Yahoo!ニュース

韓国で高視聴率を記録、『日韓歌王戦』に出演した「トロット・ガールズ・ジャパン」シンガーが凱旋

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/「トロット・ガールズ・ジャパン」製作委員会

日韓のシンガーが7vs7で激突する韓国の音楽番組「日韓歌王戦」が高視聴率を記録

韓国MBNテレビで4月に放送された、日韓のシンガー7名ずつがバトルを繰り広げた「日韓歌王戦」(全5回/日本ではWOWOW、ABEMAで放送&配信(終了))の視聴率が初回11.9%を記録し、その後も歌番組としては異例の10%前後という高い数字を弾き出し、大きな注目を集めた。これまで日本人の歌手が韓国のテレビに出演し、日本語の歌を歌うこと自体が珍しかったが、日韓の歌手が共演し文化交流を深めるという意味でも話題になった。“日本代表”として韓国で大人気のトロットシンガーと戦ったのは「トロット・ガールズ・ジャパン」の決勝戦に残った7人だ。

オーディション番組『トロット・ガールズ・ジャパン』を勝ち抜いた7人が日本代表として韓国へ

韓国発の歌姫発掘オーディション番組『トロット・ガールズ・ジャパン』は、韓国からも現役トロット歌手やアイドルなどが参加するなど、様々なキャリアや経験を持つ12歳から50歳までの“強者”54組57名が事前審査を通過し、予選に参加。昭和から平成にかけての名曲を歌い、熱い戦いを繰り広げ、2月23日に行われた決勝戦では福田未来がトロットビーナス=チャンピオンに輝いた。その決勝に残った7名と、韓国のオーディション番組『現役歌王』の入選メンバーがバトルしたのが『日韓歌王戦』だ。

その日本代表の7人(東亜樹(欠席)、歌心りえかのうみゆ住田愛子natsuco福田未来MAKOTO.)と、このオーディションと番組の仕掛人であるチョン・チャンファン氏に「日韓歌王戦」についてインタビューした。

『PRODUCE 101& PRODUCE 101 JAPAN』を仕掛けたチョン・チャンファン氏がプロデュース

日本の歌謡曲や演歌のような位置づけのトロットは、韓国で幅広い層から支持されている一大ジャンル。そのトロットを日本で新たな視点で展開させた「トロット・ガールズ・ジャパン」を仕掛けたのは、かつてSM エンターテインメントで東方神起、SUPER JUNIOR、少女時代、SHINee、EXOなどアーティストの制作やマネジメントを手がけ、さらにJO1やINIがデビューした『PRODUCE 101& PRODUCE 101 JAPAN』を発案したプロデューサーのチョン・チャンファン氏だ。なぜ日本で「トロット・ガールズ・ジャパン」を開催しようと思ったのだろうか。

『トロット・ガールズ・ジャパン』を開催した理由。「演歌から生まれたトロットが里帰りし、日本で一緒にそのオーディション番組をやることで、素晴らしい文化交流ができたと思います」

チョン・チャンファン氏((株)n.CHエンターテインメント 代表プロデューサー)
チョン・チャンファン氏((株)n.CHエンターテインメント 代表プロデューサー)

「私は韓国の『PRODUCE 101』というオーディションの日本バージョン(『PRODUCE 101 JAPAN』)を開催した経験があり、そこから生まれたのがJO1です。2022年には『青春スター』という、アイドルボーカル、シンガー・ソングライターを発掘する初めての日韓合同のオーディション番組をプロデュースしました。今回はもう少し上の世代に向けた音楽のオーディションをやってみたらどうだろうと思い、韓国でトロットのオーディション番組がすごく人気だったので、これを日本でやってみようと思いました。まずトロットがどんな音楽なのか、日本の方に理解していただく必要があります。トロットは日本統治時代に韓国に入ってきた演歌が源流です。その後韓国は1960~70年代は海外の音楽を自由に聴くことができず、ジャンルの幅が狭く、トロットが幅広い世代から愛され、今も絶大な人気を誇っています。日本は海外からの文化を積極的に取り入れた結果、音楽のジャンルが広がり、演歌のシェアは少なくなっていきました。そしてトロットの定義も時代と共に変化してきました。色々な音楽と融合しながら若いリスナーに親しまれ、オープンな音楽になっていると感じています。だから日本の年齢層が高い方達が、学生時代に聴いてきた演歌や歌謡曲やフォーク、ニューミュージックを若い人が歌うことで喜んでいただけると思うし、名曲達もさらに聴き継がれるいくと思い、このオーディションを企画しました。演歌から生まれたトロットが里帰りし、日本で一緒にそのオーディション番組をやることで、素晴らしい文化交流ができたと思います」(チョン氏)。

