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7月の参院選で「ねじれ」を作れなければ、野党は6年間政権交代のきっかけを作れなくなる

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(632)

如月某日

 岸田総理は、9日と10日の両日、安倍元総理と菅前総理に相次いで面会を求め、教えを請う形の会談を行った。高止まりしていた内閣支持率が、オミクロン株の感染急拡大を受けて下落傾向にあることから、権力基盤を脅かす可能性のある最大の敵の顔色を伺う必要があったとみられる。

 前にも書いたが岸田総理は、7月の参議院選挙に勝利すれば「黄金の3年間」を手にすることができる。そのためにしなければならないことは、まず第一に参議院選挙に臨むことができるよう党内から足を引きずり降ろされないことだ。

 内閣支持率が下落すれば「選挙の顔にならない」との理油で、首を挿げ替えられる可能性がある。自民党にとって大事なことは、7月の参議院選挙に勝てる総理を担ぐことだ。そうすれば自民党は2028年までの6年間、権力を掌握することができる。だから自民党にとって総理は誰でも良い。選挙に勝てる総理で参議院選挙を乗り切ることが重要なのだ。

 2028年までとフーテンが考えるのは、他国にはない日本の政治の仕組みがあるからだ。政権選択選挙は衆議院選挙である。衆議院選挙で多数を得た政党の党首が国会で首班指名され総理大臣に就任する。しかしそれだけでは不十分なのが日本の仕組みである。

 衆議院で勝利した政党は、参議院でも多数を確保していないと「ねじれ」が起き、衆議院で可決した法案が参議院で否決される可能性がある。参議院で否決されれば法案は成立しない。それを衆議院で再可決して成立させるには日本国憲法で3分の2以上の賛成が必要と定められている。昨年10月の衆議院選挙で自公の議席数は衆議院の3分の2を切っている。

 また参議院が否決しないでたなざらしにすれば、60日が経過しないと否決と看做されず、その後に衆議院で再可決はできるが、政治の機能は著しく損なわれ、総理の政治責任も問われることになる。

 従って7月の参議院選挙で自公が過半数割れを起こすと、政治は野党ペースになり、次の衆議院選挙で自公が野党に転落する恐れが出てくる。しかしその逆に自公が勝利すれば衆参両院とも与党が多数なので、政治は与党ペースで進めることができる。

 衆議院を解散しなければ、次の参議院選挙の2025年まで国政選挙はないので、総理は自分のやりたいことをやれる。それが「黄金の3年間」である。そしてフーテンはそうなれば2028年までの「黄金の6年間」が待ち受けていると思うのだ。

 昨年10月の衆議院選挙で当選した議員の任期は2025年の10月30日まで、つまり2025年は夏に参議院選挙があり、次いで10月30日までに衆議院選挙をやらなければならない。そうなれば衆参ダブル選挙の可能性が高いと思う。

 1986年7月に行われた中曽根内閣の衆参ダブル選挙で、自民党圧勝を経験したフーテンは、衆参ダブル選挙では与党勝利の確率が高いと思う。そうなると野党の望む政権交代はそれより先に遠のく。

 この国の仕組みでは、野党がまず参議院選挙で勝って「ねじれ」を作り、政府与党を機能不全に追い込んでからでないと、衆議院選挙で勝っても「ねじれ」で自分たちの方が機能不全に陥り、簡単に権力を奪い返されてしまう。

 つまり日本国憲法の定めでは、政権交代は参議院選挙に勝つことから始めないと極めて難しい。従って今年7月の参議院選挙で野党が勝利できなければ、2025年に予想される衆参ダブル選挙にも勝利できず、最も近いチャンスは2028年の参議院選挙ということになる。

 それを裏返せば、自民党が7月の参議院選挙に勝利すれば、2028年まで「黄金の6年間」を確保でき、野党を無視して思い通りの政治を実現できる。それを岸田総理がやるのか、それとも他の誰かがやるのかというところに、日本政治の現状はあるとフーテンは認識している。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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