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反則連発の皇治は引退するのか──まさかの展開に場内騒然の『RIZIN.29』で何が起きた?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
「ワンナイトトーナメント」に必勝を期した皇治だったが(写真:RIZIN FF)

「非は自分にあります」

「まず、梅野選手に心から申し訳なかったと思っています。(バッティングは)ワザとではありません。とはいえ、許されない攻撃で相手にダメージを与えるのは反則です。非は自分にあります。梅野選手にも、梅野選手のファンにも、今日の試合を楽しみにして観てくれたRIZINファンにも謝りたい」

試合後、両眼の周りを黒く腫らし、傷だらけの顔でインタビュースペースに姿を現した皇治は、謝罪の言葉を幾度も口にした。いつものビッグマウスは影を潜め、表情からは憔悴し切った様子がうかがえた。

試合後、メディアからの質問に答える皇治。憔悴し切った様子で幾度も謝罪した(写真:SLAM JAM)
試合後、メディアからの質問に答える皇治。憔悴し切った様子で幾度も謝罪した(写真:SLAM JAM)

6月27日、丸善インテックアリーナ大阪『RIZIN.29』で開催された4選手参加の「KICKワンナイトトーナメント」は、場内が騒然となる「まさか!」の展開となった。

トーナメント1回戦の皇治(TEAM ONE)vs.梅野源治(PHOENIX)。

試合開始40秒過ぎ、互いにパンチを交錯させる中で皇治の頭部が、かち上げるように梅野の顔面を直撃した。

試合は一時、ストップ。梅野の状態をチェックしたリングドクターは「眼窩底および鼻を骨折している可能性が高い」「軽度の脳震盪を起こしている」ことから続行不可能と診断。また、レフェリーは「偶然のバッティング」と判断したため、試合はノーコンテストとなり梅野は病院に直行した。

もう一つのトーナメント1回戦では、白鳥大珠(TEAM TEPPEN)が高橋亮(真門)に1ラウンドKO勝利を収めたが、決勝戦の相手が不在となってしまったのである。

この時点でトーナメントは不成立かと思われた。

<1回戦勝者が負傷などで決勝戦に進出できない場合は、リザーバーを設けずに決勝戦は行わない>

事前に、そう定められ発表されていたからだ。

だが厳密にいえば今回のケースは、これに当てはまらない。なぜならば、「1回戦勝者」が不在で試合が「ノーコンテスト」になっているからである。

そのため、RIZINとトーナメント参加4選手の間で協議が行われ、結果、決勝戦は白鳥と体調的に闘える状態にある皇治の間で行われることになった。

梅野はさぞかし悔しかったことだろう。これでは敗者扱いではないか。だがプロとしてイベントを成立させるために納得せざるをえなかったと思われる。RIZINは単なる競技会ではなく、「観客を満足させる」興行の側面を持つということだ。

このままでは終われない

決勝戦も荒れた展開となった。

1ラウンドにダウンを奪われた後、皇治がバッティングを繰り返す。そして急所蹴り。結果は、白鳥がフルマークの判定勝ちを収め優勝するも後味の悪い試合だった。

トーナメント決勝戦。白鳥大珠(右)の猛攻に必死に耐える皇治(写真:RIZIN FF)
トーナメント決勝戦。白鳥大珠(右)の猛攻に必死に耐える皇治(写真:RIZIN FF)

これらの反則も皇治が言う通り、故意ではなかったと思う。だが、彼のファイトスタイルが試合を後味の悪いものにしたことは確かだ。皇治は接近戦でパンチを振るう際に、頭を揺らしながら突っ込ませる癖がある。

昨年9月の那須川天心戦でも、これは見られた。それでも那須川はさすがで、持ち前のスピードとテクニックを駆使し見事にかわしていた。とはいえ、そんな芸当を誰もができるわけではない。

だから、リング上でマイクを握った白鳥は皇治に向けて言った。

「バッティングは気を付けてください。本当に危ないですよ」と。

皇治は、キックボクサーとして闘い続けるなら頭部を前に出さずにパンチを繰り出せるファイトスタイルを身につけるべきだろう。「頭が当たった時は仕方がない」という考え方は許されない。キックボクシングは、ルールあっての競技なのだから。

リング上でチャンピオンベルトを腰に巻きマイクを握った白鳥大珠(写真:RIZIN FF)
リング上でチャンピオンベルトを腰に巻きマイクを握った白鳥大珠(写真:RIZIN FF)

試合後の共同インタビューでは、こんな質問も飛んだ。

「現役引退も考えているのか」

皇治は答えた。

「いっちょ前なことばかり言ってきましたけど、これからは若い選手たちに盛り上げてもらいたいなと思います、それも考えないといけないかもしれない」

皇治は、このまま引退してしまうのか?

いや、それはないだろう。このままで終われるはずがない。

RIZINに対して「KICKワンナイトトーナメント」を提案し実現に漕ぎ着けたのは皇治である。今回、トーナメントに出場した選手の中で誰よりも彼はきつい思いをしてきたのだ。スポンサーを集め、チケットを売り、記者会見では対戦相手を挑発し世間の注目が向くように盛り上げ、多忙な中でカラダを苛め抜いてコンディションも整えた。

ただ盛り上げたかっただけではない。競技者として真剣に優勝を目指していたのだ。そこまでした結果、自らのバッティングでイベントをぶち壊し、決勝で敗れRIZIN3連敗(1無効試合を挟む)。こんな悲惨な状況のままでグローブを吊るせるはずがない。

いまは落ち込みが激しく弱気になっていることだろう。だが時間が経てば思うはずだ。

「このままでは終われない」と。

皇治は必ずリングに帰ってくる。何よりも大切な応援してくれるファンのために。現役続行が、さらに苛烈なチャレンジであることを覚悟したうえで──。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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