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「日本は原潜保有せずとも議論は真剣にすべき」英キングスカレッジ、アレッシオ・パタラーノ教授が指摘

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
昨年10月に進水した海自の最新鋭潜水艦たいげい型2番艦「はくげい」(筆者撮影)

「日本は、戦略見直しのプロセスを通じて、ミサイルの脅威に対抗するための能力を含め、国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する決意を表明した」。7日に開かれた日米両国の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の共同文書は、こう述べている。

「敵基地攻撃能力を含め、あらゆる選択肢を排除せず検討する」との表現は最近では岸田文雄首相と岸信夫防衛相の決まり台詞(せりふ)のようになっているが、その言葉には本当に身が入っているだろうか。

例えば、「あらゆる選択肢を排除せずに検討する」と言うのであれば、日本の原子力潜水艦の保有の可否は検討されるのか。

筆者は昨年12月21日の岸田首相の記者会見に参加し、質問者として指名されなかったため、岸田首相に原潜保有の可否について書面で質問したところ、「現在、原子力潜水艦を保有する計画はありません」との回答が内閣広報室を通じてあった。

しかし、日本を取り巻く安全保障環境は急激に悪化している。はたして海上自衛隊は今後もディーゼル電気推進の通常動力で動く潜水艦の保有のみで大丈夫だろうか。

日本は原潜を保有すべきかどうか。東アジアの安全保障問題や海上自衛隊に詳しい英ロンドン大学キングスカレッジ戦争学部のアレッシオ・パタラーノ教授に聞いた。パタラーノ教授は「保有せずとも議論は真剣にすべき」と述べた。

海上自衛隊に詳しい英ロンドン大学キングスカレッジ戦争学部のアレッシオ・パタラーノ教授(本人提供写真)
海上自衛隊に詳しい英ロンドン大学キングスカレッジ戦争学部のアレッシオ・パタラーノ教授(本人提供写真)

――オーストラリアが原子力潜水艦の導入を決め、南北朝鮮も原潜の保有を目指している。日本も原潜を保有する必要があるか。

日本が原子力潜水艦を保有する必要があるとは思わない。しかし、1つの選択肢として真剣に議論されるべきだと思っている。日本のそうりゅう型潜水艦は、極めて傑出した最先端の推進装置を有している。これによって、オーストラリアや韓国、北朝鮮が得られるどんな選択肢よりも、日本は技術的に進化し、運用上も安定し、なおかつ財政的にも持続できる(潜水艦)能力を既に得ている。

しかしながら、原子炉が供給する継続的な電力に代わるものはない。原子力潜水艦は他の推進装置ではできないような方法で、カウンター攻撃といった新たな作戦や自律型無人潜水機(UUV)といった能力とセンサーをインテグレート(統合)でき、私たちもあれこれ検討することができるようになる。

したがって、日本が将来の活動で潜水艦により大きな戦略的価値を与えることを検討しているならば、原潜導入という選択肢を検討することは賢明な判断と言える。

しかし、これは簡単にできることではない。それは車を交換したり、ガソリンよりディーゼルを選んだりするような類いのものではない。原子炉を廃棄するのも高額になる。維持管理と保守手順についての現行システムも大幅に変わらざるを得ないだろう。

このような課題を軽減するためには、オーストラリアが行ったように同盟国やパートナー国を通じて、方法を探ることが1つの重要なテーマになるだろう。

――アメリカが将来、中国に対峙するため、日本に南シナ海での海自潜水艦による共同監視活動を求めてこないか。そして、そのために日本に原潜の保有を求めてくる可能性はないか。

日本がこれまで証明してきたことは、一般的に評価されているよりも、日本は日米同盟を上手に管理する機関を多く保有していることだ。議論の余地はあるかもしれないが、南シナ海地域では日本の能力構築支援活動が、日本がアメリカに提供できる最も重要なサポートになっている。

アメリカが日本の原潜保有に反対するとは思わない。歴史を振り返っても1952年時点で既にアメリカは日本の潜水艦保有に強く賛成していた。しかし、重要な問題となるのは、日本が本当に原潜を保有したいのか。そして、保有を望むのであればなぜか、ということだ。これらの質問に答えることがより重要になるだろう。なぜなら、その質問に答えることによって、日米がこれまで検討してこなかった選択肢を米国に与えることになるからだ。繰り返しになるが、安倍政権下での日本の南シナ海地域での事例が多くを示唆している。個々具体的にどのような能力が同盟に有用なのかをめぐる議論は、最も望ましい安全保障体制とは何かという事前協議の結果として常に生じている。それは決して先んじるものではない。

――日本には原潜を建造する技術が十分にあると思うか。

これは難しい質問だ。日本は、原子力推進をインテグレートする潜水艦を建造する技術的な能力を有していると思っている。しかし、それでも原子炉を建造したり、維持管理したり、放射性廃棄物を処理したりするためにはかなりの支援が必要になるだろう。例を挙げるならば、イギリスの経験が多くを物語っているだろう。

――日本の近隣諸国の反応についてはどう思うか。

それは「反応」の定義にもよる。原潜計画の発表当日ならどうだろうか。いくつかの近隣諸国が日本の過去に触れながら否定的な反応を示すことは想像に難くない。しかし、最近の記憶でも、そのような反応は防衛関連の日本の動きに対して常に起きてきた。

安全保障をめぐる東アジアの現実は急激に変化している。それ故に、日本政府当局者がパートナー国や競争相手国に対し、自らの能力の変化について明確な戦略的メッセージを伝えさえすれば、長期的な反応は当初よりも肯定的なものになるだろう。この場合、憲法上の取り極めとの文脈や整合性に関連する進展ぶりを上手く説明しなくてはならないだろう。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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