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誰にも知らされないNHKという伏魔殿の闇

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(410)

極月某日

 NHKは12月2日に「平成史スクープドキュメント」の2回目として「バブル 終わらない清算~山一証券破たんの深層」を放送した。そして番組の終わりに予告があり、「小選挙区制導入」がテーマの番組を翌週9日に放送すると告知した。予告では小沢一郎氏のインタビュー映像と「新しいことには必ず反対がある」という言葉が流れた。

 フーテンは平成元年に始まる政治改革の真っただ中にいた人間である。平成元年8月10日、海部内閣が誕生したその日に自民党の政治改革推進本部に呼ばれ、かねてから主張してきた「国会テレビ構想」について説明を求められた。

 政治記者としての経験から政治の実像と国民の理解との間に大きなギャップがあることを痛感していたフーテンは、それを是正する方法として政治をより多く国民に見せる国会専門テレビチャンネルの導入を主張していた。

 問題はNHKの「国会中継」にある。それは数多くの国会審議のほんの一部を放送するだけなので、テレビでアピールしたい議員がテレビ向けのパフォーマンスに走る傾向がある。テレビ中継のない委員会では与野党が真摯に議論を行うのに、テレビに映る委員会では選挙を意識した対決型の議論になりやすい。

 それが国民の政治理解を歪めてしまうとフーテンは感じていた。外国の実態を調べると米国も英国もケーブルテレビで議会専門チャンネルを始めていた。その当時まだ日本にケーブルテレビはなかったが、近い将来導入されることになっていたので、そこで国会専門チャンネルを放送すれば良いと主張していた。

 国会のどの委員会にもカメラを取り付け頻繁にテレビ中継されれば、特別なパフォーマンスをする議員は次第に国民から見破られて支持を落とし、目立たなくとも実力のある議員を国民は発見して支持するようになるというのが米国や英国の経験だった。

 フーテンの説明に多くの国会議員は賛同してくれたが、しかし政治改革は結果的に小選挙区制導入が最優先となり、フーテンの主張する国会改革は後回しにされた。そうしたことからフーテンには政治改革に特別の思いがある。その意味で9日放送予定の番組をぜひ見たいと思い番組を録画予約した。

 ところが9日に録画されたのはサッカーの番組だった。もしかしてどこからか横やりが入り放送が中止されたか、あるいは番組内容の変更を求められて放送を延期したか、何かが起きたと直感した。

 すると13日発売の週刊文春が、森友学園を巡って特ダネを掴んだNHK記者が上層部の圧力でNHKを辞めることになったという記事を掲載し、さらに『安倍官邸vsNHK』という単行本が文芸春秋社から出版されることが分かった。

 NHKは安倍官邸の指示通りの報道を行うことが常態化し、特ダネを掴んでも放送されないか、書き換えを命じられるという告発である。半世紀近くメディアの内幕を見てきたフーテンにとって全く驚く話ではないが、ここにきて文春は安倍官邸とNHKの異常な関係を叩こうとしている。

 実は日本の最大の問題は新聞とテレビがもたれ合い相互批判をタブーにしていることである。そのため国民はメディアの内情を知らず、ジャーナリズムを妙に持ち上げるか、逆に「マスゴミ」と全否定してしまうかのどちらかだ。どちらも国民が愚かになるだけでまともではない。

 NHKという組織は税金のように国民から受信料を聴取し、数年前の国会答弁では職員の平均給与が1700万円というからおそらく日本一給料の高い組織である。それが国民にこの国の実像を伝えるのではなく実像から目をそらさせる情報を日夜流しているのである。NHKがなぜそのような組織になったのか、フーテンが知るこの組織の一端を紹介する。

 NHKは英国のBBCをモデルにして作られたと言われる。確かにNHKもBBCも税金で運営される国営ではなく国民が受信料を支払って成り立つ公共放送である。国民はテレビ受像機を購入すれば受信料を納めなければならない。しかしNHKとBBCには決定的な違いがある。免許を与える主体が違うのである。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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