父ブッシュの死に戦後日本の分岐点を痛切に思い出す

フーテン老人世直し録(407)

極月某日

 父ブッシュ元米国大統領が94歳で亡くなった。12月5日にワシントンで国葬が行われ、確執が伝えられていたトランプ大統領も参列するという。故人は旧ソ連のゴルバチョフ書記長と共に冷戦を終結させ歴史に名を残す存在だが、フーテンには日米関係が重大な分岐点を迎えた「湾岸戦争」を決断した大統領としての印象が強い。

 湾岸戦争は冷戦終結後に初めて行われた戦争である。それはその後のイラク戦争とは異なり、米国とイスラム国家との戦いではなく、侵略行為に国際社会がどう対処するかという第一次世界大戦後に作られた考えに基づく戦争だった。

 今年で終結100年目を迎えた第一次世界大戦は、軍人だけでなく一般国民も巻き込む史上初の総力戦となり、戦車、航空機、潜水艦など近代兵器の登場もあって、死傷者は3600万人を越す悲惨な結果となった。そのため各国は二度と戦争しないことを誓い、90年前には戦争放棄を規定した不戦条約を締結した。

 ただし侵略から国を守る自衛の戦争は認められ、それが拡大解釈されて再び第二次世界大戦の悲劇を生む。その教訓から侵略行為に対してはあくまでも国際社会が軍事力を行使して侵略を止め、ただし国際社会が対応するまでの間は侵略された国の自衛戦争を認めることにした。

 国際社会の軍事力とは国連軍を意味する。国連の安全保障理事会は国連参加国に対し兵力の提供を求め安全保障理事会の指揮下で国連軍を動かすことが出来る。しかし現実には米ソが対立する冷戦下で米ソが常任理事国を務める安全保障理事会がその機能を果たすことは出来ず、国連軍が組織されることはなかった。

 ところが1989年に米ソ冷戦が終結した。そして翌年の8月2日にイラク軍のクウェート侵攻が始まった。イラクは宗派対立に起因するイラン・イラク戦争で経済が疲弊し、湾岸諸国に原油価格の値上げを求めたがうまくいかず、イラク領油田からの盗掘を理由に隣国クウェートと対立した。

 サダム・フセイン大統領は駐イラク米国大使から米国が不介入の方針であることを確認した後、クウェートに軍を進めて8月8日にクウェート併合を宣言する。この時、世界中の議会は夏休み中であった。しかし各国とも8月末には議会を開いてこの問題を議論した。

 イランと敵対関係にあった米国はイラン・イラク戦争時にはイラク側だったが、イラクのクウェート併合は明らかな侵略行為である。英国のサッチャー首相の後押しもありブッシュ大統領は戦争するかどうかを判断する議論を議会に委ねた。

 フーテンはこの時初めて戦争をする国の決断プロセスを見ることが出来た。連邦議会は歴代国務長官、歴代国防長官、中東問題専門家、軍関係者、さらには経済学者のガルブレイズ教授まで喚問し、200時間以上にわたり戦争すべきかどうかを議論した。それを受けて上下両院の議員全員が今度は自らの政治生命をかけ賛否についての演説を行った。

 民主党議員の多くは経済大国となった日本の貢献がないことを理由に米兵が犠牲になることに反対したが、大統領を目指すアル・ゴア上院議員だけは賛成に回った。3か月近い議論の結果、米国は「砂漠の嵐作戦」と名付ける対イラク戦争に踏み出す。

 国連安全保障理事会は11月末に米ソが共に賛成して武力行使容認決議を行う。そして国連軍ではないが国連加盟の34か国が自主的に軍隊を派遣する多国籍軍が構成された。それは第一次大戦後に不戦条約を締結し戦争放棄を誓い合った国々が侵略戦争に対処する初めてのケースが試されることになるのだとフーテンは思った。

 一方、日本国内の反応は鈍いというか他人事のようだった。政府は米国の対応にすぐに賛意を表したが、フーテンの知り合いの外務省課長は「国会を開けば議論がとんでもない方向に行ってしまう」と議論になることを恐れた。憲法を巡る神学論争が始まると思ったのだ。

 各国の議会が議論する中で、日本の国会だけは10月まで開かれなかった。そして開かれた時には橋本大蔵大臣が米国に資金提供で話を付ける枠組みが決まっていた。小沢自民党幹事長は国際貢献として自衛隊の非軍事的派遣を主張したが、野党のみならず海部総理をはじめ与党も反対だった。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾のお知らせ」2月25日(火)19時~21時 場所:東京都大田区上池台1-21-5スナック「兎」(03-3727-2806) 東急池上線長原駅から徒歩5分■参加費:1500円 ■申込先:agoto@K6.dion.ne.jpに住所氏名明記で

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