパーティ券を売ったのだから、実際には麻生派以上の収入を得ていることは疑いないが、その半分以下しか収入として記載していない事実は、その分を所属議員にキックバックし、所属議員に不記載にするよう指示して、裏金として使うよう指導していたのである。

 安倍派が政治資金規正法の精神に逆らい、個々の議員に犯罪を犯すよう指導していた事実は、ロッキード事件以来「政治とカネ」の問題を見続けてきたフーテンにとって前代未聞のことで驚きだった。特捜部が安倍派の捜査に集中するのはそのためである。

 特捜部は来年の通常国会が召集されるまでに捜査を終わらせようとするとフーテンは思う。国会の閉会中でないと議員の聴取が難しくなるからだ。特捜部が地方からも応援を得て大がかりな捜査をやろうとしているのも短期決戦を考えてのことだ。

 野党は来年の通常国会で追及する構えだというが、おそらくその頃には検察の描く構図が明らかになった後で、情報収集能力のない野党の追及は後追いだけで迫力のないものになるだろうとフーテンは想像する。

 下手をすると検察がバランスを取って野党議員の不記載問題を摘発するかもしれず、野党の追及に期待する訳にはいかない。臨時国会でも野党は声を張り上げてキックバックが悪であるかのような追及をしたが、しかしキックバックは違法ではない。

 不記載が違法なので、それで摘発されるのは会計責任者であり議員ではない。議員が摘発されるには議員が指示した証拠が必要で、それが証明されれば議員は略式起訴され、罰金刑となる。ただ罰金刑になると議員は5年間公民権が停止される。

 今回と同様に国民の政治不信を頂点にまで高めたのは、1992年の東京佐川急便事件だった。渡辺広康社長から金丸信自民党副総裁は5億円の闇献金を受け取ったとして摘発された。その結果は略式起訴による20万円の罰金刑だった。

 ところが検察のリークに乗せられ、事前に金丸副総裁を「悪の権化」のように報道したメディアと野党によって国民の怒りは収まらなくなり、検察庁の玄関の表札に黄色のペンキが投げつけられる騒ぎとなる。特捜部は存亡の危機に立たされた。

 この時、亡くなった金丸夫人の遺産相続を調べていた国税が、銀行発行の金融債や金の延べ棒の存在を特捜部に教え、特捜部はそれに助けられて金丸氏を脱税で逮捕した。従って金丸氏は東京佐川急便事件で逮捕されたのではなく、それとは関係のない夫人の遺産相続に絡んで脱税容疑で逮捕されたのである。

 だから5億円の闇献金で罰金20万円は政治資金規正法上なにもおかしくない。捜査の結果、5億円はすべて政治活動費に使われ、私的流用はなかったことが分かったからだ。今回も議員が摘発されるとすれば、裏金の私的流用が証明されれば脱税で逮捕されるだろうが、不記載の指示が証明されても政治資金規正法違反で罰金刑に終わる。ほとんどは会計責任者が摘発されるだけだと思う。

 そんなことより今回注目すべきは、誰が安倍派の「組織ぐるみの犯罪」となるパーティ資金の還流スキームを作ったかだ。今週号の「週刊文春」は安倍派の現役幹部の話として「森喜朗さんから全て始まったんです」という記事を掲載した。

 この現役幹部とは森喜朗氏から嫌われ、派閥幹部から外された下村博文衆議院議員ではないかとすぐ思った。なぜなら森氏は下村氏が「会長にしてくれ」と2000万円持ってきて土下座をした話を「北國新聞」のインタビューで暴露したからである。その報復として下村氏は特捜部の捜査に協力している可能性がある。

 安倍派の源流は福田赳夫元総理が作った「清話会」だが、福田氏は田中角栄元総理の「派閥政治」に対抗して脱派閥を主張し、「政治とカネ」を批判していたから現在の資金還流スキームとは無縁だと思う。

 福田総理の後継者であった安倍晋太郎氏が亡くなってから派閥は分裂を繰り返し、一時期は派閥を解散した。それが「清和政策研究会」となって蘇ったのは森喜朗氏が会長になった1998年で、還流スキームができたのはその頃だと言われる。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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