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ガラッと変わった相続法 ここに注意!vol.2~自筆証書遺言の保管制度

竹内豊行政書士
自筆証書遺言が法務局で保管できるようになります。ただし、注意が必要です。(写真:アフロ)

平成30年7月6日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(改正相続法)が成立して相続の姿がガラッと変わりました。

そこで、相続法が変わったことによる注意点をシリーズでご紹介します。

第1回の自筆証書遺言の残し方に続いて、今回は「自筆証書遺言の保管制度」です。

改正相続法に伴い、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下「遺言書保管法」といいます)が制定されました。この法律によって自筆証書遺言を公的機関である法務局に預けることができるようになります。では、さっそく見ていくことにしましょう。

今まで~「自己責任」で保管しなければならなかった

遺言の効力は、遺言を残した人(=遺言者)が亡くなったその時から発生します(民法985条1項)。

(遺言の効力の発生時期)

985条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

ふつう、遺言書を残してから死亡するまでは、特殊な事情がある場合を除いて、一定期間あります。その間、遺言者は、自身の負担と責任で自筆証書遺言を保管しなければなりませんでした。そのため、せっかく残した遺言書を紛失してしまう他、次のようなリスクが伴いました。

・相続人によって遺言書が隠匿・変造されてしまう。

・相続人が遺言書の存在を把握することができないまま遺産分割協議が終了してしまう。

・遺産分割協議が終了した後に、遺言書が発見されて遺産分割協議が無駄になってしまう。

・複数の遺言書が発見されたり、一部の相続人が遺言書の無効を主張して深刻な紛争が生じてしまう。

そこで、このようなリスクを回避して、遺言者の死後に速やかに遺言を執行するために、平成30年7月の相続法改正に伴い、遺言書保管法が制定されました。

こう変わる~法務局で保管できるようになる

遺言書保管法によって、自筆証書遺言を確実に保管し、相続人がその存在を把握することができる仕組みが設けられました。

法務局に保管できるようになる

自筆証書遺言を作成した者(=遺言者)が、公的機関である法務局に遺言書の原本を委ねることができるようになります。

保管機関

自筆証書遺言を保管できる機関(「遺言書保管所」といいます)は、次の1または2の法務局です。

1遺言者の住所地もしくは本籍地 

2遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局 

保管を申請できる人

保管を申請することができるのは、自筆証書遺言を作成した本人に限られます。そして、保管の申請は、遺言者みずからが遺言書保管所に出頭して行わなければなりません。

保管方法

遺言書は、遺言書保管官がその原本を遺言書保管所の施設内において保管するとともに、その遺言書に係る情報を磁気デスク等に画像処理化して管理します。

遺言書の返還・画像情報等請求

遺言者は、遺言書を保管している法務局に対し、遺言書の返還と画像情報等の消去を請求することができます。また、閲覧を請求することもできます。この請求は、遺言者みずからが法務局に出頭して行わなければなりません。

閲覧請求権

死亡した者の相続人、遺言書で受遺者と記載された者、遺言書で遺言執行者と指定された者等は、遺言書保管官(=遺言書を保管している遺言書保管所に勤務する法務事務官のうちから、法務局又は地方法務局の長が指定する者)に対し、その遺言書の閲覧を請求することができます。ただし、閲覧請求は、遺言者の死後に限定されています。

検認を免除される

自筆証書遺言の保管制度により保管されている自筆証書遺言書については、検認の規定(民法1004条1項)の規定は適用されません。

1004条1項(遺言書の検認)

遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認注)を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

通常、検認は1か月~2か月程度かかります。また、検認をしないと遺言執行(不動産の名義変更や預貯金の払戻し等)ができません。検認免除により速やかな遺言執行が期待できます。

注)検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状・加除訂正の状態・日付・署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にすることで遺言書の偽造・変造を防止するための手続。このように検認は証拠保全の手続であって遺言の有効・無効を判断する手続ではない。

ここに注意!遺言書の保管制度

自筆証書遺言の保管制度の注意点をご紹介します。

内容は自己責任

遺言書の保管が申請された際には、法務局の遺言書保管官は、当該遺言が法律が定める方式(民法968条)に適合しているか否かを審査します。しかし、内容までは審査しません。

つまり、日付・署名押印など形式的な審査は行いますが、適法性や有効性等の内容についての審査権限まではありません。したがって、内容については今までと同様、自己責任となります。 

遺言の撤回は保障されている

遺言者は、自筆証書遺言の保管制度を利用しても、遺言の撤回(将来に向けて無効にすること)は保障されています。つまり、従来と同様に遺言を新たに作成することができます。

施行は2020年7月

遺言書保管法は2020年7月10日に施行されます。その日以前に法務局に自筆証書遺言を持ち込んでも法務局は受け取りません。したがって、施行日までは今まで通り自己責任で保管するしかありません。

遺言書の目的は、「残すこと」ではなく、内容を死後に速やかに実現(=執行)することです。遺言書保管法による「確実な保管」は有効な手段です。しかし、あくまでも保管を保障する制度であり、内容を保障するものではありません。内容はあくまでも自己責任です。遺言書を作成する際には、このことを肝に銘じておいてください。

「ガラッと変わった相続法 ここに注意!」 バックナンバー

vol.1自筆証書遺言の残し方

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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