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「VIVANT」は視聴者参加型の謎解きクイズか 時代の視聴形態に即したドラマの進化と真価

武井保之ライター, 編集者
TBS日曜劇場「VIVANT」公式サイトより

 日曜劇場「VIVANT」(TBS系)の話題が盛り上がっている。SNSではさまざまな考察が飛び交い、毎週放送日前後にはネットニュースの見出しに番組名があふれる。そんな「VIVANT」について思うのは、視聴者参加型の謎解きクイズ番組的に楽しまれているということ。一般的なドラマとは、楽しみ方が異なると感じる。

答えあわせに生じるカタルシスが生み出す中毒性

 今期でいえば、「最高の教師 1年後、私は生徒に◾️された」(日本テレビ系)や「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系)が、頭ひとつ抜け出したドラマとしてのおもしろさがある。ストーリーの奥深さ、現実社会とのリンク、リアルとは異なるドラマならではのメッセージ性があり、それらがキャスト陣の好演と噛み合って、視聴者の感情を動かしている。

 一方、SNSの話題性やネットニュースの数などを見ると、「VIVANT」が今期もっとも盛り上がっているドラマであることは間違いない。劇中の伏線や謎解きにつながるヒントなどの仕込みのほか、放送の外側でも公式からの匂わせや答え合わせ的な発信が視聴者をくすぐっている。

 そこからは、本作が考察視聴者へのホスピタリティに優れたドラマであることを感じさせる。彼らを食いつかせる細かなフックをいくつも仕込み、その考察が当たっても外れても答えあわせをすることにカタルシスを生じさせ、気づけばその沼に深くハマっている。

 そんな中毒性のある楽しみ方を提供し、ムーブメントになっているのが本作のすごさだろう。話題性でも視聴率などの数字でも間違いなく今期No.1のヒットドラマだ。

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視聴者を楽しませることを最優先した参加型ドラマ作り

 その成功の背景には、徹底した視聴者参加型のドラマ作りがありそうだ。

 2019年の「あなたの番です」(日本テレビ系)がひとつの転機になったが、ドラマをリアルタイムで視聴し、SNSで考察を語りあう考察視聴が一気に盛り上がった。録画や見逃し配信では、話題に取り残されてしまうし、SNSではネタバレが目に入ってしまうから、リアルタイムで視聴したい。そんな視聴動機を根付かせるとともに、テレビドラマの同時性を活かして楽しむ視聴スタイルとして、一般層に広く訴求した。

 そうしたなか、本作は視聴者を徹底的に楽しませることを最優先する、視聴者参加型ドラマの作り込みに注力してきたのではないだろうか。ストーリーに関係する伏線だけでなく、前半に登場するアイテムそのものやその色、登場人物の細かな仕草まで、後に意味を持たせるヒントとそれに対する答えを仕込み、本筋の謎に迫るように綿密に設計されている。

 いまの視聴者が求めるドラマの楽しみ方への対応を追求した結果、それが狙い通りのリアクションを得ていることがうかがえる。一方、ドラマファンからは、なにかを伝えるための映像作品であるドラマではなく、視聴者に迎合した楽しませるだけのドラマ作りに映るかもしれない。

 たしかに本作は、登場人物の行動原理やセリフで進行していく1本道のストーリーの奥行きと説得力に弱さを感じることもある。ドラマというよりも、謎解きクイズ番組のような楽しみ方のバラエティの進化形という見方もできるかもしれない。

 しかし、ドラマとしてのおもしろさや評価は時代によって変わるものであり、いかに視聴者を楽しませるか、どれだけ見られるかが、テレビ番組としてのドラマの本来のゴールであり、真価だろう。そう考えれば本作は、視聴ツールや環境および視聴形態が進化した、いまの時代に即した優秀なエンターテインメントコンテンツであり、その振り切った作風は新たな成功事例になる。

 本作のあとに続くドラマはこれから増えるかもしれない。しかし、視聴者のエンターテインメントへのニーズは常に移ろい、流行り廃りの速さは尋常ではない。同じことを続けるのではなく、その先の新しいものを生み出すクリエイティブを期待したい。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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