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「トランプ・ショック」で世界は激震するか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(382)

文月某日

 16日にヘルシンキで開かれた米ロ首脳会談は米国内に大衝撃を与えた。第二次大戦後の世界のリーダーであった米国大統領が長年の敵対国ロシアの大統領に膝を屈する姿を見せつけたからである。

 米国内には一気にトランプ批判が巻き起こり、共和党内からも「国家に対する反逆」と声が上がるなど批判は党派を超えて広がっている。トランプは米ロ首脳会談に批判が出ることを覚悟していた節があり、それでも米国の一極支配構造を終わらせる大義を優先させたとフーテンは見ていたが、しかし最悪の場合トランプ失脚が現実になる可能性もある。

 フーテンは以前からトランプの戦略をかつての「ニクソン・ショック」と同列に捉え、米国が生き残るには構造変化を起こさせる以外に方法はないとの認識から、冷戦後の「米国一極支配構造」を「米中ロ三極構造」に転換させる狙いがあると考えてきた。

 ニクソンは敵国の「共産中国」と電撃的に和解し、同時に金とドルとの交換を停止するほか同盟国に対する輸入関税を上げて経済的に面倒を見て来た同盟国との関係を変えた。結果、米国は泥沼に陥っていたベトナム戦争を終わらせることは出来たが、ニクソン自身は「ウオーターゲート事件」によって任期途中で大統領を退任した。

 今回の米ロ首脳会談に先立つNATO首脳会議でトランプは加盟国に対し、「GDPの2%を国防費に充てる」共通目標の早期実現を求め、「最終的には4%にすべき」と大幅な国防費増額を要求した。

 そして1.24%にとどまるドイツをやり玉にあげ、ドイツがロシアの天然ガスに依存する計画を問題視してドイツを「ロシアの捕虜」と罵倒した。さらにNATOの同盟国を米国の「敵」とも表現した。EUと米国の間に貿易赤字があるからだ。これらの欧州同盟国に対する強烈な発言は裏を返せば欧州各国に米国からの自立を促す効果を生む。

 そしてトランプは「ロシアも中国も敵ではあるが、それは競争相手という意味だ」と付け加えた。つまりトランプの思考は冷戦時代の社会主義対自由主義という構図から完全に抜け出ている。

 トランプの頭にあるのは安全保障では世界の核兵器の90%以上を持つ米ロが最大の競争相手であり、経済ではまもなく米国を追い抜くとみられる中国が最大の競争相手である。そのロシアと中国は敵というより競争相手なので、これまでのように同盟国と協力して包囲する戦略をトランプは採らない。

 それより米国がロシアと中国と直接ディールする方が米国の利益だと考える。従って核兵器の90%以上を持つ米ロが関係を悪化させている現状は変えなければならない。トランプにとってロシアと核削減交渉をすることに米ロ首脳会談の大義はあった。

 ところが現在トランプの地位を脅かす最大の問題は、2016年の大統領選挙にロシアが介入してトランプ陣営を有利にしたと言われる「ロシアゲート」である。モラー特別検察官が捜査する中、トランプ陣営の選対本部長を務めたポール・マナフォートが、金正恩との米朝首脳会談の4日後に収監された。トランプにとって面白くなかったに違いない。

 そして米ロ首脳会談直前の13日に、ロシア政府の情報機関員12人がクリントン陣営幹部のメールをハッキングするなどサイバー攻撃に関わったとして起訴された。これもトランプには痛手で、メディアは米ロ首脳会談でトランプがプーチンにどう対応するかを注目した。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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