杉山清貴&オメガトライブ 40周年、夏は終わらない。ファイナルツアーが盛況「“楽しい”が続いている」
『杉山清貴&オメガトライブ~FIRST FINALE TOUR 2024~“LIVE EMOTION”』開催中。再追加公演が決定
昨年デビュー40周年を迎えた杉山清貴&オメガトライブが、3月9日から全国ツアー『杉山清貴&オメガトライブ~FIRST FINALE TOUR 2024~“LIVE EMOTION”』をスタートさせた。その反響の大きさに5月31日NHKホールでの追加公演、さらに5月20日には同所での再追加公演も発売と同時に完売。勢いが止まらないこのファイナルツアー。さらに5月9日には『The Covers』(NHK-BS)にバンドとして40年ぶりのテレビ出演することも決定した。
「今しかできないという気持ちが強いので、ファイナルツアーと名づけました」
メンバー全員が60代半ばとなり「今しかできないという気持ちが強いので、ファイナルツアーと名づけました」と語る杉山清貴に、このツアーについての意気込み、思いを聞いた。
杉山清貴&オメガトライブは1985年に解散、2004年に再結成し3公演行なった。その後2018年杉山の日比谷野音でのライヴで35周年を記念して復活、2019年にも同所でライヴを行なった。そしてこの年には全国ツアー(12会場で13公演)を行ないファンを喜ばせた。2023年11月にはオメガトライブには欠かせない作曲家・林哲史50周年記念コンサート『ザ・シティ・ポップ・クロニクル 林哲司の世界 in コンサート』に出演。その変わらない歌声、演奏でパワフルなステージを披露し、ひと際大きな拍手と歓声を浴びた。
「2018年の時はどこかピリピリもしていたし、まだみんな気持ちがついていってなかった。2019年のツアーもまだ乗り切れない気持ちだったと思うけど、全員だんだん自覚が出てきてツアーが終わる頃にはみんなシュッとして、加齢からくるむくみも取れ(笑)、ミュージシャン然としていました。去年の林さんの50周年記念ライヴの時は、確かに廣石(惠一)のドラムは最高によかった。当時も体調はイマイチって言ってたけど、演奏はバッチリで、今回のツアーもあいつのスケジュールに合わせて組んだのに、参加できなくて本当に残念。完全体で回りたかった。みんな悔しがってるけど、一番悔しいのはあいつだと思う」と、ドラム廣石の離脱をとても残念がっていた。このツアーは杉山清貴(Vo)、髙島信二(G)、吉田健二(G)、大島孝夫(B)西原俊次(Key)のオリジナルメンバーに、廣石に代わって小川幸夫(Dr)を迎え、そして大阪哲也(Key)、Juny-a(Per)というおなじみのサポートメンバーと共に全国を回っている。
「活動期間はわずか2年8か月で、ツアーも2回しか回っていなくて、ライヴを観られなかった人がたくさんいます。だからこの機会にたくさんの人たちに観て欲しいです」
杉山清貴&オメガトライブは1983年にデビューし、7枚のシングルと5枚のアルバムを発表し「Summer Suspicion」「君のハートはマリンブルー」「ふたりの夏物語 NEVER ENDING SUMMER」「ガラスのPARM TREE」などヒット曲を連発。しかしその活動期間はわずか2年8か月だった。解散に至った理由を改めて聞いてみた。
「オメガトライブは、当時のプロデューサー・藤田浩一さんが思い描く音や世界観を具現化していくために、作曲家の林哲司さんなどの作家やアレンジャーが集結した“プロジェクト”チームとして結成されました。だから僕達は書いてもらった楽曲を“演じて”いたし、いかに多くの人に伝えていくか真面目に取り組んでいました。自分達で曲を書いていないから楽と思うかもしれないですが、逆です。売上げやライヴの動員が落ちないようにしなければという“使命感”がすごく強かった。色々考えると俺たちってどうなっちゃうんだろうって不安が増すばかりで、それに疲れ果てて約3年で終わってしまった感じなんです。ツアーも2回しか回ってなくて、当時観られなかった人がたくさんいると思います。だからこの機会にとにかくたくさんの人たちに観て欲しいです。オメガトライブでは新曲は出さないと決めて活動を再開したので、皆さんが聴きたいと思っている曲は、ほぼ聴けるライヴになると思います」。
「オメガの曲は“型”がきちんと決まっているから、あの演奏、サウンドでなければきちんと歌えない」
杉山はオメガトライブ時代の曲は、オメガトライブの演奏でなければ“きちんと”歌えないという。
