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この遺言書は無効です!~改正相続法の落とし穴

竹内豊行政書士
相続法が改正されて遺言が残しやすくなりました。ただし、注意することがあります。(写真:アフロ)

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号。平成30年7月6日成立。)のうち、自筆証書遺言の方式の緩和に関する部分が、平成31年1月13日に施行されました。

財産目録は自書しなくてもよくなった

これにより、改正前は自筆証書遺言をする場合には、遺言者が、遺言書の全文、日付および氏名を自書(=自ら書くこと)して、これに印を押さなければならないと定められていました(民法968条1項)。つまり、財産目録を含めて全てを自分で書かなければなりませんでした

今回の改正によって新設された同条2項によって、自筆証書によって遺言をする場合でも、例外的に、自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録(=「財産目録」)を添付するときは、その目録については自書しなくてもよいことになりました

財産目録を作成すると便利な場合

遺言書には、しばしば、「○○をAに遺贈する。」とか「△△をBに相続させる。」といった記載がされます。遺言者(=遺言書を書く人)が多数の財産について遺贈等をしようとする場合には、まず、次のように本文に書きます。

・「別紙財産目録1記載の財産をAに遺贈する。」

・「別紙財産目録2記載の財産をBに相続させる。」

その上で、別紙として「財産目録1および2を添付する」という方法が手軽で便利です。

このように,遺贈等の目的となる財産が多数におよぶ場合に「自書によらない財産目録」が作成されると考えられます。これにより、多数の財産を自書する負担が減るので、自筆証書遺言を残す人が増えることが期待できます。

財産目録の作り方

目録の形式については、署名押印のほかには特段の定めはありません。したがって,書式は次のように自由です。

・遺言者本人がパソコン等で作成する

・遺言者以外の人が作成する

・土地・建物の「登記事項証明書」(不動産登記簿謄本)を財産目録として添付する

・預貯金の通帳の写しを添付する

自筆証書遺言のサンプルはこちら(引用:法務省ホームページ)をご参照ください。

ただし、財産目録を添付する場合には、注意しないとせっかく残した遺言が無効になることがあります

こういう遺言は無効になる

改正後の民法968条2項は、遺言者は、「自書によらない財産目録」を添付する場合には,「その毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名押印をしなければならない」と定めています。また、財産目録を訂正する場合も、訂正方法が規定されています。

民法968条(自筆証書遺言)

1.自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2.前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3.自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

したがいまして、次のような自書によらない財産目録は無効となるおそれがあります。十分注意してください。

財産目録に署名押印がない

自書によらない記載が用紙の片面のみにある場合には,その面又は裏面の1か所に署名押印をしなければなりません。この署名押印がないと無効になるおそれがあります。

財産目録の片面にしか署名押印がされていない(両面に記載がある場合)

自書によらない財産目録の記載が両面にある場合には,両面にそれぞれ署名押印をしなければなりません。

したがいまして、両面に記載があるにもかかわらず、片面にしか署名押印がされていないと無効になるおそれがあります。

なお、押印について特別な定めはありません。したがいまして、本文で用いる印鑑とは異なる印鑑を用いても構いません。

本文と同一の用紙に「自書によらない財産目録」が記載されている

今回の改正は,自筆証書に財産目録を「添付」する場合に関するものです。したがいまして、「自書によらない財産目録」は本文が記載された自筆証書とは別の用紙で作成される必要があます本文と同一の用紙に自書によらない記載をすることはできません。ご注意ください。

方式違反の方法で訂正されている

自書によらない財産目録の中の記載を訂正する場合であっても、自書による部分の訂正と同様に、遺言者が、変更の場所を指示して、これを変更した旨を付記してこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じないこととされています。

つまり、訂正箇所に二重線を引いて、その上に訂正印を押して、正しい文言を記入する、といった通常の訂正方法とは異なります

民法に定められた方式に違反した方法で訂正すると、無効になるおそれがあります。訂正をする場合は、新たに作成し直すのが無難でしょう。

訂正した自筆証書遺言のサンプルはこちら(引用:法務省ホームページ)をご参照ください。

相続法改正により、「自書によらない財産目録の添付」によって自筆証書遺言を残す人が増えることで、より多くのご家庭で円満な相続の実現が期待できます。しかし、せっかく残した遺言に、以上ご紹介したような方式違反があると、遺言の有効・無効を争う事態も招きかねません。せっかく残した遺言書が、「争族の種」にならないように、遺言を残すときには十分気を付けてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『親に気持ちよく遺言書を準備してもらう本』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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