帰省前に考えたい、実家を「凶器」にしないための「親亡き後の実家」の相続。

実家を「空き家」にしないために「親亡き後の実家」について考えてみませんか。(写真:アフロ)

お盆休みをふるさとや行楽地で過ごす人たちの帰省ラッシュは、新幹線は明日10日、高速道路は明日10日から明後日11日にかけて、国内の空の便は本日9日から12日がピークになるようです(参考:NHK NEWS WEB)。

そこで、実家が親の所有物(つまり、親のもの)である方に、帰省する前に少し考えていただきたいことがあります。それは、親亡き後の実家のことです。

全国の空き家は846万戸

総務省は4月下旬、2018年の調査で、全国の空き家がアパートなどの空き室も含めて846万戸あると発表しました。この数字は、なんと総住宅数の13.6%を占めます。いずれも過去最高で、少子高齢化に伴い急増しています(詳しくは「実家」が「凶器」と化す瞬間~空き家850万戸の衝撃をご覧ください)。

所有者による適切な管理が行われていない空き家の中には、次のような多岐にわたる問題を引き起こしています。

・安全性の低下

・公衆衛生の悪化

・景観の阻害 等

中には、地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしているものもあります。

国も空き家対策として、倒壊の恐れや衛生上の問題がある空き家を自治体が撤去できるようにするために「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下「空家法」という)を2014(平成26)年に成立させました。 しかし、個人の所有物を撤去することはそう簡単なことではありません。空き家対策は遅々として進んでいないのが現実です。

空き家の元凶~親の相続

空き家を発生させてしまう原因の一つに親の相続があります。

人が死亡すると相続が発生する

人が死亡すると相続が発生します(民法882条)。

民法882条(相続開始の原因)

相続は、死亡によって開始する。

相続が開始すると、死亡した人(=被相続人)の財産に属した一切の権利義務は、例外を除いて、すべて相続人が継承します(民法896条)。

民法896条(相続の一般的効力)

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

実家が「共有」になってしまう

この結果、実家の所有者である親が死亡したその瞬間に、実家は相続人の共有財産になってしまいます。そして、共有の割合は法定相続分に基づきます。

たとえば、父親が死亡した場合、母親(=配偶者)が2分の1、子どもは残り2分の1を子の人数で均等割りした割合で実家を含めた亡き父の遺産を引き継ぐことになります。

具体的に分け合う~遺産分割協議

一般に、相続人は共有の割合では相続しません。なぜなら法定相続分で相続しては通常使い勝手が悪いからです。たとえば、共有の状態では、亡き親の実家を取り壊し土地を更地にして売却したい場合は、共有者である相続人全員の合意が必要になります。 一人でも反対したら処分はできないのです。また、処分までしなくても、共有のままでは権利関係が複雑になってしまうのでこれもまた使い勝手が悪くなってしまいます。

そこで、通常は、具体的に「だれが何をどれだけ相続するか」を相続人全員で話し合って決めることになります。この話し合いのことを遺産分割協議といいます。

つまり、相続が発生すると、いったんは民法が定めた法定相続分の割合で亡き親の実家を含めた遺産が相続人全員に移転します。しかし、これでは使い勝手が悪いので、相続人全員で協議をして「だれが、何を、どれだけ引き継ぐか」といったように具体的に遺産を分け合うということです。

相続人全員の合意が必要

遺産分割協議を成立させるには、相続人全員の合意が必要です。多数決では決められません。そのため、協議が難航してしまうと、亡き親が残した財産の処分ができなくなってしまいます。当然、実家も例外ではありません。

遺産分割協議が難航するパターン

遺産分割協議の成立が難航するパターンをご紹介します。

相続人が散らばっている

相続人が全国に散らばっていたり、海外に居住しているなどして話し合いの場が設けにくいケースです。「メールでやりとりすればいいじゃない」とお考えの方もいるかもしれませんが、お金が絡む問題はそう簡単にいかないのが通常です。

親が認知症

たとえば、母親が認知症等で父親が死亡した場合、母親は意思能力が低下しているため遺産分割協議のような法律行為を行うことができません。この場合、遺産分割協議を行う前に、家庭裁判所に成年後見の申立てを行わなければなりません。そうなると、遺産分割協議の成立まで長期間を要することになってしまいます。

家族仲が悪い

仲が悪ければ話し合いは当然上手くいきません。

親が離婚経験者

亡き親が離婚経験者で前婚で子どもを儲けていた場合、会ったことがない親の前婚の子どもと協議をすることになります。このような状況では協議が難航することは想像に難くありません

「遺言書」で空き家問題を回避する

親が遺言を残してくれさえすれば、遺産分割協議をすることなく遺産を承継することができます。もし、上記のような遺産分割協議が難航するパターンに当てはまるようなら、親に遺言を残してもらうように促してみるのも一つの方法です。

事実関係を調べることから始める

そうは言っても親に「遺言を残してください」といきなり切り出すのは逆効果です。「俺に死んでほしいのか!」と険悪な雰囲気になりかねません。

そこでお勧めしたいのは、まずは事実関係を調べてみることです。

家の所有者を確認する

実家の不動産登記簿謄本(=登記事項証明書)を法務局で取り寄せてみましょう。そして、誰が所有者であるか確認しましょう。ひょっとしたら、父親のみが実家の所有者だと思っていたのが、父親と母親の共有であったということはよくある話です。なお、登記事項証明書は、全国どこの法務局でも取り寄せることができます。また、郵送やインターネットでも取り寄せることができます。

相続人を確認する

親の相続人を確認するために戸籍謄本を収集してみましょう。なお、戸籍謄本は本籍地に請求します。

空き家問題の資料を集める

そして、空き家が引き起こす問題の記事を集めてみましょう。そして、タイミングを見計らって、親に空き家問題について記事を見せながら話してみましょう。すると、親の実家に対する考えを聞くことができるかもしれません。

その親の意見を尊重する内容の遺言書を残すことを提案してみると、案外すんなりと遺言を残してくれるかもしれません。

いつまでも遺言を残せるわけではない

遺言はいつでも残せるものではありません。遺言は法律行為です。したがって意思能力を有していることが前提になります。遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足る意思能力を遺言能力(民法963条)といいます。

民法963条(遺言能力)

遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

したがって、認知症などを発症してしまうと、たとえ形式的に遺言書を残したとしても、法的に無効となってしまうこともあります。「遺言は元気な内に残しましょう」といわれるのはこのためです。

遺言を残しやすくなった

国は、遺言を普及させることで争族を回避するために、今まで全文を自書しなければならなかった要件を財産目録に限り自書の要件を課さないなど、約40年振りに相続法を改正しました。詳しくは、この遺言書は無効です!~改正相続法の落とし穴ガラッと変わった相続法 ここに注意!vol.2~自筆証書遺言の保管制度をご覧ください。

いつかは訪れる親の相続。実家を空き家という凶器にしないためにも、帰省を機会に親亡き後の実家について考えてみてはいかがでしょうか。