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皇治は大晦日の『RIZIN』でシバターと闘うべきなのか?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
11・20沖縄『RIZIN.32』で復活を果たした皇治(写真:RIZIN FF)

「魔裟斗さんに感謝します」

「RIZINのリングで負け続けて、悔しい日々がずっと続いていたので(勝って)ホッとしました。これまで僕を支えて下さった方々、応援してくれたファンのおかげで、またリングに立てて勝つことができました。

祖根選手は漢だと思いましたね、自分に喧嘩を売ってきて、それも彼にとっては不利なルールで堂々と立ち向かってきてくれましたから」

11月20日、沖縄アリーナ『RIZIN.32』でキックボクシングルールのもと、MMA(総合格闘技)ファイターの祖根寿麻(ZOOMER)と対戦し判定完勝を収めた直後に、皇治(TEAM ONE)はそう話した。

1、2ラウンドは、ほぼ互角の攻防、そして迎えた最終の3ラウンドに皇治は左フックでダウンを奪ってポイント差をつけた(ジャッジは30-28/2者、30-27)。

凄まじい打撃の攻防だった。それでも決着が判定に至ったのは、互いに打たれ強く、また「気持ちで負けない」闘いをした証だろう。

激しい打ち合いで沖縄アリーナに集まったファンを熱くさせた皇治(左)と祖根(写真:RIZIN FF)
激しい打ち合いで沖縄アリーナに集まったファンを熱くさせた皇治(左)と祖根(写真:RIZIN FF)

目を引いたのは、皇治の動きの良さだった。以前に比べて、技を繰り出すフォームが安定していた、パンチにもキレが宿っている。かなりハードな練習を積んできたことがうかがえた。

「魔裟斗さんのお陰ですよ。練習方法、闘い方から生き方まで教えてもらいました。

今日、ダウンを奪った左フックは、飯田(裕)トレーナーからずっと教えられていたパンチです。僕を飯田トレーナーに繋いでくれたのは土居(進)トレーナーですし、そこに至るには、シルバーウルフの大宮司(進)さんの存在もあります。(この人脈は)まさに『チーム魔裟斗』ですよね。自分がバッティングで(試合を壊して)落ち込んでいる時も励ましてもらいました。魔裟斗さんには凄く感謝しています」

9月から飯田、土居両トレーナー指導のもと、皇治はハードなトレーニングに身を浸した。

「すべて変えました。練習方法も闘い方も。飯田さんには最初にミットを持ってもらった時に『お前は格闘技を始めて3日目か』って言われましたし、『女の子みたいな手してるなあ』って笑われていたのに、いまは拳タコだらけですよ。ここまでやってきたことが、ダウンを奪った左フックにつながったと思います。

あの左フック、魔裟斗さんみたいだったでしょ。スパーンと。魔裟斗さんが(アルバート・)クラウスに見舞った時のように、もう相手は立ってこれないと思ったんですけど、スッと立ってきましたね。『立ってくるんかい』って突っ込みたくなりましたよ(笑)。まだまだですね。これからも日々、努力しようと思っています」

6月の『RIZIN.29』では、自らが主役でありながらバッティング騒動を起こし大会をぶち壊した。その直後には暗い表情で「引退も考えたい」と口にした皇治だったが、そこから再起。RIZIN初勝利も飾り、秋の沖縄で明るさを取り戻した。

試合後、メディアからの質問に答える皇治。試合を振り返り勝因に触れた後、「大晦日は盛り上がる試合ができれば相手は誰でもいい」と話した(写真:SLAM JAM)
試合後、メディアからの質問に答える皇治。試合を振り返り勝因に触れた後、「大晦日は盛り上がる試合ができれば相手は誰でもいい」と話した(写真:SLAM JAM)

シビアな闘いが観たい

さて、近づくRIZIN大晦日決戦─。

激しい試合を終えたばかりだが41日後にも、皇治はリングに上がるつもりだ。

「自分が出ないと盛り上がらんでしょ。やりますよ。

シバターは嘘ばっかりついて、人の噂話で金稼いで、同じ階級の選手、ボビー(・オロゴン)とも闘う勇気がない。それで小っこい(体重が軽い)俺らばっかりに喧嘩を売って漢らしくないでしょ。漢とはどういうものかを教えてやらないといけないですね」

シバターからは、YouTubeでたびたび挑発を受けている。これには皇治もかなり頭にきているようだ。

「喧嘩を売られたので、堂々と闘ってわからせてやろうと思います」

皇治はそう話したが、両者の闘いは競技として成立しないだろう。体重に開きがあり過ぎる。MMA、キックボクシング、あるいはミックスルールのいずれで行ったとしても、そこに勝負論はない。客寄せ目的の余興にしか見えないのだ。

大晦日の大会はフジテレビ系列で全国に長時間にわたり放映される。RIZINにとって年間最大のイベントだ。従来の格闘技ファンだけではなく、広く一般の視聴者を取り込みたいとの思いが主催者サイドに強くある。だが今回、「お茶の間担当」はボビー・オロゴンに任せてもよいのではないか。

32歳にして皇治は、キックボクサーとして変革期を迎えている。急成長の予兆もある。そんな時に、シバターと向き合う必要はないだろう。単なる盛り上げ役に徹するのは、勿体ない。

もちろん皇治は、シバターとの試合に固執しているわけではない。

大晦日の対戦相手候補として何人かを挙げ、その中には、同じ元K-1ファイターの大雅(TRY HARD GYM)の名もあった。

「皇治vs.大雅」が面白いと私は思う。

大雅は、皇治よりも一足早く戦場をK-1からRIZINに移した。だが、思うような好成績は残せていない。白鳥大珠(TEAM TEPPEN)、原口健飛(FASCINATE FIGHT TEAM)といったRISEのトップファイターたちに敗れRIZIN戦績は3勝4敗1分け。

それでも昨年秋から巻き返し、11月14日・RISE大阪大会では梅野源治(PHOENIX)に勝利を収めており昇り調子だ。

RIZINキックボクシング戦線での生き残りをかけて皇治と大雅が対峙するのは、必然ではないか。約4年半前(2017年6月)にK-1のリングで、ふたりは一度闘っている。この時、皇治は判定で敗れており、リベンジのチャンスでもあるのだ。

「大晦日のRIZINを盛り上げたい。そのためなら相手は誰でもいいですよ」と皇治は言う。

では、いまの皇治に何を見たいか?

話題性に頼ったバラエティファイトではない、勝負論が存在するシビアな闘いだ。本当は皇治も、それを望んでいるはずである。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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