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紅白歌合戦 NiziUの“ストーリー”を感じた3分間と、各アーティストの思いが“エール”になった瞬間

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

2020年のNiziUの物語が詰まった初紅白でのパフォーマンス

9人組ガールズグループNiziUが12月31日『第71回紅白歌合戦』に初出場し、6月に配信されたプレデビュー曲「Make you happy」を披露し、見事なパフォーマンスを見せた。後半のトップバッターとして、シルバーをベースとした衣装で9人が登場すると、ステージが華やぎ、キラキラ輝く。実は歌い始めた時は8人しかいなかった。というのもMAYUKAが、マイクトラブルが原因でスタンバイが遅れたようだったが、数秒後には何事もなかったように9人の笑顔がお茶の間に届けられた。今年デビューしたばかり、さらにいきなりの大舞台でのトラブルに、まさにプロとしてデビューしたという覚悟が試されたシーンでもあったが、本人を含め9人は見事に対応していた。このトラブルも早速“ニュース”となり、各メディアが配信していた。彼女たちの出場がそれだけ注目されていたということだ。

「Make you happy」のアーティスト写真
「Make you happy」のアーティスト写真

2020年を代表する一曲のひとつ「Make you happy」を、年末最後の国民的音楽番組で、“完全体”で歌えたことで、老若男女を夢中にさせたNiziU誕生までのオーディションから始まった9人の2020年のストーリーは、まずはハッピーエンドを迎えることができたのではないだろうか。10月から体調不良で休養していたMIIHIが、12月25日に放送された「ミュージックステーション ウルトラSUPER LIVE2020」(テレビ朝日系)で復活し、また、体調不良により12月29日に行われた紅白のリハーサルを欠席していたことが報じられていたMAYAが、12月30日の「第62回輝く!日本レコード大賞」(TBS系)に出演し、9人で同曲をパフォーマンスし、ファンを安心させた。

まっすぐさ、明るさ、情熱、オーディション番組で彼女達に感じていたものが、パフォーマンスに全て昇華されていた

そして紅白の舞台での9人のパフォーマンスはまさに圧巻だった。それはオーディション番組「Nizi Project」を通して彼女たちに引き込まれた人の誰もが感じたその“感情”が、約3分のパフォーマンスに全て表れ、凝縮され、圧倒的な“熱”になって伝わってきたからだ。彼女たちのまっすぐさ、明るさ、そして情熱が歌にもダンスにも、そしてその佇まいにも映し出されていた。オーディション番組でありリアリティショウでもあった同番組では、生き残るためのメンバー同士の足の引っ張り合いなどは一切なく、プロを目指し数年間練習を積んでるメンバーもいれば、まったく経験のないメンバーもいて実力差がある中で、教え、教えられ、慰め合い、一緒に喜び、励まし合って成長する姿を捉えていた。

J.Y.Park氏
J.Y.Park氏

以前、彼女たちのプロデューサーであり、時には厳しく、時にはとびきり優しいその言葉で、9人を鼓舞し続けてきたJ.Y.Park氏にインタビューした際、メンバーを選ぶ際の大きな判断基準として「どれだけの情熱と、純粋さ、謙虚さ、誠実さがあるかということを、とても大事にしています」と語っていた。これから共に生きて、長い活動をしていく9人には、とにかく素直な人間性を求めた。これは2PMやTWICEなど、J.Y.Park氏が作り上げたJYPエンターテインメントに所属するアーティストに共通している部分で、同氏が貫いているモットーだ。

歌・ラップ・ダンス、全てのクオリティが“次”を感じさせてくれる

「Make you happy」は、9人9色、それぞれの個性を最大限に生かし、それが交錯し生まれる多幸感が魅力だ。紅白で見せた歌も高速ラップもダンスも、明らかにひとつ上のステージにいった感、ネクストレベルということを感じさせてくれた。なにより9人が心から楽しんでいることが伝わってきたことに、感動した人も多いのではないだろうか。

「Step and a step」のアーティスト写真
「Step and a step」のアーティスト写真

6月に公開された同曲のMUSIC VIDEOの再生回数は2億回を突破。「縄跳びダンス」は社会現象にもなり、大きな注目が集まる中、12月2日にはデビューシングル「Step and a step」でCDデビューした。9人が歩んできたこれまでの道、そこで抱いた思いを映した楽曲だ。紅白のステージでは「Make you haapy」を披露しながら、「Step~」に込められている、一歩ずつゆっくりでいいから9人で歩いて行こうというメッセージ、強い思いを届けてくれた気がする。9人の物語はまだ始まったばかりだ。

