Yahoo!ニュース

沖縄県民投票の結果は安倍政権より本土の日本国民に向けられている

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(424)

如月某日

 24日に沖縄で行われた辺野古新基地建設を巡る県民投票は、有権者の過半数が投票に参加し、「辺野古埋め立てに反対」が全体の72%を超える43万4273票を獲得した。

 玉城沖縄県知事は「民意を真正面から受け止め、工事を中止するよう強く求めていく」と語ったが、安倍総理は「結果を真摯に受け止める」と言いながら、辺野古新基地建設は「先送りできない」と工事を進める考えを示した。

 「民意を真正面から受け止め工事の中止を求める」と、「民意を真摯に受け止め工事を進める」が、同時に発せられた状態をどう考えるか。投票結果は聞く耳を持たぬ安倍政権より、本土の日本国民に向けられているのではないかとフーテンは思った。

 「日本国の面積の0.6%の沖縄に在日米軍基地の70%が存在する」と言われるが、その不釣り合いな状態を作り出したのは本土の日本国民である。戦後の「反基地闘争」が本土にいた米海兵隊を米統治下の沖縄に追い出した。

 まもなくベトナムで開かれるトランプ大統領と金正恩委員長の米朝首脳会談で注目されるのは、1950年に始まった朝鮮戦争に終止符が打たれるかどうかだが、その朝鮮戦争に出撃し北朝鮮軍と戦ったのは日本に駐留していた在日米軍である。

 米国は朝鮮戦争勃発と同時に共産主義との戦いのため、いったんは非武装化した日本と西ドイツに再軍備を求めた。西ドイツはこれを受け入れ徴兵制を敷いたが、日本は吉田茂が平和憲法を盾に再軍備を拒否、代わりに武器弾薬を製造して戦争に貢献する道を選んだ。

 それが日本を工業国にして経済成長の基礎を作るのだが、日本製武器弾薬の性能を検査するため試射場が必要となり、石川県の内灘砂丘が選ばれて、1952年に試射場に反対する住民が「内灘闘争」を起こす。57年に試射場はなくなった。

 朝鮮戦争が休戦した1955年には、東京にある立川基地の拡張に反対する住民と警察隊が衝突し、千人を超える負傷者が出た「砂川事件」が起こる。さらに1957年には群馬県の米軍演習場で空薬莢を拾っていた主婦が米兵に射殺された。「ジラード事件」と言う。

 目撃者の証言から、ジラード3等兵が主婦を呼び寄せて射殺したことが分かるが、日米安保条約の行政協定で日本には裁判権がない。それを知って日本の世論は激高した。結局は日本で裁判を行うが、ジラードは殺人罪ではなく傷害致死罪で執行猶予になった。

 日本の反米感情が高まることを恐れた米国は、これを契機に本土にいた海兵隊をすべて米統治下の沖縄に移すのである。それが「0.6%の沖縄に米軍基地の70%がある日本」のそもそもの経緯である。

 ジラード事件の直後に総理に就任した岸信介は従属的な日米安保体制の見直しを図ろうとするが、ダレス国務長官に軍隊を持たない国が米国と対等にはなりえないと全面的に拒否され、そこから対等になるために憲法改正に取り組むようになった。

 60年安保闘争が終わり、高度経済成長が進むと、日本国民は経済的成功に酔いしれ、米軍基地を集中的に受け入れた沖縄の痛みを自らの問題と考えなくなった。そういう中で沖縄は日本に返還される。返還交渉は表は外務省だが、裏では佐藤総理の密使として国際政治学者の若泉敬が動いた。

 若泉の交渉相手はニクソン政権のキッシンジャー大統領補佐官や国家安全保障会議のモートン・ハルぺリンである。若泉は佐藤総理の主張する「核抜き本土並み返還」に力を入れたが、後になって「核抜き」に力を入れた余り、沖縄が永久に米国の支配下に置かれてしまったことに気づいた。

 自責の念に駆られた若泉は『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』(文芸春秋社)を書いて「核持ち込み密約」を暴露し、国民に「沖縄返還」の真相を知らせようとする。ところが高度経済成長に酔いしれた日本国民は真相の暴露を無視して誰も騒がなかった。

この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。

「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2019年2月

税込550(記事6本)

※すでに購入済みの方はログインしてください。

購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。
ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

田中良紹の最近の記事