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自分で自分の国の歴史を書けない国が自分の現状も正しく捉えられない

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(419)

如月某日

 通常国会が始まり衆議院予算委員会を2日ばかり見たところで絶望的な気持ちになった。この国会が始まる直前に明らかになった政府統計の不正問題は、政府が政策を立案する際の根拠となる特に重要な基幹統計56のうち22で不正が見つかるという深刻な問題である。

 

 これまで政府は誤ったデータに基づいて政策を立案してきたことになり、国の進路を誤ってこなかったとは言い切れない可能性がある。つまり国家の現状を正しくとらえ、正しく対処してこようとして来たのかが疑われているのである。ところが政府与党にはこの問題に真摯に取り組み是正しようとする姿勢が見えない。

 それは野党の要求する参考人招致を全く認めない姿勢に現れている。不正が明らかになった端緒は「毎月勤労統計」だが、その経緯を調べた特別監察委員会の樋口美雄委員長と、やはり不正が発覚した「賃金構造統計」を担当した厚労省の大西康之元政策統括官の参考人招致をなぜか与党は拒否し続けている。しかも大西氏の場合、国会が開かれた途端に更迭して招致のハードルを上げたのだから明らかな「証人隠し」だ。

 こうなるとこの問題を単純に考える気がしなくなった。単純な考えとは問題の始まりが小泉政権下の2004年であることから、「小さな政府」を信奉する小泉―竹中路線によって官僚組織の合理化が図られ、統計部門の人数が減らされたことで官僚の負担が増大し、それまで500人以上の事業所を全数調査の対象にしてきたのをやめ、3分の1の抽出調査に切り替えたというものである。

 2004年以前には人口10万人当たり4人で見てきた日本の統計調査が、現在では10万人当たり2人に半減したと言われる。その数字は各国の統計調査にかける人数と比べても少ない。それが原因で政府統計に不正が起きたというのなら対処の仕方は様々に考えられる。

 そしてそのような結論に導くなら与党が参考人招致を頑なに拒否する必要もない。ところが与党は参考人招致を認めない。外部の観察のように見せかけた特別監察委員会も、まるで厚労省のお手盛り調査だった。なぜそれほどまでにと思わせる対応である。従ってそれほど単純な話ではないように思えてくる。

 考えたくはないが、この問題には「闇」が隠されているのではないか。それは「闇」であるから決して明らかにされない。権力機構はそれを表に出さないように操作し続ける。そうなるとこれは誤りやミスではなく、ある時点から政府が意図的に国家の現状を操作し、操作した数字に合わせて政策を立案するようになった。そんな気がしてくる。

 フーテンがそう思うのには理由がある。それはこの国が自分で自分の歴史を書くことのできない国になってしまっている事実があるからだ。フーテンは戦後生まれで普通に教育を受け社会人になった。そのフーテンが学校で教えられなかったことにぶつかったのは1976年のロッキード事件である。

 自民党の前身である自由党に結党資金を提供した右翼民族派の領袖児玉誉士夫が米国の軍需産業ロッキード社の秘密代理人であることが米国議会で暴露された。ロッキード社から児玉を通して流れた金が日本の政界に流れ込み機種選定に影響したと言われた。

 なぜ右翼民族派の領袖が米国の手先なのか。児玉を取材していくと戦後7年間にわたる占領時代に突き当たる。ところがその時代の日本に何があったのか、新聞にも書籍にも確かな情報がないのである。ぽっかりと闇が浮かび上がるのだ。

 フーテンは生存する関係者を取材し、戦後史発掘を行うことからロッキード事件の真相に迫った。学校で教わった戦前と戦後の間に「占領期」があり、占領軍の情報統制によって国民には知らされない「闇」があることを知った。そして我々が教えられたのは米国によって統制された情報だけなのだ。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:3月31日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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