「音楽番組の視聴率は通常数%、『日韓歌王戦』は初回11.9%。この数字が注目度の高さを物語っている」

「日韓歌王戦」は韓国で高視聴率を記録し、視聴者を熱狂させた。日本人審査員として松崎しげる、南野陽子、遼河はるひが出演した。

「『日韓歌王戦』の第1回目の視聴率が11.9%と、最近の韓国の音楽番組は数%というのが普通なのでその中では突出した数字でした。それが全てを語っていると思います。その後も注目度は高く、韓国のシンガーは視聴者にはもうおなじみの実力者なのですが、日本のシンガーは新鮮で斬新、魅力的に映ったようで、すでに熱狂的ファンもいます。7人は次に韓国に来た時は空港でセキュリティが必要になるのではないでしょうか(笑)」(チョン氏)。

「トロット・ガールズ・ジャパン」「日韓歌王戦」はその後もストーリーは続くとチョン氏は教えてくれた。

「『日韓歌王戦』が終了したら、韓国でスピンオフ番組も制作することになると思います。そして6月30日には日本で初めてのライヴを予定しています。出場者がただ歌を披露するステージではなく、意外性のある面白い演出を考えているので、楽しみにしていてください。そしてソロなのかユニットなのかまだ発表できませんが、デビューに向けての準備もしています」(チョン氏)。

歌姫たちが語る「日韓歌王戦」。「とにかくお客さんの熱量が凄い」(福田)

福田未来
福田未来

MAKOTO.
MAKOTO.

歌心りえ、かのうみゆ、住田愛子、natsuco、福田未来、MAKOTO.に「日韓歌王戦」に出場した時の感想、観客、ファンの盛り上がり、そして韓国でのレッスンの様子などを聞いた。

福田 海外での番組収録はもちろん初めてでしたが、とにかくお客さんの熱量が凄かったです。一緒に歌った韓国のトップ7はみなさん超有名シンガーで、私達7人も日本を代表してきているということで、お客さんが熱く、優しく迎えてくださって嬉しかったです。すごく愛されている番組なんだなって思いました。

MAKOTO. 韓国にいる知り合いからも「観たよ!」ってすぐに連絡が来て、幅広い層の方から支持されている番組なんだなって実感しました。

かのう アウェー感があるのかなって思っていたら、お客さんからの応援、声援が凄くて、もうステージに出た瞬間、緊張がなくなり、伸び伸びとリラックスして歌えました。それは他のメンバー全員がそうだったと思います。

韓国のトロットシンガーからもらったアドバイス

歌心りえ
歌心りえ

natsuco
natsuco

韓国で国民的人気を誇るトロットシンガー7人の歌はどう感じたのだろうか。

歌心 安定感はいわずもがなで、でも無理のない発声なのにすごくパワーを感じました。もちろん感情は迸っているのですが、リラックスして歌っているというか。表現力が凄すぎて、出場者の一人でトロット界のスター、パク・ヘシンさんに「どうしたらそういう歌が歌えるんですか?」って、トレーニング方法とかを教えてもらおうと思って聞いてみると「大切な人と時を過ごすこと、好きな食べものを食べて、美味しいお酒を飲むことよ」って心構え、メンタルを大切にすることを教わりました。

natsuco りえさんもおっしゃったように歌唱力の素晴らしさはもちろんですが、やっぱりトロット歌手としてのプライドや、自分が理想とする表現というものが明確にあって、それは番組で高いレベルの中で勝ち抜いてきたからこそ得ることができたのかなと思いました。お客さんの巻き込み方も含めて、見習うべきところがたくさんありました。

韓国流のレッスンでさらに磨かれた歌

住田愛子
住田愛子

かのうみゆ
かのうみゆ

日本代表として臨んだ7人は3週間韓国に滞在し、現地のディレクターやトレーナーにレッスンを受け、さらに歌を磨き本番に臨んだ。そのレッスンの方法や番組の作り方もいい意味で韓国流の洗礼を受けたという。

住田 テクニックはもちろんですが、自分自身の元々のレベルを総合的に引き上げてくださったレッスンだったなって思いました

福田 日本では発声や基礎的なことが中心ですが、韓国はその曲をとにかく追求していくというレッスンでした。本当にひと言ひと言表現にこだわって、引き算をすることを教えてもらった気がします。それによって今まで歌っていた曲が、抑揚がすごくついてより立体的になったと思います。日本に戻ってきて友達に歌を聴いてもらったら「違う人みたい」って言ってもらえるぐらい成長できたレッスンでした。

かのう 韓国に行って、演出をしてくださる作家さんやボイトレの先生から「歌っている時の表情がすごくいいから、それをもっと生かしたパフォーマンスにしましょう」ってたくさんアドバイスをいただいて、これまでずっとステージに立つ時にこだわってきたことは無駄じゃなかったんだって思えました。

MAKOTO. 私はステージで「堂々とやっているね」と韓国の作家さんに言っていただけたのですが、実はすごくあがり症で、でもステージに上がった時にグッと入り込んで感情を爆発させるタイプです。でも韓国のトップ7、日本のトップ7、周りに素晴らしい教材ともいうべき人がたくさんいるので研究して、自分が培ってきたものと融合させてもっといいパフォーマンスにしたいと思いました。あとはやっぱり番組の演出担当の作家さんがひとり一人についてくれてたので、作家さんの言うことを素直に聞くということが一番の近道だと思いました。

