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冬アニメ対決、ディズニー「ウィッシュ」とポノック「ラジャー」の大きな違い 興行の明暗が分かれるか

武井保之ライター, 編集者
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 今年の冬休み映画の大本命である、ファンタジー長編アニメーション大作の2作が12月15日に公開される。ディズニー創立100周年記念作『ウィッシュ』とスタジオポノック6年ぶり長編2作目『屋根裏のラジャー』だ。2024年興行の行方を占う2作だが、そこには内容の共通点とメッセージ性の相違点がある。興行は明暗が分かれるかもしれない。

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ディズニー100年の集大成 VS 1年半公開延期した渾身作

 1923年に設立したディズニーの100周年記念作となる『ウィッシュ』。世界的ヒット作『アナと雪の女王』(2014年)の共同監督、脚本を担当したことでも知られるウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのCCO(クリエイティブ責任者)、ジェニファー・リー氏が製作総指揮、脚本を手がけたオリジナル作品だ。

 どんな“願い”も叶うと言われるロサス王国を舞台に、王国に暮らす少女・アーシャと星から舞い降りたキャラクターのスターが、仲間たちとともに王国に奇跡を起こすファンタジーミュージカル。世界中の子どもたちに夢と希望を与えてきたディズニー100年の歴史の集大成であり、未来への願いを込めた作品になる。

 一方、『屋根裏のラジャー』は元スタジオジブリのプロデューサーであり、スタジオポノック社長の西村義明氏がプロデュースを務める、ポノック6年ぶりの長編2作目。西村氏といえば、ジブリ時代に『かぐや姫の物語』(高畑勲監督)が「第87回米アカデミー賞」、『思い出のマーニー』(米林宏昌監督)が「第88回米アカデミー賞」長編アニメーション映画部門にノミネートされ、本場の授賞式に2度参加した数少ない日本人プロデューサーとしても知られる。

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 そんな辣腕プロデューサーの西村氏が、クリエイティブにこだわり抜いた渾身の作品。そもそも昨年夏公開予定だったところを1年半延期し、会社存続を危うくしながらも完成にこぎつけた“話題作”でもある。

 イギリスの児童文学『ぼくが消えないうちに(原題「The Imaginary」)』が原作。少女アマンダの想像が生み出した、世界の誰にも見えない少年ラジャーを主人公に、忘れられていく少年たちの決して忘れられない物語を描く。

普遍的なメッセージ VS 現実社会の隠喩

 両作とも子ども向けファンタジー長編アニメーション映画だが、そこには内容の共通点とメッセージ性の相違点がある。

 共通するのは、子どもたちが物語を楽しみ、幸せな気持ちになれる映画であること。紛争などの不穏な空気に包まれるなか、毎日の生活や未来に不安を感じている子どもたちは多いことだろう。そんな時代に、表面的に楽しめてハッピーになれる映画は必要であり、2作ともその側面がある。

 一方、それぞれの物語そのものや表現の裏にあるメッセージの性質は、大きく異なる。『ウィッシュ』には、ディズニーが100年を通じて届けてきた普遍的なメッセージが根底にあり、人類100年史を全体として抽象的に捉えて、子どもたちに“願いを叶える”ために大切なことを説く。

 それとは対照的に『屋根裏のラジャー』は、子どもたちにいま伝えるべき現実社会の具体的な事象や出来事をメタファーとして埋め込んでいる。そこには、未来のために子どもたちが考えなければならないこと、立ち向かわなくてはいけないことをまっすぐに語りかけるような力強さを秘めている。

 大人が見れば、両作のメッセージ性の違いを肌で感じることだろう。

 どちらがおもしろい作品か。どちらを子どもたちに見せたいか。その答えは、人それぞれの嗜好のほか、社会的な属性によっても感じ方が異なるかもしれない。自分の場合は、どちらも『屋根裏のラジャー』だ。

 両作とも、すばらしいアニメーション映画であることは間違いない。子どもたちは楽しんで見ることだろう。なかには、2度、3度と見に行くうちになにかを感じて、気づきを得るかもしれない。また、いまは楽しいだけでも、10年後にこういうことを伝えようとしていたのかと気づくかもしれない。

 そんな、決して表面的なおもしろさだけではない、深みと奥行きがある2作。年末年始に子どもや友人たちと語らい合ういいきっかけになりそうだ。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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