今回の紅白のテーマは“今こそ歌おう みんなでエール”。初の無観客ということで、今までにはない“空気”の中でパフォーマンスするそれぞれのアーティストが、どんな“空気”を視聴者に届けてくれるのか、楽しみだった。11月に、Little Glee Monsterの芹奈とかれん、東京事変でアーティストして初出場した亀田誠治との対談取材をした際は、かれんは「二度と経験できないような紅白にきっとなると思う」、亀田は「自分も子供の頃から観てきたし、そこに出られるのはやっぱり特別な気持ちだし、無観客という状況も多分今年だけだと思っているので、そういう中で経験するのも気が引き締まる」とそれぞれ意気込みを語ってくれたが、2組とも思いを視聴者に真っすぐ届けるように歌い、演奏していた。

24年ぶりに出場、玉置浩二の圧巻の歌が感動を届ける

ギリギリになって発表された、玉置浩二の24年ぶりの出場も話題になった。ベートーヴェンの「田園」をアレンジに取り入れた、圧巻の演奏を響かせてくれる東京フィルハーモニー、それを圧倒するような規格外の歌唱力で名曲「田園」を披露した。<生きているんだ それでいいんだ>というフレーズが、我々を含む、コロナウィルスに苦しまれている世界中の人々へと送られる。その歌は多くの人の胸に突き刺さり、感動を届けてくれた。

星野源が「うちで踊ろう(大晦日)」に込めた思い

星野源がSTAY HOME中にSNSで公開し、多くの人が様々な形でコラボレーションした「うちで踊ろう」に2番の歌詞がついた「うちで踊ろう(大晦日)」が初披露され、SNSが湧いた。「まだまだ終わりの見えない大変な状況ですけど、今この時間を生きている皆さん、生活している皆さんに向けて、一緒に心の内側で踊りたい、そういう気持ちを込めて新しい歌詞を書きました」とメッセージし、歌われた歌詞は<生きて踊ろう 僕らずっと独りだと 諦め進もう><生きて抱き合おう いつかそれぞれの愛を重ねられるように>と、夢や理想だけを語るのではなく、全ての人が“希望”を掴めるように心を鼓舞してくれる言葉が、スッと心に入ってきた。

YOASOBI「夜を駆ける」テレビ初披露

“2020年最大のヒット”YOASOBI「夜を駆ける」の初生披露も大反響だった。“小説を音楽にする”をコンセプトにする彼らのために用意された、角川武蔵野ミュージアム「本棚劇場」から中継された。Ayase率いるバンドの緻密かつアグレッシヴな演奏、ikuraの透明感の中にフックがある圧倒的な歌、そして美しい映像演出が相まって、音楽と本と映像がまさに物語を作りだし、楽曲の世界観をさらに広げてくれた。ちなみに「夜を駆ける」は紅白効果もあり、放送後LINE MUSICで1位に返り咲いた。

万感の思いで歌ったJUJU

紅白初出場が決まった際「せかほし(「世界はほしいモノにあふれている」(NHK))ファミリーのことを思い浮かべながら、皆さんのことを思い浮かべながら歌いたい」と語っていたJUJUが涙を堪えながら熱唱した「やさしさで溢れるように」も、SNS上で感動の声が飛び交っていた。彼女の心の中にある深い思いが歌に表情となって表れ、感動のパフォーマンスになった。24年ぶりの出場となった鈴木雅之の「夢で逢えたら」の歌詞は、恋人同士の深い思いとも取れるし、色々な人が色々な思いを昇華させることができる。鈴木は、紅白出場が決まった日の朝亡くなってしまった、同曲が好きだったという母親に向け、歌ったのではないだろうか。そして12月30日が7回目の命日だった、この作品の作詞・曲を手がけた大瀧詠一さんにも向けて歌ったはずだ。さらに今年新型コロナが原因で亡くなり、しかし接触が禁じられ最愛の人の最期にも立ち会えず悔しい思いをしている人の、家族や大切な人にもう一度会いたいという思いも映しているように思える。トリで登場した福山雅治も「家族になろうよ」で家族の絆を歌い、人と人のつながりの尊さを改めて伝えてくれた。

大トリの“意味”を改めて教えてくれたMISIA

大トリのMISIA「アイノカタチ」での魂震える歌は、この国民的音楽番組で、大トリで歌うことの意味を改めて教えてくれた気がする。歌で確実に何かを届け、聴いた人の心を豊かにし、さらに歌で家族をはじめ、人と人とをつなげる――そんな歌い手がその年“最後の歌”を歌い、それは来るべき新しい年の“始まりの歌”でもある、と。

出場歌手全てが、番組のクライマックスのような熱いパフォーマンスを見せてくれた2020年の紅白歌合戦。早くも今年の紅白歌合戦が楽しみになってきた。今年はどんな音楽、ヒット曲生まれるのだろうか。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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