「日本とは違う演出方法に最初ビックリしました」(歌心)

歌心 番組では、出演順が本番直前までわからないところは「トロット・ガールズ・ジャパン」もそうでしたが、「日韓歌王戦」はバトルが始まって、お客さんの反応とか点数の差とかで、出演順が変わったことがあって、「えっ今変えるんですか」って驚きましたが、新鮮でした。流れを見てもっと面白くさせようとか、展開が変わっていきそうだと予測しながら、歌う順番を変えていくスタイルにはびっくりしました。大変だったのはリアクションです(笑)。韓国の方が歌ってるときと日本のメンバーが歌っているとき、みんなのリアクションが求められるんです。声を出してもいいしとにかくオーバーなリアクションを、と言われそこが日本の番組との大きな違いでした(笑)。

かのう 韓国は本番直前に全て決まって、私達も対応力が求められるというのは、韓国に行く前から薄々気づいていましたが(笑)、お客さんの反応を見て進行がどんどん変わっていくところは素晴らしいなと思って。それから私達に対しての気遣いやケアが本当に手厚くて、常に「大丈夫だよ」って作家さんやディレクターさんが声をかけてくれました。もちろん日本の番組の良さは十分感じていますが、韓国は韓国流のよさがありました。

natsuco 今回は日韓戦ということで、元々トロットは演歌が日本から韓国に繋がって、共通した音楽の文化だったという部分の理解から、日本の曲、韓国の曲、両方への理解をしっかり深めて、そこに自分らしさを乗せるということを意識して歌いました。本当に温かい環境の中で歌えたので、プレッシャーはなくなって、私も含めて自由に伸び伸び歌えたメンバーが多かったと思います。

MAKOTO. 私達は韓国の曲を、韓国の方は日本の曲を歌ったことが一番の文化交流だと思います。

6人に今後の目標、野望を聞かせてもらった。

歌心 「日韓歌王戦」がいい経験になって、もっと歌を頑張ろうと思いました。私は出場者の中では最年長で、本当にいくつになっても挑戦ってできるんだなということを実感しました。これからも歌を心で歌い続けていきたいです。

かのう 韓国で歌えて光栄でしたし、TikTokも韓国のファンの方がすごく増えて、いつか韓国でライヴをやりたい、メディアに出たいという夢があったのですが、今回それが叶ったので嬉しかったです。日本と韓国を行き来しながらライヴをやりたいです。

福田 私は死ぬまでに名曲といわれる曲を残すという夢がずっとあります。それは変わらない夢ですが、大好きな韓国に行ったことでまたひとつ夢というか目標ができました。それは韓国で有名になって、私はビールが大好きなので韓国のビールのCMに出たいということと、自分のポスターが飲食店に貼ってあるのを見てみたいです。私が韓国を大好きなように、韓国の方たちにも私を大好きになってもらいたいです。

住田 私はダンスもやっているので、ダンスパフォーマンスを通しても人の心を動かす歌い手になりたいという夢があります。でもまだ16歳なので、とにかく色々なことにチャレンジしていきたいです。

MAKOTO. 私は元々K-POPアイドルに憧れて、韓国で練習生として5年間過ごしました。だから自分にとって韓国で活動するということは、他の人とはちょっと違った思いがあって。「日韓歌王戦」で“オールラウンダー”というキャッチフレーズをつけていただいたので、その名に恥ないようにもっと頑張って、日本と韓国を行き来して文化の懸け橋的存在になりたいです。

natsuco 私の目標は二つあって、まず曲を書いてみたいです。今回「トロット・ガールズ・ジャパン」で、日本の名曲を歌い継ぐということを経験させていただいて、日韓戦で韓国の曲にも触れることができて、両方の国の人の心に響くような曲を書いて、歌って届けたいです。それからライヴをたくさんやりたいです。私もMAKOTO.さんと同じように、日本と韓国を行き来しながら、音楽もファンも繋いで、日韓の文化交流の役に立ちたいです。

インタビューに登場したかのうとMAKOTO. そして「トロット・ガールズ・ジャパン」に出場し注目を集めた太良理穂子、あさ陽あいの4人が、5月4日に開催される『東京国際音楽祭』の特別公演「昭和99年 紅白歌合戦」(大田区民ホール・アプリコ 大ホール)に出演することが発表された(出演:松崎しげる/ぼんちおさむ/ダイアモンドユカイ/伊東ゆかり/麻丘めぐみ/中村あゆみ/森口博子/LE VELVETS)。

WOWOW「トロット・ガールズ・ジャパン 日韓歌王戦」

ABEMA 「トロット・ガールズ・ジャパン 日韓歌王戦」

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事