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鈴木雅之 24年ぶりの紅白で様々な思いを込め、歌う「夢で逢えたら」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

アニメファンから「なぜ紅白であの曲を歌わない」という声が上がる

『第71回NHK紅白歌合戦』(12月31日19時30分~)の本番が迫ってきて、そのリハーサルの様子が、出演歌手のコメントと共にニュースとなって伝えられ始めた。今年は初の無観客での生放送ということで、どんな“空気感”がお茶の間に伝わるのか気になるところだが、気になったといえば、12月21日に出場歌手が歌う曲目が発表された時の、SNS上でのある声だ。

“ラブソングの王様”は“アニソン界の大型新人”

それは鈴木雅之が「夢で逢えたら」を歌うことに関しての反応だ。「かぐや様じゃないのか…」等、選曲を残念がる声が飛び交っていた。というのも鈴木は2019年「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」のオープニング曲に起用された「ラブ・ドラマティック feat. 伊原六花」がヒットし、同年の「Animelo Summer Live 2019」にも出演。デビュー40周年を迎えた大ベテランながら、“アニソン界の大型新人”として、アニメファンから大きな注目を集める存在になった。さらに2020年も鈴木愛理とコラボした「DADDY! DADDY! DO! feat. 鈴木愛理」が『かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~』の主題歌になり、そのミュージックビデオも2300万回以上再生され、一発撮りのパフォーマンスが話題のYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」での二人の歌も、約1200万回再生を記録し、“ラブヴソングの王様”はアニメファンという新しいファンの支持を得ることができた。そんな鈴木の近年の活躍や話題性が評価され、紅白への出場が決まり、「紅白でもW鈴木でDADDYを歌うはず」と思っていた新しいファンが多かった、ということだろう。

しかし、今年24年ぶり3回目の紅白出場となる鈴木に、紅白制作サイドが求めているのは、40年のキャリアが作り上げた、その圧倒な歌のうまさと“伝える”力だ。各歌手の歌唱曲は、“今こそ歌おう みんなでエール”という今年の番組テーマに沿った、さらに「今年の活躍」「世論の支持」「番組の企画・演出」という出場歌手の選考基準ポイントのひとつでもある、“企画・演出に合う”かどうか等、様々なことが勘案され楽曲が選ばれる。コロナ禍で不安に苛まれ続けた2020年の最後、せめてひと時だけでも音楽で希望を感じて欲しいという紅白制作サイドの思いが込められている。

「夢で逢えたら」は、大瀧詠一作詞・曲の1975年に発表された作品で、1976年吉田美奈子が歌い音盤化され、以降様々なアーティストにカバーされている、日本のポップスシーンを代表する一曲だ。鈴木は1996年ラッツ&スター再集結時にカバーし、その年の第47回の「紅白」で歌い、以来20年以上大切に歌い続けている。

紅白出場が決定したその日に、「夢で逢えたら」が好きだった最愛の母親が天国に旅立つ

40周年の締めくくりの年に、紅白という大舞台への出場が決定したことが、鈴木の元に届けられた11月16日、最愛の母親を亡くしてしまった。公式サイトで鈴木は「奇しくも紅白歌合戦出場の発表となった当日の朝、天国へと旅立っていった母親が好きだった『夢で逢えたら』が選ばれたことにも、とても大きな役割を持って舞台に立つ鈴木雅之を応援して頂けたら嬉しいです』とコメントしている。ちなみに本番の前日、12月30日は鈴木の恩人であり、リスペクトしている大瀧の7回目の命日でもある。

「夢で逢えたら」の歌詞に、思いを重ねる

今年新型コロナが原因で亡くなった人の数は、全国で3000人を超えている。感染予防の観点から接触が禁じられ、最愛の人の最期にも立ち会えず、悔しい、空しい思いをしている人も多い。「夢で逢えたら」の歌詞は恋人同士の深い思いともとれるし、色々な人が色々な思いを映すことができる歌詞だ。亡くなってしまった家族や、大切な人にもう一度会いたいという思いを抱いている人に、<夢でもし逢えたら 素敵なことね>という歌詞はどう響くのだろうか。この、人を思う歌は、まるで聴き手の肩を抱いてくれるように、優しさで包み込んでくれる。色々な思いが込み上げてくる一年の最後の日、鈴木雅之はどんな思いで「夢で逢えたら」を歌い、伝えるのだろうか。

鈴木雅之 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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