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朝倉未来は引退するのか?『RIZIN.28』敗北直後の衝撃発言を考察する──。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
6月13日・東京ドーム、花道をリングに向かう朝倉未来(写真:RIZIN FF)

「幻想が打ち砕かれた」

「負けたことは悔しい。でも(クレベル・コイケと)闘えたことはよかったと思っています。強かったですね、クレベル選手は。これからのことは引退も含めて、ちょっと考えます」

6月13日、東京ドーム『RIZIN.28』のメインエベントで朝倉未来は、柔術ファイター、クレベル・コイケと対戦。2ラウンド1分過ぎにコーナーポスト際でグラウンドに引き込まれトライアングルホールド(三角絞め)を決められてしまう。タップを拒むも失神し敗北を喫した。

その直後に報道陣を前に「引退も考えている」と発言。衝撃が走った──。

右眼の周りを腫らしてインタビュースペースに現れた朝倉未来は「落胆している」と口にする。その後、SNS上で応援してくれたファンに向けて感謝の言葉を綴った(写真:SLAM JAM)
右眼の周りを腫らしてインタビュースペースに現れた朝倉未来は「落胆している」と口にする。その後、SNS上で応援してくれたファンに向けて感謝の言葉を綴った(写真:SLAM JAM)

朝倉は、こう続けた。

「格闘技を始めてから10年近く経ちました。アウトサイダーから始めて今日、こんな大きな舞台に立つことができた。でも、どうなんだろう。ここで負けて今後、格闘技を続ける意味があるのかどうか。

自分の中で自分に対する幻想が打ち砕かれました。落胆しています。トップを目指せないならやる意味がない、やめた方がいい。少し時間を置いて、周りの意見も聞いて考えます」

朝倉のコメントとともに、試合を少し振り返ってみよう。

「理想は判定勝ち。テイクダウンをさせずに圧倒的に攻めて勝つ」と試合前に朝倉は話していたが、そうはならなかった。

1ラウンドから幾度もグラウンドに引き込まれ、試合のペースをクレベルに握られてしまう。それでも引き込まれた状態からのエスケープに成功していた。

「クレベル選手の組みの力は強くなかった。だから安心してしまった。でも、力感はなくても上手さがありました」

グラウンドに引き込もうとするクレベル。1ラウンドは、この状態からエスケープに成功していた朝倉だったが(写真:RIZIN FF)
グラウンドに引き込もうとするクレベル。1ラウンドは、この状態からエスケープに成功していた朝倉だったが(写真:RIZIN FF)

エスケープ直後に左右のフックをヒットさせ、クレベルをグラつかせるシーンもあった。だが、この場面で朝倉は一気に攻め込まなかった。

「打撃に関して言えば、テイクダウン・デフェンスをしなければとの意識から、踏み込めないところもありました。

(左右のフックでグラつかせた時も)まだ目が死んでなかった。だから不用意に行くと危ないなと思ったんです」

そして2ラウンド、完璧に絞められるもタップをせず失神した最後のシーン。

「コーナーポストに押しつけていたので、(技が)入るとは思いませんでした。油断しました。タップをするつもりはなかった。でも試合を終えて(クレベルが)勝ち続けている理由が理解できました」

かくして「路上の伝説」は完敗を喫した。

コーナーで三角絞めを完璧に決められた朝倉。だがタップはせずに意識を失う。この後、レフェリーが試合をストップ。2R1分51秒、テクニカル・サブミッションでクレベルが勝利を収めた(写真:RIZIN FF)
コーナーで三角絞めを完璧に決められた朝倉。だがタップはせずに意識を失う。この後、レフェリーが試合をストップ。2R1分51秒、テクニカル・サブミッションでクレベルが勝利を収めた(写真:RIZIN FF)

格闘技が好きだから

さて、朝倉未来は、本当に引退してしまうのか?

この日、第7試合で渡部修斗に快勝した弟の朝倉海は言った。

「悔しい。兄が毎日、真剣に格闘技と向き合い努力している姿を間近で見てきました。だから、絶対に勝って欲しいと願っていました。それだけに悔しい。

自分の中には、まだやって欲しいという気持ちが強くあります」

RIZIN榊原信行CEOも、朝倉の発言に触れた。

「こんなところで、やめさせる気はありません。やめられませんよ、未来も。今日ガッカリしたファンの溜飲を下げる試合をしてからでないと。話をして、相応しい復帰の舞台を用意したいと思います」

また、RIZINバンタム級王者の堀口恭司もSNSでメッセージを発した。

「未来君、やめないでほしいな!!」

朝倉未来はクレベルとの闘いに、これまでの試合以上に真剣に向き合ってきた。そして敗れた。

格闘技に対して真摯な男だ。

「生涯初の一本負け=死」と捉えているのだろう。

真剣に向き合ってきた分だけ、落胆が大きかった。だから「引退も考えている」と素直な気持ちを口にした。だが、時間が経てば気持ちも変わるかもしれない。

ここまで突っ走ってきた。少し休養も必要だろう。時間をかけて進退は考えればいいと思う。

「30歳で現役を引退する」

そう公言する朝倉に以前、尋ねたことがある。

何故、30歳を区切りとするのか、と。

彼は答えた。

「30歳で引退しないとずっと続けちゃうので区切りをつけたい。格闘技が好きだから。他にもいっぱいやりたいことがあるし。やめたら二度とリングには上がらない。解説の仕事もしない。近くにいると、また闘いたくなっちゃいますから」

そう、心底から格闘技が好きなのだ。

朝倉未来は、再びRIZINのリングに帰ってくるだろう。

「闘い」という離れ難き刺激を求めて──。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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