「オメガの曲は“型”がきちんと決まっているから、僕がソロの時にその時のバンドの演奏でオメガの曲を歌うと、自由に歌ってしまうから世界観が変わってしまいます。林さんの50周年記念ライヴの時も、前の日までソロツアーで歌っていて、オメガのリハに入っても『Summer Suspicion』がちゃんと歌えないんです。声は出るけどオメガの声になるまでが時間がかかって、やっぱりあの演奏とサウンドでなければダメなんです。シングル曲はなんでこんなにキー高いんだっていうくらい高くて、このツアーも毎回一切気が抜けないライヴになりそうです(笑)」。
“最後”のツアーをメンバー全員が楽しんでいる。「当時は青春真っ盛りという感じでとにかく楽しかった。今もその“楽しい”は続いている。楽しいことしかやらないので(笑)」
このツアーのゲネプロを観たが、杉山の歌はキーは当時と変わらず、メンバーの演奏もまさに“あの音”だ。メンバー全員がオメガトライブを楽しんでいる。それが音に表れていた。新曲がないことで逆にずっと応援しているファンは、オメガトライブの世界に“浸れる”し、新規のファンも、限りなくオリジナルに近いアレンジを再現しているのでスッと耳と心に入ってくるはずだ。
プロジェクトとしてのオメガトライブは解散したが、その前身、きゅうていぱんちょすは解散していない――それがメンバーとファンの共通認識だ。だからメンバーは和気あいあいと、好きな音楽を奏で続けることができている。多忙且つ刺激的だった当時を杉山は「青春真っ盛りという感じ。とにかく楽しかった。今もその“楽しい”は続いている。楽しいことしかやらないので」と笑顔で語ってくれ、このラストツアー、メンバーとの全国の旅を心から楽しみにしている。
「当時ライヴでやっていた演出も再現してみようと思っているので、昔から応援してくれている人たちは懐かしんでもらえると思うし、新しいファン、若い人が来てくれるなら『80年代ってこんなことをやっていたんだ』と、楽しんでもらえると嬉しい。『あなたのお父さんお母さんの青春時代の日本には、こんな素敵な音楽があったんですよ』ということをちゃんと伝えたい」。当時からのファンはもちろん、昨今のシティポップ人気で増えている若い世代のファンにもメッセージを贈った。
杉山清貴&オメガトライブとして40年ぶりにテレビ出演が決定
現在ツアーは各会場で大きな盛り上がりを見せているが、杉山清貴&オメガトライブとしてなんと40年ぶりにテレビ出演が決定というニュースが飛び込んできた。5月9日放送のNHK BS『The Covers』(第1&第2木曜21時30分)が、「杉山清貴&オメガトライブ~魅惑の80sシティ・サウンド~」と題した特集を組み、バンドメンバーが揃って出演し、林哲史が手がけた松原みき「真夜中のドア~Stay With Me」と、中森明菜「北ウイング」をカバーし、「ふたりの夏物語NEVER ENDING SUMMER」も披露する。
シティポップの最重要人物・林哲史
昨今、国内外でシティポップが再燃しブームになっていることを杉山にぶつけると「オリジナルがあって、それを独自のものに変えていくという手法はまさに日本人の得意分野だと思う。そしてこのメロディは、日本人にしか書けないもの。特に林さんと山下達郎さんの作品には、世界観は洋楽だけど、情緒のようなものを感じる。でもコテコテの歌謡曲の要素が一切入っていない。だから海外の人にとっては新鮮で斬新に感じ、ウケているのではないでしょうか。当時林さんや達郎さんと同じような感じの作品を作った人もいたけど、でもなんか違った。センスが違うというか」と独自の視点で明確に答えてくれた。
さらに「だからといって林さんのメロディを真似して作ってもダメなんです。あれはあの時代に生きた人たちだから作れるものであって、今の時代に生きる人たちは、今の時代に生きる人たちの感性でそれを解釈して作ればいいと思う」と教えてくれた。
「常に新しいものを生み出していくという姿勢がないと、音楽をやっていても面白くない。シティポップが好きなミュージシャンも懐古主義に走らない方がいい」
杉山の言葉通り、シティポップはリスナーだけはなく、プレイヤーにも影響を与え、2010年以降ネオシティポップともいえる音楽が続々と生まれた。当時のものをレイドバックしているだけではなく、新しいエッセンスを入れて新しいムーブメントを生み出している。
「まさにオリジナルから独自の新しいものを生み出していくスタイルですよね。でもそうやって常に新しいものを生み出していくという姿勢がないと、音楽をやっていても面白くないと思う。今の時代は古いとか新しいもなくて、僕らの中で古いなと思うことをやっても、誰も古いなんて言わないし、何でもできる時代なので特にミュージシャンは変に懐古主義に走らない方がいいと思う」と、オメガトライブやシティポップの遺伝子を受け継ぐ若いミュージシャンに、エールを贈った。